第62話 スケルトン

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「よし、行くか」


 朝食を食べ終え、俺はロックに話しかける。セルバー村を探索するなら、朝頃がちょうどいい。人も多すぎず、辺りが明るいため、緊急時でも賢明な判断がしやすい。


 他の家で暮らしているモンスターたちの力を借りて、セルバー村に向かうことにした。


「私は行きませんよ」


 モンスターたちの暮らす家を訪ね、かれこれあったことを話し依頼をもちかけた。皆賛同の色を示していたが、一体だけ反対と唱える者がいた。


 スケルトンだ。名前通り、骨だけしかない。声をどこから出しているのか、はたまたどうやって動いているのかすら分からない。


「私はセルバー村で暮らしていましたが、ある争いによって追放されました。二度とあの地には立ち寄りたくはないのです」


 そういえば、俺が塔に装備を取りに行った時も、セルバー村で何かあったとか言ってたな。よく思い出せないが、そういえば、そうだ。


 このスケルトンがセルバー村にいるのを見たことがない。基本、家に引きこもっているようにも見える。またはシアンと共に、モンスターの研究を行っている。研究される対象が研究に参加しているという構図、面白いな。


「まぁいい、俺とロックで行く。ゴーレムと……スライムも借りる」


 これだけ伝え、俺たちは家から出た。

 朝日はもう既に俺の真上にあった。


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 太陽が昇ってからどれくらい経ったか。時間は覚えていないが、かれこれ何時間はずっとある作業をしている。

 そう、ロックの感じる”強い何か”を探し出す作業だ。彼にはモンスターの位置を特定する能力があるのだが、”強い何か”はこのセルバー村を指していたとのこと。何時間もセルバー村の隅から隅まで歩き回っているが、一向にモンスターの位置を把握することはできない。


 村長のいる大きな建物も訪れたし、シアンたちのいる研究施設も訪れた。最近セルバー村にも支部として新しく建設されたらしく、ここでもモンスターや薬草の研究を行っているとか。


 どこに訪れたとしても、反応は一緒らしい。これなら、モンスターが反応しているのとは違う気もする。ここにいるモンスターの種類も分からないのに、位置を特定するなんて無茶だったのかもしれない。


「いや、見えた」


 ロックはそう呟くと、一直線に走り出した。どこに行くのか分からないが、置いていかれないように着いていくことしかできない。


「ここだ」


 着いたのは、古城の跡地。何回も訪れたことのある、蜘蛛の巣のかかった、戦争の跡地。どうやらこの古城が、1番反応が強い場所らしい。彼の能力の詳細は何も分からないが、とにかく城の中を探索するしかないということか?


 いや、城は既に探索したことがあるはず。異臭を放つラグナーレ城、ロックとアレアとルカで過去に来ている。その時は何も無かったというのか。1階しか探索できていないが、2階以上に何かあるのか。


「地面の下からの反応が強い。一度掘ってみるべきか?」


 彼によると、地下からの反応があるらしい。地下にモンスターがいるのか、となると、生き埋めということか? もしくは最近埋められた……そんな形跡は見当たらないが。


 城を壊さないように、ゴーレムの力を借りて掘り起こす。特に何も無ければまた別の場所を掘り下げる。


 ゴーレムたちにその作業をやってもらっている間、俺はロックに疑問を投げかけた。


「モンスターの位置を特定する能力を、どこで手に入れた?」と。


「いや、私にもよく分からない。普通の訓練を受けていたら、いつの間にか習得していた」


 普通の訓練を受けて習得するような能力ではないはずだが。しかも、その訓練をアレアも受けていたとか聞いた。アレアが習得できずに、ロックだけが習得するなんてことはあるのだろうか。


「心当たりはある。幼少期、村を訪れた旅人に『君は素晴らしい能力を持っている』なんて言われたことがある。勇ましい者を目指すきっかけにもなった言葉だ」


 それを早めに言ってほしかった。人の能力を見分ける力を持つ者がいたのか。それとも一種の勇気づけの言葉なのか。もし前者だとしたら、その旅人に会ってみたい。

 しかし、もう遅い。20年前の出来事だ。今から会おうなんてことは無理。早めに言われたとしても無理だったが。


 時間があれば、ロックの能力の出だしを突き止めたいところだな。


 そう思いながら、横に立っていたロックの顔を見てみると、彼は青白い顔をしていた。身体も震えている、また何か能力が作動したのか?


「もしや……」とロックが小さく呟く。


 後ろを振り向いてみると、ゴーレムがまだ地下を掘っていた。何も変わった様子はないが、ゴーレムは白い何かを掘り起こそうとしていた。

 どうやら土の中に、ゴーレムでも掘り起こせない位の、白くて硬い何かが埋まっていたらしい。それをゴーレムたちは掘り起こそうとしている。


 俺もゴーレムたちの元に駆け寄り、その白い物体とやらを触ってみた。硬い、硬いな。ゴーレムでも壊せないとなるとよっぽどだ。力を込めて叩いても、ヒビすら入らない。


 もしや、これが……これか?


「逃げろ!」とロックが叫ぶ。


 その言葉が聞こえたと同時に、ゴゴゴゴという激しい音と共に地面が抉れ上がり、城が崩壊していく。

 崩壊に伴って謎の衝撃波も発生し、ロックはそれに吹き飛ばされてしまった。ここは丘の上、頭から落ちたら怪我をするどころか……と危惧していたが、落下地点にスライムが待機していたようで、何事もなく助かっていた。


 俺もゴーレムも急いで丘から逃げる。幸い衝撃波は免れたが、丘と城ごと地面が崩壊していく。この丘に居ると巻き込まれる。


 ラグナーレ城の跡地から、骨だけしかない巨大な白い手がメキメキと現れる。その手はやがて天を掴むように、上に上に伸びる。


 やはり、スケルトンだったか。

 それも、リバイル村に残っていたスケルトンの元同胞の奴。これは手強いぞ。


 丘から離れ、ロックとスライムと合流したが、近くにはセルバー村がある。そちらの避難を優先させなければならない。何だって、スケルトンの弱点を俺は知らない。危害が及んでしまっては……考えるよりは動け、俺。


 古城の跡地から巨大なスケルトンの頭が現れる。頭だけでなく、肋骨や肩甲骨といった、上半身の骨も顕になる。見る限り、上半身だけでも20mはありそうだ。


 セルバー村に行き、村の人たちの避難活動を行う。とにかく巨大なスケルトンから距離を取らなきゃいけない。老人や子供、女性を早めに避難させる。


「村長さん、巨大なスケルトンが現れました!行きましょう」


 ロックがセルバー村に残っていた村長に避難を要請する。だが、彼は何故かこの場に居座ろうとする。もう近くの丘で巨大なスケルトンが居るというのにだ。

 スケルトン同士で戦闘があって、リバイル村にいるスケルトンは追放された。凶暴性があるに違いない。人間が洗脳される以前の話だからな。


「若者よ、これは『劇終』ではない。先に居るか……」


 彼が言い終わる前に、地面から白く鋭い刃が突き出し、立っていた村長の身体を突き刺した。即死だ、脳天ごと貫かれたようだった。血もそこまで出ないが、死んでも白い刃のせいでその場に突っ立っている。奇妙なものだ、これは恐らく、巨大なスケルトンの仕業だろうな。

 リバイル村に残っているスケルトンも、自身の腕を剣に変化させて戦っていた。


 やはり、奴には人間を襲う意思がある。

 立ったまま脳天ごと貫かれた村長の死体に軽く感謝の言葉を述べ、俺たちは外に出た。


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