第56話 最終決戦11「ありがとう」

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 俺は今、トールの力を持っている。それは奴も同じだが、奴は巨大化したため、力の使用を限られている。下半身が地面と同化している奴と、足も動かせてその場から逃げ出すことも可能な俺だったら、俺の方が有利なはずだ。


 なんてったって、トールの力は絶大だから。


 俺は巨大な奴に向かって走り出す。奴は無数の剣を俺に向けて放ってくるが、それには当たらない。何故なら俺は、雷の力を思う存分に使えるようになったから。


 飛んでくる無数の剣を、雷の力で防ぐ。雷を当てれば、剣はその場で消滅する。ヘイトリッドの方に行った剣も、俺の雷で消していく。


「被検体番号0818、お前も遂に覚醒したのか! 残念だったが、私の前では無力に等しい。私は真の神の力を持っている!」


 奴は巨大な両腕から、大量のモンスターを召喚させた。やや紫色の、透明がかったモンスターの大群。ヴァンパイアもいれば、ファントムもいる。ゴブリンもいれば、オークもいる。大量のモンスターが俺にも、ヘイトリッドにもロックたちにも襲いかかる。


 残った数体のドラゴンたちがモンスターの相手をしている間に、ヘイトリッドを呼んでロックたちの元に走って戻る。


「スカイ、まさか超能力でも持っていたのか?」

「いや、モンスターの力をだろうな。それにしてもどのモンスターだ?」

「凄いよ! スカイ! 他にも何かできるの?」


 皆、元気そうに俺の元に駆け寄る。


「今は、奴を俺とヘイトリッドで倒す。皆は……モンスターの相手をしてほしい。全て終わらせてくる」


 シアンに2本の剣を返し、俺は素手で奴に挑もうとしたが、彼女は1本だけ受け取り、もう1本は俺に渡した。


「これはさ、スカイが持っててよ。後で絶対返してね」と彼女は涙ぐみながらも、俺に剣を預けた。


「ありがとう」


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 俺は1本の剣を背中に差し、素手で奴に挑んだ。剣はあくまでも保険だ。奴には奴の持つ力で対抗する。

 横にはヘイトリッドがいる。既に奴に殺された者同士、奴を自らの手で殺してから死にたい。どうせ死ぬのは決まっている。奴を生かせば俺たちは生き残れるが、それは話が違う。


「行こう、スカイ」


 彼の掛け声と共に、奴の巨大な身体に向かって走り出す。俺は空高く飛び、奴の巨大な顔に張り付く。更に大量の雷を、奴の顔に向かって落とす。


「やめろ!」


 剣も何も効かなかった奴でも、雷は効くみたいだ。人間を捨てた奴に痛覚があるかは分からないが。


 片手を上げて、下ろす。

 そうするだけで、雷が狙ったところに落ちる。大きさも量も調整できる。

 奴の顔面を雷で攻撃しつつ、モンスターの大群に追われるドラゴンたちを雷で救出する。


 ヘイトリッドはドラゴンの背中に乗り、モンスターの攻撃を避けながら、俺の近くで滞空している。


 巨大な奴を倒す術が見つからない。攻撃は効いているが、決定打かというとそうでも無さそうだ。もっと大量の雷を落とすべきか、威力のある雷にするべきか。


 しかし、俺の体力にも限界というものがある。明らかに体力が減っているのが分かる。これ以上雷を酷使し続ければ、間違いなくバタッと倒れる。ここで俺が倒れたら、完全に敗北といっても過言ではない。今、この場で倒さなければ意味がない。


「スカイ、聞こえるか!」


 ヘイトリッドの叫ぶ声が聞こえた。


「全知全能の神にも弱点はある。それは……ひ--」


 彼が説明途中なのにも関わらず、奴は雷を使って彼のことを殺そうとした。敵だから仕方がないな。彼の言葉が聞き取れたかというと微妙だが、自分なりに解釈した結果、弱点が判明した。


 俺は飛んだまま、巨大な奴の瞳の中に進入した。もちろん、普通には行けない。眼球に当たるだけだが、ここで雷を使う。

 雷を球体状に集中させ、それを奴の眼球めがけて発射する。そうすれば、ちょうど人間大の穴が眼球にあく。


 そうして進んだ先は、奴の中。正確には、奴の魂の内部……真っ黒の世界の中に来た。

 さっきまでここにいたが、あえて自らの意思でここに戻った。理由はある、雷の力を持った状態で、奴と戦うためだ。


 奴の魂の中にいる大量の無実の人間を、シアンから借りた剣で斬り殺していく。無限に復活するなら、無限に殺すだけだ。


「やめろ、私の民に傷を付けるな」


 予想通り、奴がこっちの世界に来た。人間態の奴は、紫色の身体をしている。剣でも盾でも倒せなかった奴だが、今の俺はトールの力を持っている。


 俺は奴に雷を大量に召喚させ、効率よく放っていく。奴が避けられないように、落としたら次を装填する。無限の剣で殺されたドラゴンたちの仇を討つように、無限の雷を落とす。


 この真っ黒な世界は、無限だ。

 命も無限に存在し、人間も無限に存在する。ならば体力も無限だ、俺は疲れることなく無限に雷を落とし続ける。


「止めろ」と奴が叫べば叫ぶほど放ち続ける。


 やがて奴の動きが止まったところで、俺は奴の首を持ち、身体ごと持ち上げる。奴が抵抗できないと確認した後は、外に行く。


「真っ黒の世界の中では、生命は無限に生き続けるんだろ?」


「そうだ、私もお前も、全てのモンスターが無限に存在する」


「なら、出す。俺が鍵だ、俺が真っ黒の世界から引き出す」


 俺は奴の身体を持ち上げたまま、真っ黒の何も無い世界から飛び出す。出口は巨大な奴の方の眼球、そこから俺と人間態の奴が飛び出す。


 今、この場には巨大な奴と人間態の奴が同時に存在していることになる。無限に生きることが可能でも、同時に二つの同じ個体が動くことは無かった。必ず死んでから新しい身体が構築されるようにできていた。


 俺は人間態の奴を殴り、地面に叩き落とした。

 すると、巨大な方の奴は徐々に膨らんでいき、空気が抜けたように膨らんだまま消滅する。雲にまで届いていた奴の翼も、ドラゴンを追っていた無限の剣も消滅した。


 残ったのは人間態の奴と、巨大な奴の生首だけ。巨大な生首は、元々あった強制労働所の跡地にスッポリと落ちていった。


 俺は地面に降り立ち、位置を確認する。ここは、強制労働所跡地の近くの草原。目の前には紫色に発光する人間態の奴がいる。空中にはドラゴンに乗ったヘイトリッド、結構離れた森の方にロックたちが固まって集まっている。


「私の神聖な計画を汚すな! 今からでも遅くない、全ての生物を殺す。そうして私だけが君臨する世界へと変えるのだ!」


 奴は狂ったように、笑いながら叫ぶ。

 遂に自分以外の生物を殺す作戦へと変更したみたいだ。最初は全員自身と同じ思考にする計画だと豪語していたのに、いつの間にか奴以外の生物を滅ぼす作戦となっている。


「それでいいんだな。もう二度と戻れないぞ、二度と生物と会えなくなるぞ」


「良い! 私だけが君臨する世界で良い、私が全てとなるのだ!」


 奴は完全に狂っている。

 尚更、世界のためにも自分たちのためにも、俺が奴を止めなければならない。


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