第50話 最終決戦5「十人十色」
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奴が剣を床に落とした瞬間、また景色が変わった。ここは、レインマークの近くの草原。アサシン……黒ずくめの剣士と戦った場所でもある。
「あいつは精神崩壊を起こすことが多かったな。今考えると、失敗作だった」
そういや、黒ずくめの剣士の死体はその場に残った。少しすると消滅していたが、あれは失敗作が故の現象なのか?
更に景色が変わる。ライムートの城の中だ。城はマキシミの巨人体で崩れ落ちたはずなのに。なおマキシミ本人も他のモンスターもここには居ない。
「何を合成させたか忘れた。こいつは随分と手強かっただろ?」
マキシミは普通に挑んでも勝てる相手ではなかった。どう倒したのかも覚えていない、何せ俺は踏み潰されてから記憶が無いから。起きた時には、既にあいつの死体は無かった。代わりに、ガイアか意識不明になっていたり、俺が半裸になっていたりと、もうめちゃくちゃだ。
そうして、また景色が変わる。目の前には、セルバー村の近くにあった古城が見える。何故奴はこの地を選んだんだろうか。
「私はセルバー村で育った、昔は”ビルルド村”という名前だったが。この城は私が生まれた頃から存在する」
奴もまたセルバー村の出身者だった。また、あの城は奴が生まれた、二百年前から存在していたことも明かされた。
確か村長が言っていた、あのラグナーレ城はある戦争で使われていたと。
「戦争は嫌いか?」
奴は俺に尋ねてきた。
争いは嫌いではないが、大切な人を失うのは嫌だな。殺す覚悟はあるし、殺される覚悟もあるが、周りの人が殺される覚悟は無い。戦争となれば、関係ない人の命も奪うことになる。それは、心苦しい。
「そう、戦争は嫌いだろう。だから消した。モンスターが共通の敵となれば、皆が争わずにモンスターの殲滅だけを目的とする」
そうだな、その件については納得する。戦争を無くすためには、お互いに共通の敵を作ればいい。
共通の敵がいれば、敵の敵は味方で、人間は協力し合える。例えば「モンスターは危険だ、モンスターを憎め」と洗脳するだけで、後は勝手に人類が助けや繋がりを求める。
また敵対されたと感じたモンスターはモンスターで、人間に殺されないように繋がりを求める。両者共に、繋がるのだ。
わざわざ「協力しろ」と洗脳するよりも効率が良い。
しかし、あくまで結果論だ。モンスターと人間が協力して生活していた時代を覚えているモンスターからしては、たまったもんじゃない。ある日突然、信頼していた別生物に裏切られ、最悪討伐される。
それに戦争を無くす方法は他にもあるはずだ。どうして奴はそこまで平和に固執するんだ。もっといい方法があるはず、それを考えるのは俺たち未来の人間だ。古臭い二百年前の老人が、知恵をひねり出しても限界はある。もっと新しい方法が、必ずある。思考をひとつにまとめ上げなくてもな。
「黙れ、戦争の苦しみがお前に分かるか! 仲間を失った、私の気持ちが分かるか!」
奴は激昂し、また俺の前に現れ、更に俺の顔面を強く殴った。痛いし、血もありとあらゆる穴から噴き出る。
でも思った、やはり奴は人間だ。世界の帝王を名乗っているが、所詮人間だ。俺に何か言われれば、大人気なく顔面を殴ってくる。
戦争で仲間を失ったから、奴はこんな狂った計画を立てたのか。平和を望むなら、戦争を無くしたいのなら……もっと--
「お前は何も分かっていない!」
奴は俺の胸倉を掴み、何度も何度も俺の顔面を殴る。血はもう出尽くしたというくらい、顔面は真っ赤に染まった。
「取り乱した、私の過去を見ればお前も計画に賛同する」
奴は急に落ち着いたように汗を拭きながら、周りの景色を変えた。セルバー村の近くの古城が、古城では無くなっていた。瓦礫も無くなり、見た目が復元された。
セルバー村……ビルルド村も近くのリバイル村も廃れており、村人は死体となって転がっている。辺りには何百人もの戦士が、剣や盾を構えていた。
「15歳になったばかりの頃、その戦いに巻き込まれた。父母は死に、友達は捕虜として連れていかれた。私はその場から逃げ出し、誰にも見つからないよう森に隠れた。自身の無力さを嘆いた。助かる方法を考えた。しかしそれも無駄だと気づいた。死ぬ直前、私は平和を願った。全生物が救われるようにと」
舞台は森の中、ひとりの少年が座っていた。眠っているのか、死んでいるのか分からないが、顔を見るに……奴だろう。
突然、彼は起き上がった。死んではいなかった。そして手には紫色に光る液体が入った瓶を持っていた。いつどこで、どうやって彼が手に入れたかは、今は分からない。
「私は瓶を授かった、使えば効能は分かった。そこでアムスカリスの花計画を思いついたのだ。実行には、世界にばら撒くための装置が必要。そこで金を集めるために、近くの村の住民を洗脳させ、労働に従事させた。各地に派遣すれば儲かり、装置も作れる。結果的に出来上がったのが、この施設だ」
舞台はまたまた変わって、強制労働所の内部。見たことはない、監視塔の中だ。ここからだと、収容者の姿が丸見えだな。
「この事業を続けて、施設も完成した。世界の帝王として、裏で崇められ続けていたのだ。もう花を咲かせれば良い、花が全てを照らす」
奴は両手を広げ、神のように宙に浮かび上がった。周りはまた白い空間に戻っていく。
俺は深く深呼吸をして、奴に届くくらいの大きな声で叫んだ。
「生命体は、自由に生かしておいた方が楽しいぞ!」と。
それは本人たちが楽しいとか、そういう訳じゃない。周りの人間も楽しい。慌てふためく者もいれば、落ち着いて冷静に対処する者もいる。多種多様・十人十色、種類があった方が、見ているだけで楽しくなれる。
俺は、人の反応を眺めるのが好きだ。悪趣味に聞こえるかもしれないが、思考がひとつにまとめ上がったら、それが二度と出来なくなる。
「私の計画は完全で完璧だ!」
奴は激怒した。そうして俺の元に飛び、俺の首を両手で潰すように強く握る。息が苦しい、これならいつでもあの世に行ける。でも、俺は死ぬ気なんてない。
ズボンに忍ばせておいた小型のナイフを取り出し、奴の首に強く突きつけた。ナイフはローブを貫通し、首に到達したようだ。奴は手で首を押さえるも、血は止まらない。
俺も奴も地面に真っ逆さまに落ちる。流石の奴も動かなくなった。集中し過ぎると、周りが見えなくなる。俺もそうだが、奴もそうだった。俺を殺すことに必死で、ナイフの存在に気がつかなかったのだ。
周りの景色が変わっていく。白い背景は徐々にガラスの破片となって崩れ落ち、巨大な穴があいた草原に戻っていく。いつの間にか外は土砂降りだったようだ。床もあるし、他のモンスターもいる。スケルトンとロックが出迎えてくれた。
「生きていたか、スカイ。半分は倒したが、もう半分がまだ洗脳されている」
空には数体のドラゴンが飛びながら、洗脳された人間たちを炎で炙っている。他にも、白蛇の子が洗脳されたゴブリンを、その長い体で巻いて巻いて窒息死させている。ゴーレムやジャガーノートは、その大きな体で人間を潰したりと大騒ぎ。
「奴はこの手で殺した。後は洗脳された生物たちを倒して、煙を止めよう」
俺はそうロックとスケルトンに告げ、前に立ち塞がった大量の収容者に剣を向けた。
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