交通ルールはどんな時もしっかり守りましょう!

 俺達は着々と研究施設に向かっている……っと思いたい今日この頃です。色々な事が沢山ありすぎて実は俺達そんなに進んでないんだよな。まぁー、皆といると楽しいし飽きる事はないからいいんだけどね……。


それに、遅れている分はここから巻き返せば問題ないっしょ!


「律君! さっきから気になってたんだけど、律君の脚にくっ付いてるその子は誰なの?」


「えっ?! 俺の脚にくっ付いている子?」


うわぁぁ?!


って、幼稚園児のゾンビじゃんか!

いつからこの子、俺の脚にくっ付いていたんだよ。まったく持って、気づかなかった。けど、こんなにまだ小さな女の子がゾンビになってしまうなんて、世界という奴はやっぱり残酷だよな。


それにしても困ったな……。


一人でいるって事は迷子なのかな?

でも、幼稚園の園服着てるから幼稚園に行く途中とかだったりして……。


「とりあえず、動きにくいから俺の脚から離れてくれるかな?」


「…………。」


あれ? ガン無視された……。

俺にくっ付いていてるくせになんで無視すんだよ! しかも、何故か俺の脚からなかなか離れてくれないし、ぴったりと幼稚園児ゾンビにマークされてる……?


「きっとその子達、彼処にある幼稚園の子達じゃないっスか?」


奏太が指さした方向に道路を挟んで確かに幼稚園の建物があった。なんだ、幼稚園があるんじゃないか! なら話が早い、この子を彼処にある幼稚園に届ければミッションコンプリート!


「何故、律の他にも僕達がいるのにこの幼稚園児ゾンビは律にべったりしてるんだ? 気に食わんから律から2メートル離れろ!」


「ぅわぁぁぁん……」


「あっ、悠音さんが幼稚園児を泣かしたっス」


「悠音は大人気ないからこの子も泣いちゃうんだよ! ここは私に任せなさい」


詩は目にも止まらぬ速さで悠音を片付けてから、園児に優しく言った。


「怖い人は詩お姉さんが、闇に葬ったからもう大丈夫だから安心してね」


「ぅわぁぁぁん……」


「あっ、詩さんが悠音さんを闇に葬むるから園児が泣いちゃったんッスよ。

って、あれ? もう一人園児が増えたッス?!」


えっ、もう一人増えたってどういう事?! なぬ……俺のもう片方の脚に幼稚園児ゾンビがいつの間にかもう一人いるし! 何処からこんなにゾンビが湧いて出たんだよ。


「じゃあ俺、この子達をあの幼稚園に届けてくるから皆ちょっと待ってて」


「あっ、でも律さん……」


あれ? おかしいぞ俺の足が前に進んでいけない! そして、さっきより脚がめちゃくちゃ重い気がする。だって、俺にくっ付いている園児は二人だけの……ん?!


なんですと?!


更に何処からともなく園児が増えてやがる! 二人だった筈が今は全部で十人になってるよ。園児達が俺の脚を引っ張ったから重くて前に進めなかったんだな。ようやく、謎が解けたよ……。


「で、コイツら全員どっから湧いて出てきたんだよ?!」


「俺見ました! さっき律さんが道路を渡ろとした時に急に増えたんッスよ」


「これじゃあ向こう側に渡れないじゃんかよ。しかもコイツら俺が向こうに渡ろとするともの凄い力で引っ張られるんだ! もう、どうしろっていうんだよ?」


「カッ! 謎は全て解けたぞ!

律、その子達はきっと幼稚園に行きたくないんじゃないか?」


おっ! あの闇に葬られた筈の悠音が完全復活をして戻って来た!


「って、幼稚園に行きたくないなんてそんな事あるか?」


「俺は違うと思うッス!」


「私も違うと思うよ」


詩も落ち込んでたみたいだけど、元気になって良かった、よかった!

あんなに園児が泣くと流石の俺でもショックで凹むよ……。


「けどさ、車も来てないから普通に渡らしても良くないか? なのになんで、向こう側に渡らせてくれないんだろう……」


「そうかわかったぞ! この園児達にはきっと見えているんだ。僕にも見えるぞ、この道路に車が行き交う姿が!」


「そんなバカな……?!」


「いや、意外とそうかもしれないッス」


「あの中二病に頭が支配されてる悠音が始めてまともな事言ってるなんて……。私、熱があるかもしれない」


奏太ならまだしも詩まで悠音の言う事信じてるし……。いやいや、悠音の言う事いくらなんでも無理があり過ぎないか?


この子達の瞳に車なんて写ってる筈が……いや、写ってやがるだと?!


どうしよう、俺の瞳にも車が行き交う姿が見えてきやがった……。どうやら俺も中二病の病に侵されたみたいです。


でも、これは正しく交通ルールを教えれば、園児達を渡らせて幼稚園に行かせる事が出来るかもしれない!


イケるぞ!


「では、これより皆の配役を決めたと思います! まず車役は悠音と奏太」


「えっ! なんで僕が車役なんだ?」


「俺も納得いかないッス」


「この車の配役というのはとても重要な役割なんだ。車になりきるっていうのは並大抵な精神力じゃ出来ない。神の精神力を持つと云われる悠音と奏太にしか出来ないんだ。俺や詩は残念だが凡人な精神力だから、車役なんてとてもじゃないけど出来ない。だから、車役はお前ら二人にしか頼めないだ。引き受けてくれるよな?」


「まぁーいいだろ! 律がそこまで言うなら……」


「律さんが俺の事をそんな風に思っていてくれたなんて……。了解ッス!」


はい、いっちょ出来上がり!


俺と詩は二人で話し合い、詩が交通誘導員役で俺が幼稚園の先生役で話がまとまった。


俺達の絶対に間違う事が出来ない交通安全指導が始まる?!


皆はそれぞれ位置につき配役になりきっていた。俺が言うのもあれなんですが、絵面が物凄くシュールなんですけど……。


「いいか律、心の目で見るんだぞ!」


心の目っと…………。

おおっ! なんか、それっぽく見えてきた気がする?!


「よし、信号が青になった! 皆右見て、左見て、もう一度右見て渡るぞ」


あれ? 園児達に止められないし、俺の後をちゃんと着いてきてる。よし、コレなら楽勝だな!


「おいおい、早く渡れよ園児達共」


悠音?! なに園児達を煽ってるんだよ。煽り運転を物語に組み込むなんて完成どたけーな!


「こっちとらぁー、2時間前からスタンバってたんッスよ」


奏太まで何してくれちゃってるんだよ?!


「ぅわぁぁぁん……」


しまった! 二人に気を取られて隙に園児の一人が泣いちゃったじゃんか! もう、何してくれるんだよ。


「律君、アホな二人の事は私に任せて!」


「頼む詩!」


詩はアホな二人の元へ行きお説教をした。そして俺は泣いてる園児に膝をつき肩に手を乗せ諭した。


「いいか、君! ここで泣いたらあのお兄さん達と同類になっちゃうなんて、そんなの嫌だろ? わかったなら涙を拭いて顔を上げよう」


「うん、わかったよ」


なんか通じたみたいで良かった!

園児にもこの二人のヤバさがわかってくれたんだな……。俺は嬉しいよ!


俺達は最後園児を幼稚園の入口で見送りミッションコンプリートした。


「皆、お疲れ様! 皆のお陰で大変なミッションをコンプリートする事が出来ました」


「僕の演技力のお陰でミッションコンプリートする事が出来たんだ! 皆、楽にしたまえ」


「車役の演技はなかなかなりきるのに大変だったッスよ! まっ、そこは俺の実力でカバーしたけどな……」


「悠音も奏太君もあんまり役にたっ……」


「シーーーーッ! 詩、それを言っちゃダメだからね、ねっ!」


「ごめんなさい! 私ったら余りにもあの二人がお粗末すぎて、けどお口チャックするね」


「ありがとう」


でも、まぁーなかなかハードな仕事だったぜ! ん? 何か忘れているような……って、俺達今日は1ミリも目的地まで進んでないじゃんかよ!


ノォォ━━━━ツ!!!!

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