奏太の宝箱

 悠音を救えたっていうか、彼奴の並外れたお馬鹿っぷりのお陰で救われちゃった感じなんだよなぁ。でも、あの悠音の茶番劇でかなり時間を使ってしまったのは流石に痛手だった。けど、悠音が無事だっただけでもう良しとしよう!


 うん、そうしておこう!


 俺はそんな事を思いながらまたあの異空間に戻って来た。最初見た時は凄く驚いたけど、だんだんこの光景にも慣れてきた。


「まず、僕の助けを借りずに友との絆を証明した君を褒めてあげるよ」


「それは、どうもありがとう」


「ただ、彼が特別というか特殊だったからたまたま上手くいっただけなんだからね。そこは、忘れないように」


「ァハハハ……ハハ……ハ」


 うん、悠音に関しては珍しいくこの子供と同意だな。もしかして此奴、俺が思ってるよりか案外良い奴なのかもしれないな。


 そうだったらいいんだけどなぁー。


 でも、あの子供に限ってそんな事ないか。だって、雨合羽着て顔が見えない奴だし、やっぱり信用するのは辞めておこう。


「さっきから僕の事ジロジロ見てるけど、何か質問でもあるのかな?」


「いや……あのさぁー、こんな回りくどい事しなくても俺と仲間の絆は見せれると思うんだよね?」


「君がそう思うのも無理もないけど、必要な事なんだ。この場所に来る事も仲間との絆を証明する事も全てね。まっ、そんな事よりもこの先はどんどん難しくなっていくよ。時間の許す限り君と仲間の絆を証明してみせてよ」


「わかってるよ」


「うん、それでいいんだ。例え失敗しても魂だけはこの僕が拾ってあげるから安心していいよ」


「縁起悪い事言うなよなぁー」


「そうでもないよ。だってほら、君の上から何か降ってくるみたいだよ」


「上からって、何が降ってくるんだよ」


 えっ?! いきなり俺の頭上でRPGのアイテムや武器がパッと現れたと思ったら、土砂降り雨の様に降ってきやがった。俺は何度も転びそうになりながらも必死に逃げ切り、何とか当たらずに済んだ。


「注意して、まだまだ降ってくるよ」


「嘘だろ、まだ降ってくるのかよ?!」


 しかも、何故か俺だけに向かって落ちてくるとかおかしすぎるだろ!


「うわぁっ!?」


 しまった! 足がもつれて盛大に転んでしまった。最悪だ……。俺はすぐ様仰向けになり天を仰いだ。全てのアイテムや武器が俺に向かって容赦なく落ちてくる。


「…………あれ? おかしい。このRPGのアイテムや武器まったく重さを感じない。それに何だかヤケに透けて見えるし、手で触ってる感覚がない」


 もしかしてだけど、このRPGのアイテムも武器も誰かの創った世界で出来た物とかかだったりするのか? もしそうだとしたら、こんなゲームのような世界観を作り出すのが得意なのはもしかして……。


「はぁ~、果たして本当に俺に出来るんだろうか……」


「って、そう思ったらいきなり奏太が出て来た?!」


「ん?! あんたは、もしかして……」


 あれ? この感じは、ひょっとして悠音の時と同じ様に奏太も俺の事を覚えてる感じなのか! だとしたらめちゃくちゃ嬉しいし、ここまでの話しが省けられそうで有難いよ。


「そうなんだよ! 奏太実はさぁー」


「やっぱり、そうなんッスね! 俺は最初から気づいてたんッス。アンタはこの勇者ソウタの旅の相棒なんスよね」


「んっ?!」


「みなまで言うなッス!」


「いや、俺何も言ってないんだけど……。ってか、そうじゃなくて」


「大丈夫! 俺にはわかってるッス。この荒みきった世界を俺と一緒に救い、伝説のお宝とやらを手にいれてやろうじゃないか!」


「あの奏太……」


 駄目だ! 全然俺の話を聞いてくれる感じじゃないし、違うって否定しても納得してくれる感じじゃない。これは、困ったぞ………。


「彼の言う通りにして上げたら?」


「うわぁ! って、いきなり現れるなよな。びっくりするじゃんかよ」


「いきなりじゃ無いよ。僕は常に君の見えない所で君を見守ってるんだからね。それより、なんか楽しくなって来たね!」


 この子供は他人事だと思って……。けど、あの奏太がいつにも増して熱く燃えたぎってる事だし、ここはこの設定に乗っかってやりますか!


「そこの少年待たせたな! そう、俺こそが君の相棒の律だ。一緒に世界を救おうじゃないか」


「やっぱりそうだったんッスね! けど……」


「けど何だよ?」


「二人だけって寂しッスね……」


「まぁ、確かに世界を救うのに二人だけってのはちょっと寂しいよな」


 っと言っても他にどうしようもないし、今からメンバー集めるなんて大変な作業だよ。こんな時彼奴らがいてくれたなら……。


「僕の事を呼んだのは、お前達か! この僕が来たからにはだ」


「悠音、ちょっと邪魔! 律君達に呼ばれたから来ちゃった」


「本当に出てくるなんて……。いや、そんな気がしてたんだよな。悠音に詩、ありがとう」


「まだメンバーが足りない気がするけど、贅沢は言えないッスよね! いざゆかん、世界を救う旅へ」


 俺達はこの奏太の作り出したヘンテコな世界で、皆と一緒に世界を救う旅へ出た。そんな俺達の前にレベル1のスライムが現れた。


「ゴゴゴゴ!! 僕の邪眼が言っている。このレベル1のスライムから唯ならぬダークなバイオレンス的でヤバい力を感じるぞ……。よし、皆撤退だ」


「いきなり逃げるのかよ?!」


「何してるの律君、逃げるよ」


「そうッスよ、律さん! 逃げるが勝ちッス」


 確かに逃げるが勝ちとは言うけど、出会ったモンスター全て逃げ切るという暴挙に出るなんて聞いてないぞ! レベル上げせず、どうやって世界を救うんだよ。RPGでそんな事やるなんて有るまじき行いだよ。ほら、そんな事ばっかりやってたら、一回もまともに戦わずしてラスボスまで辿り着いちゃったじゃんかよ。


「ちょっと皆、世界を救う勇者御一行がこんなでいいのかよっ?!」


「いいんだ!」


「いいんだよ、律君!」


「いいんッス!」


 ごめんなさい、此奴に聞いた俺が間違いでした。だけど、このままラスボスと戦っても大丈夫なのか? 全くもって全然勝てる気がしないんだけど! だって、見た目がめちゃくちゃ強そうだよ。角なんて天を突き抜けそうだし、何でも噛み砕く鋭い牙があるし、全てを破壊しそうな金棒持ってるもん。これってもう鬼そのものじゃんかよ?!


「出やがったな、ラスボス! 俺とこの最高の仲間達と勝負するッス」


 グワァァァァァァァァ?!


 ラスボスの変な雄叫びと共にバトルが開始してしまった。奏太も悠音も詩も俺を置いてどんどん先に突っ走ってちゃうし……。あぁ、もうどうなっても俺知らないからなっ!


「で、勇者ソウタ戦況は?」


「あっ、律さん遅いッスよ!」


「心の準備が色々とあってだな……」


「まぁいいや! そんな事より、彼奴ラスボスといだけあって相当強くて、俺達の攻撃なんて奴に1しか与えられないッス。どうしたらいいんだ……」


「僕もラスボスを音ゲー好きに変える魔法を使ってるのだか、まるで効果がない。何故なんだ」


「でしょうね……。で、詩は?」


「回復なら任せて律君! どんなに打ちのめされても、何回倒されても、二度這い上がれなくても、何度でもこの詩様が蘇生と回復をしてあげる。だから、後ろは任せて!」


「うん! 心強いような、休ませて欲しいような状況だね」


 やっぱり最悪な展開キター!

 本当、コレどうするんだよ?! レベル上げせずに来たツケが今正にきてる状況だよ。皆も馬車馬のように戦いと回復と蘇生の連続で疲れてきてるし、この状況どうすればいいんだ?!


「こうなっら、アレを使うしかないッス!」


「勇者ソウタ、何か手があるというのか?」


「あるッスよ! 皆、俺の背中に手を当て欲しいッス。そうしたら一緒に呪文を唱えて下さい。そのありったけの力があれば、ラスボスに勝てる」


「わかった!」


 俺達は頷き、奏太の背中に手を当てありったけの力を込めた。戦いの勝敗は勇者ソウタに委ねられた。


「皆ありがとうッス! じゃぁ、一緒にこの呪文を唱えるッスよ。


「えっ、今なんて?」


「まったく律はやれやれだ……。僕が勇者ソウタの代わりに分かりやすく教えてやるから良く聞けよ。だ」


「なんかさっきのと違くねぇ?」


「もう、皆つべこべ言わずにスーパーハイパーなんちゃらをとっととやる!」


「詩に至っては覚える気が全くもってないよ?!」


「もう、皆早くするッス!」


「わかったよ……」


 俺達はもう一度、勇者ソウタの背中に手を当て例のスーパーハイパーめちゃくちゃ強くて良く効く友情は永遠なりドリームアタックを唱えた。唱え終えた瞬間、ここには居ないはずのもう二人の力を感じた。その力と俺達の力が光となって重なり合い、温かくて優しい光に包まれた。


 辺りを包んでいた光が俺達の前から消えた時にはラスボスはもう居なくなっていた。代わりにラスボスのいた場所に宝箱が現れた。その宝箱を皆を見事勝負に導いた勇者ソウタが空ける事になった。


「嘘だろ……宝物の中身がないなんて」


「奏太……」


「けど、いいんだ無くても! 俺の宝物はもうここに持ってるから大丈夫ッス! まだちょっと仲間が足りないけど、律さんならきっとなんとかしてくれるって、俺信じてるッスよ」


 どうしてだろう……。ここに居ない筈の仲間との、繋がり合う心がココに確かにある事を感じてる。


 ありがとう、奏太。


「どうやら、本人がなんが勝手に納得しちゃったみたいだね」


「なんかさぁー、お前って思ってるよりか良い奴だな!」


「そう思いたいなら勝手にどうぞ……。僕のやるべき事は変わりはしないのだから」


「これでも褒めてるつもりなんだけどな……」


 なんか調子狂うよな。良くしてくれたり色々と助けてくれると思ったら、急に冷たく突き放したりして……やっぱり、よくわからない奴だ。


 でも、詩に悠音に奏太も救えたんだ。

あんまり時間はないみたいだけだど、この調子で頑張ればきっと大丈夫だ。


 よし、皆と一緒に必ず帰ってみせる!


 って、あれ? なんだか俺の手がいつもより透けて見えるのは気のせいだろうか? 手を高く突き上げてみたら、黒くキラキラと反射した世界が俺の手から見えた。


 これってもしかして、俺が思っている以上にヤバいんじゃないのか!?

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