第5話 ファーストコンタクト

「そうは言っても、昨日、日中外で歩き回ってたわよ、わたし。今だって、ほら……なんともないし」


あっけからんと彼女は言いう。

消滅という文字を見てギョッとしたが、確かに変わった様子はない。


「こっちの不死鳥の加護と言うのが、その吸血鬼のデメリットを打ち消してると考えるのが普通か……。太陽の化身といわれるくらいだしな。」


「ふふっ。弱点のない吸血鬼ってわけ?最強じゃない。」


加わったイッセイの話を聞いて、地味な能力を引いちゃった人には悪いわねと言わんばかりに、にたりと笑って視線を送ってくる。

本当にそんな上手い話ばかりなのか……?そもそも吸血鬼が文字通りの存在であれば、厄介な習性だってあるはずで、しかも“不死“ときている。いろいろと不穏すぎる。

しかし彼女に気にしている様子はなく、今もどこからか取り出した鏡に向かって大口をあけ「あ、きば」などとやっている。

それを見て、まあ心配ばかりしていても仕方がないか、と肩の力を抜いた。

それにしてもアカネが種族にスキル1つ、イッセイは種族にスキル2つ、スキル1つに絞った割に地味なおれ。やり直しできないかなあ……


「あ、いや。実は……」


がっくりと項垂れている俺に、イッセイが何か言いかけた時、バサリと入口が開かれ、外の光が飛び込んでくる。

はっとしてアカネの方を気にするが、彼女は眩しそうに目を細めているだけで、心配する必要は無さそうだ。


「お、あんた気がついたのかい、良かった。そろそろ出発するから伝えてに来たんだ。」


恰幅の良い、よく肌の焼けた男が顔覗かせて、声をかけてきた。

背後に紅く暮れかかった空が見える。


「クレオさんは、この隊商をまとめるリーダーで、俺らを救ってくれた恩人だ。」


「あ……コウスケといいます。助けていただき、ありがとうございます。」


性は名乗らない方がいいかも、というイッセイの助言に従い、名前だけ名乗って礼をいう。


「クレオだ。恩人なんてやめてくれ、おだいは貰ってるんだ、客人として扱わせていただくよ。明日の朝には街に着く予定だ、それまでゆっくり休むといい。」


彼はにかりと笑い、それだけ言うと仕事に戻って行った。


「おだいって?」


「俺の持ってたマジックバッグを売ったんだ。」


お金が使えるのか、と疑問に思っていると、イッセイが説明してくれた。

マジックバッグ……スキルに加えて魔法アイテムも付いてたらしい。

え、この人チート使ってる?


「マジックバッグと言っても、持ってたものは見た目の2倍程度の容量で、そこまで珍しいものではないらしい。最初に渡そうとしたこの時計の方が、こんな所では扱えないと断られたよ。」


まくった袖から、高そうな時計がチラリと見えた。

マジックアイテムと聞くと心躍るが、その程度のものらしい。どちらにせよ背に腹は変えられず、彼の対応のおかげでこうして無事でいられることに感謝した。


「それにしても、言葉は通じるんですね。」


こちらの世界でのファーストコンタクトを終えたわけだが、現地人であるクレオも普通に日本語を話していた。外国語に苦手意識のあるおれには、喜ばしいことであるが、不思議な感じがする。


「彼らは今いる国より北にある領地で、放牧をしながら暮らす民族の出らしいが、この国でも共通して日本語を使うらしい。文字も見せてもらったんだが、日本で使うカナ文字で、時には漢字も使うという話だ」


「そんなことあるかしら、ご都合主義ってやつ?」


「分からない。ただ話してて思ったんだが、俺たち3人とも、初めからこの手の話に詳しい人間であるようだ。これはたまたまか?」


どういうことですか、と続きを促す。


「つまりここは、俺たちみたいな、こういった場面を望んだ人達のための世界、用意された世界なんじゃないだろうか。」


用意された……そこには何か目的が、おれたちの認識がおよびもしない存在の意思があったりするのだろうか。


「よく分かんないけど。それならさ……初めの肝心なところ、エラーくらいきちんと見直しときなさいよ!」


アカネは神だかなんだかわからない存在に向かって文句をいった。

まったくもってその通りだ、とおれ達は頷いた。

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