第70話 レッド

----------


 エストとかいう少年について詳しく調べなければならない。そう決意してから3日が経った。忘れていた訳じゃない、追加で現れた腹の傷を治してから取りかかろうとしていただけだ。


 セルバー村がスケルトンに破壊されたため、セルバー村の生き残った住民の大半は、ゼロワ村に流れた。何人かはリバイル村に来たのだが。その影響で、ルカとディールはそれらの説明や応対で忙しく、何日か家を帰ってきていない。ゼロワ村とのやり取りで忙しい……とかなんとか言ってたな。


 で、許可を取ってディールの家を借り、エストをそこに住まわした。”魔法を使える少年”が世に気づかれたら、何かと狙われやすくなる。何がとは言わないが。保護と……拘束するという意味も込めて、今はディールの家でエストの話を聞いている。


 どうやら、エストの親はまだランセル王国内にいるらしいが、何せランセル王国という国を俺たちは知らない。存在を知らない国に帰らすことなど以ての外、できるわけがない。


「----で、お腹を殴られて、気づいたら草原に居ました」


 エストの言い分をまとめるとこうだ。

 ランセル王国では15歳になると鑑定という儀式を受けるらしい。ランクが高ければ人生を謳歌でき、低ければ”低ランク”として、高ランクを支える身となる。ランクだけで職業が決まるといった狂った国だな。


 そこでエストの親友はGランク、本人はSランクと鑑定され、親友は王の手下の”怪物”に殺された。特徴を聞くに……モンスターに似ているようだが、その国では怪物と呼称するのか。


 で、彼は少女に助けられて、生き延びたのだが……罠だった様子。

 3人の仲間もいたが、実は少女が作り出した人形のようなもので、最後の最後には消された。エストはその少女に殴られ、気がついたらリバイル村近くの草原に立っていたとのこと。


 少女の名前は……レッド。

 彼が嫌がるのも無理はない。純粋無垢な少年の心を弄び、最終的には裏切ったのだから。これに関しては俺が悪かった。


 しかし、疑問点が多すぎる。

 ランセル王国が何処にあるか分からない。魔法の仕組みがよく分からない。鑑定や神本とかいうやつらの仕組みもまた理解できない。挙句の果てには、どうやって見知らぬランセル王国からリバイル村に飛ばされたのか、そこが1番分からない。


 何かの本で見た、裏世界ってやつなのかもな。あくまでも創作の中の話だから、当てにはしていないが。


「2人とも休め」


 ロックがグラスに飲み物を注ぐ。無意識のうちに、何時間かは話していたらしい。年頃の少年は厄介だと聞いたしそう思っていたが、意外と一緒にいれるものだな。


 どちらにせよ、ランセル王国とやらを探してみるしかない。または、レッドとかいう奴に会ってみるか。どこにあるか、どこにいるかも分からないやつらだから、少し時間がかかるかもしれないが、”魔法が使える国”というのは聞いたことがない。トールと深く関わりがあるのかもしれないし……いつか調査してみたいな。


 苦い飲み物の入ったグラスを手に取り、それを飲む。飲んでいくと、中に入っている黒い液体が徐々に緑色に光り始めた。


 これは薬草か、いや違う。外からの光だ。外から、緑色の光が差し込んでいる。差し込んでいる……いや違う。激しく光散らしている。

 背後を向くと、草原に緑色に光る渦がどこからともなく出現していた。直視していれば失明しそうなほど発光している。


 眩しい、これ以上見てはいけないと、野生の勘がそう言っている。エストとロックを机の下に避難させ、窓を布で隠し、光が少しでも入ってこないような工夫を凝らした。


 光が収まったようなので、エストを残し、ロックと俺で外に出る。

 草原の所に緑色の渦があるのを確認した。これはモンスターが出現した可能性が高い、自然現象ではないことは明らか。


 急いでガイアさんやシアンたちの家に戻り、剣を持つ。

 ガイアさんの家には武器がある程度置かれている。セルバー村が巨大なスケルトンに襲われたため、都市は各村の村長の家に幾つかの武器を配布した。リバイル村の村長は都市にいるため、代わりにガイアさんの家に置かれてある。


 俺は剣だけでいい。ロックが鎧を着るのを待たずに、俺は先に渦の方へ向かった。


 緑色に光っていた渦が、徐々に消え始める。

 しかし、普通の自然現象ではない。消えた渦の中から、鎧を着た金髪の少女が現れたのだ。彼女は鎧をその場で脱ぎ捨て、こう言った。


「重かったわ。石はどこ?」と。


 この少女、只者ではない。俺の野生の勘がそう言っている。

 それに石とは何だろうか。時の石か、それなら俺もエストも持っていない。

 彼女は何も答えない俺に向かって、手をかざした。


《火炎魔法》


 俺の目の前に突如、炎の絨毯が現れた。

 炎の絨毯は俺のことを焼き切るように包み込もうとする。ゴオオ、ゴオオと迫ってくる絨毯を避けようとするも、絨毯は拡がり、また俺のことを包み込む。

 彼女は明らかに俺のことを殺しに来ているな。ならば対抗しよう。


 俺にはトールの力がある。


 へそに力を込めて、力を使う。

 キミカが死んでから、何度も何度も力を使う訓練をしていた。力に頼らない訓練もした、しかし、トールの力を借りねばならない場面だって来る。その日のために、鍛錬を重ねた。これも今日のためだったか。


 俺の身に、雷がドカンと落ちる。

 これで俺は力を使えるようになった。炎の絨毯の中を歩き、奴の元に向かう。炎に巻かれようとも、身体は無傷。これがトールの力だ。


「なかなかやるね、見たことないわ」


《火炎魔法》


 彼女は空に手をかざした。すると、炎に巻かれた剣が何十本も浮かび上がる。

 少女に対抗するように、俺も雷の剣を出現させ、炎の剣の前に配置した。

 属性の違う剣同士がバチバチと戦い始める中、俺も奴との戦闘を始めることにした。


----------

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る