やっぱり可愛いは正義でしょ!

 うたは一つ咳払いをし、自分に起こった事をやさしく丁寧に俺に教てくれた。


「私仲間と一緒に街の探索してる最中に迷子になっちゃったみたいでね。最悪な事にKAGUYAかぐやシステムのナビゲーション画面が急に真っ暗になって使えなくなっちゃったんだ! しかも、仲間との連絡手段の音声通話システムもここを境に途切れたの……」



 ただのバッテリー切れでは? っと俺は思ったがあえて口に出して言わなかった。


「帰り道もわかんなくなっちゃって、途方に暮れている最中に律君を発見したの! 最初は声をかけようかかなり迷ったんだよ。だって、カレーが地面一面に散らばっててそこに顔面蒼白な男の子が倒れてるのを見つけたんだから……。

どうしようか色々と悩んだけど私ね、勇気を振り絞るのよ、詩って言い聞かせながら声を掛けたんだよ」



 俺はって聞いた時は不覚にも何だか可笑しくて笑ってしまった。


「笑い事じゃないんだから律君!」


 うたは少しむくれてしまいそこで話は終わってしまった。


 まっ、こんな不思議な光景を目の当たりしたら誰だって迷うのは当然だ。俺だったら絶対に関わり合いたくないからきっと無視して先に進むだろうな……。


 だって、どう考えても絶対にこの先変な事しか起きないだろうしな……。

 まっ、なにわともあれ本当に詩に声かけてもらえて良かった。


「詩は俺にとって命の恩人だよ、ありがとう!」


「どういたしまして!」


 詩は俺の感謝に笑顔で答えてくれた。

 っと、そういえば詩の話で思い出した!俺の#KAGUYAかぐやシステムことカーちゃんはどうなったんだ?今の今まですっかり忘れてたけど……。恥ずかしいけど、何かこの状況を打破する手掛かりを見つけてくれるかもしれない。


 ここは我慢して呼んでみますか!


「あっ、カーちゃん聞こえますか?どうぞ!」


「ヤット呼ンデ下サイマシタカ律様!

ズット、スタンバイシテタノニ呼バレズ、二人ガイイ雰囲気ダッタノデ沈黙ヲ貫キマシタソレデ、ワタシ二何カ用デスカ?」


「なんか、気を使わせてしまってごめんなさい」


 あんな風に言われるなんて思ってもみなかった。かなり俺に気を使っててくれたんだな。でも、ちょっと意外だ! 機械でも拗ねたり傷ついたりする心を持ち合わせているなんて知らなかった。そこは、凄く勉強になったぞ。


 だけど、あんな事言ったら俺とヒロインのうたとの新しい恋が始まっちゃうだろ! KAGUYAカーちゃんのやつ何考えてるんだよ……。


 本当に俺と詩との恋が始まったりしたら嬉しいな……。いやいや、何考えてるんだよ俺っ!


「なんか、ごめんね……。俺のKAGUYAカーちゃんが変な事言っちゃって。あっ、カーちゃんっていうのは俺の母親のことじゃなくて」


「律君のKAGUYAかぐや大丈夫なんだね! 良かった……。これでみんなと合流出来るよ。ちょっとの間貸してくれるかな? お願いっ!」


「いいよ!」


 まっ、減るもんじゃないしな。俺はKAGUYAカーちゃんが搭載されている腕時計を外して詩に渡した。


「借リパクサレル確率85%」


「わたしそんな事しません」


 詩は苦笑いを浮かべ、さっそく俺から受け取ったKAGUYAを色々といじり始めた。


 ほのぼのとした時間が流れてゆく。

 詩とKAGUYAカーちゃんは時々、談笑を交えながら楽しくやっていた。俺は少し離れた場所で二人の会話や様子を眺めていた。なんでそんな事になったかっていうと、俺の入り込む余地なんて微塵もなかったし、それに二人の会話の邪魔はしたくなかった。


 会話の内容はほとんど俺には理解出来なかったけど、見てるうちになんだか微笑ましくなってきた。


 和むな……。


 思い返せば最初は色々な事が一度に沢山ありすぎて大変だった。俺が死んでゾンビゲームに転生して、母親かーちゃんの作ったカレーで死にかけたしね。でも、そのお陰でこうしてうたとも出会う事が出来た。


 可愛いヒロインがいるから、このゲームもそんなに悪くないかもなっ!


 なんか、不思議な気分だ……。

 あんなに嫌ってたゾンビゲームなのに、今はちょっと好きになりかけてる自分がいる。可愛いヒロインに出会えただけで、こんなにも俺の世界が変わるもんなんだな。


 まさかこれが恋って言う奴なのか?


 そうだったとしたら、俺の世界はなんて単純に出来てるんだ。

 こんな嬉しくて心躍る時があった日にはやっぱりガッツポーズしたくなるでしょ!


 ヨシ! 決まったな……。


 ん、雨か!?


 こんないい天気なのに?

 でも、この雨やけにベトベトしてて汚いし、あとものすごく臭いぞ……。それと、なんだか俺の後ろから唯ならぬ威圧感を感じるのは何故だろう?


 ひょっとして、もしかして、もしかしてだけどこれって…………。俺はビクビクしながらもゆっくりと後ろを振り返った。そこに居たのは、なんとこの世に居るはずのない人間の形をした化け物だった。


 皮膚は妖しく黒く光り、ボロボロの服を身にまとい、体には無数の切り傷や痣、それと壊死したであろう皮膚がじゅくじゅくと膿んでいた。そのとこに無数のハエやらよくわからない虫が集っていた。

 俺のすぐ隣りにいるせいかそいつから匂いが漂ってきた。そして、ゆっくりと真っ直ぐ俺の方へ向かってきた。


 いやぁぁぁぁ、出たゾンビィィィィ!!


 余りの衝撃的な光景に思わず変な声がでてしまった。で、ど、ど…どうする?


 ゾンビの目がギョロギョロ動いている。あれは、獲物を探してる目だ! 俺にはわかる。あの目で焦点とか絶対合わないはずなのに、しっかり俺を捉えてるのやめて。そして、唸りながら一歩一歩俺に近づいてくるのもやめくれ。


 あれ……? 動きが止まったぞ!

 なんだ、俺の気のせいだったのか。変に焦ったじゃん、ふぅー。


 ゾンビは飛んでるハエが気になるのか足を止めた。あのギョロギョロした目でハエの動きを追いかけていた。


 そうだ、いいぞ! そのままハエを追いかけて、ゆっくりとUターンしてお家に帰るだ。お家でパパとママが待ってるぞ。こっちには二度来るんじゃないぞ!


 いいぞ、俺のいる方向とは逆方向にゾンビは歩きだした。だが、しばらくしてまた立ち止まった。


 なんで、止まるんだよ!?


 そして、動きが止まっていたゾンビだったが、ふと何かを思い出したようにまたこっちに向かって来た。


 えっ、えっ嘘だろ!?

 イヤァァァ、こっちこないで……。


 お願いだから、こっちに来ないでよ。


 あぁぁぁぁ!! やっぱり、訂正させて下さい。このゲーム最低最悪だぁぁぁぁ!!

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