第66話 結界

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「我に対抗できるのは、結界のみ。封印された時も、我に歯向かった人間・スケルトンらは全員殺した」


 今の俺たちに結界技術なんて無い。

 マキシミの城にモンスターを入れないための結界があったが、それらの技術は誰も知らないはずだ。ユー・エンドで出会った討伐者なら何か知っていたはずだが、彼は既にこの世を去っている。


「結界技術を持っていた村人の名は、ハル・スティーロだったか。奴に聞いてみるといい。既に我の手で葬り去ったがな」


 名前から考えるに、そのユー・エンドで出会った討伐者の親族だろう。しかし、既に葬り去ったとか言うならば、本格的に対抗する手段が無い。


 なら、どうするべきか。このまま考えていても、いつかは殺される。殺されるくらいなら、殺される寸前までやり返す。俺たちの味わった苦しみを、奴にぶつけてやりたい。


 どうにか弱点さえ分かればいいのだが。


「最期の言葉はあるか。あるなら、死んでから思う存分叫べ」


 無茶苦茶だ。完全に俺を殺すつもりだ。

 トールの力があっても、世界の帝王を倒した力があっても、こいつには勝てないということか?

いや、違う。俺の使い方が間違っている。トールの力は無限大、ならば使い方の問題じゃないか。まずはどうにか奴の弱点を炙り出してみよう。


「最期の言葉はある。『お前を殺してやる』とだけ」


 奴の両手の中でこの言葉を叫んだ後、俺はまた雷を奴の全身に浴びせる。それも関節に集中させて、何十発も落とす。最初はそれに対抗していたが、やがて俺を離し関節をさすっていた。骨だけのくせに、痛覚とか感覚はあるのが意外だったが、今は関係ない。


 地面に降り、小さいスケルトンの方に弱点を尋ねる。


「スケルトンの弱点は……頭蓋骨内の心臓です。頭蓋骨さえ破れば一発で倒せますが、肝心の……硬めです」


 なるほどな。やはり、大事な心臓は頭蓋骨の中。

 しかし今の俺の攻撃では、頭蓋骨を壊せる気がしない。どうにか新たな戦略を考えなければ。


「よくも、我に歯向かうつもりか」


 巨大な奴が骨をボキボキと鳴らし、俺の方に向かってきた。頭蓋骨を狙う、言葉だけ見れば簡単そうに見えるが、実際はその何十倍も難しい。


 向かってきた奴からスケルトンを遠ざけなければいけない。こいつなら何かしらいい作戦を考えてくれるだろう。同じ種族だからこそ、ってものがあるだろ。人間も。


「来いよ」


 俺はトールの力で空高く飛び、奴の背後に回りつつ、大量の雷を浴びせる。その間にも雷で刃を作り、奴が雷で怯んでいる内に何発も頭蓋骨を狙って刺す。

 刃は刺さるものの、内側まで刺さっている感触はなく、頭蓋骨に刺さった時点で光って消滅してしまった。


「歯向かうな、お前らが!」


 下を見ると、スケルトンも戦闘に参加していた。腕を鋭い刃に変形させる能力で、奴の土台部分である肋骨をゴリゴリと削っていた。

 奴の攻撃が来ると、スケルトンはもう片方の腕を盾状に変形させ、小さい身ながらも何とか応戦しようとしているのが伝わってくる。


 俺も負けていられない。

 巨大な奴の背骨に向かって、真上から極大の雷を落とす。脳天を貫くほどの雷だ、これなら心臓部分も破れるだろう。


 奴も奴で声にならない雄叫びを上げている。

 どうやらこの攻撃が効いているみたいだ。ならば、できるかは分からないが……やってみよう。


 俺は呻く奴の口の中に入り、頭蓋骨と喉の骨の間に入ったまま、自分に向かって雷を落とした。へそに力を込めて、叫びながら。

 すると、爆音と共に俺に向かって雷が落ちてきた。雷を受けた俺は逆にトールの力が注入されたかのように怪我が治り、奴は頭を抱えながら地面に倒れていった。肋骨はスケルトンが削り切ってくれたため、支えもなく奴は倒れたのだ。


 口や鼻の骨を手で押さえながら、奴は呻く。

 致命傷を与えられたみたいだ。正解は、奴の頭蓋骨の真下で自分に雷を落とす。雷は物理攻撃とは違って、骨を貫通する。ある程度硬い骨だったため、普通の雷は防がれたが、極大の雷は防げなかったようだ。


「何故だ……我の命……までか」


 奴は最期の言葉を言い終えた後、赤い液体を撒き散らすように爆散した。巨大な身体のため、液体は雨のように、俺とスケルトンの身に降り注いだ。


 トールの力を解除した俺は、とてつもない後悔と心苦しさと憤怒の感情に包まれていた。封印を解かなければ、キミカが死ぬことがなかった。多くの犠牲を出すことなんてもちろんなかった。全て、俺のせいだ。


 しかし、怒りの矛先はどうやっても奴に向く。自分は悪くない、いつか封印は解かれてしまう。ならば、今倒しておいてよかった。ある程度の犠牲は仕方がない。無理矢理正当化しようとする俺もいる。


 そうだ、全て奴が悪い。

 人を殺すような真似をした、奴が悪い。


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「スカイ、大丈夫だったか」


 何とか家に辿り着いた。

 巨大なスケルトンが暴れた、更にセルバー村の大半を殺害した。ここまでは正しい。しかし……何故か自爆して死体は消滅した……ということになっている。


 理由は、俺が深く関わっているからだ。

 俺はリバイル村の人達以外に、トールの力を持っていることを言っていない。言ってしまえば、直ぐに政府の研究対象になりかねない。それは望まないし、紫の液体のことなんて政府にも分からないだろうから。


 ともかく、俺が倒したことは言わずに、役所に全てを伝えた。俺が白蛇を倒して、代わりにガイアさんが手続きをしたように。「巨大なスケルトンが暴れていて、避難活動に協力していましたが、突如爆発して赤い液体を撒きました。俺は範囲内にいたため、赤い液体を浴びました」と、違和感はあるが、スケルトンが考えた文をそのまま伝えたのだ。


 まぁ、どちらにせよ帰りは遅くなるが。


「ごめん、キミカ。俺のせいだ」


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