第9話 ケッチャコ

「ありえない……44枚初手6枚の内に『小宇宙台風』が二枚……? どん、どんな確率よ……」


「お前は一つ大きな勘違いをしているぜ、甲斐。確かに俺は手札発動カードを一切入れてないし、それは大会プレイヤーから見れば愚かな行為に見えるのかもしれない。でも俺は汎用カードは普通に使う! 正月パックとかで安く再録されるからな! お前らがサイドデッキに入れるような、困った時用の除去カードを俺はメインデッキからバンバン採用してんだよ!」


 毎年レアカードコレクションパックという、人気カード(性能的な意味で)を再録するパックがあるのだが、これが学生にはありがたいパックなのだ。

 相手モンスターを破壊するカード『いかずち』や、セットカードを破壊する『台風』シリーズも軒並み再録されるからな。

 そして手札発動モンスターも再録されているのだが、封入率が低いのでパック買いしている俺のようなやつの元には来ないのであった。


「く、まさかメインフェイズに入る前にバック除去してくるなんて……」


「お前も見たよな、甲斐! 教室で俺と凛のデュエルを! そして俺に言ったよな! 『くだらない』って!」


「っっ!!」


「大会で使われるカードをデッキに入れてないだけでお遊びだぁ? 大会のルールやマナーを知らないからファンデッカーだぁ? 知るか、俺は……いや俺たちはいつだって全力でデュエルしてんだよ!」


 俺の魂の叫びに甲斐、そしてギャラリーたちが息を呑む。いやもしかしたら急に叫んだから引かれただけかもしれない。どっちだろう。


「で、でもでもあなたの手札は4枚。【BB】デッキは2枚始動のデッキよ。そんなに汎用カードを詰め込んで、肝心の初動カードを引けてるのかしらぁ?」


「へへ、じゃあ見てろよ。メインフェイズ!」


「っ!」


「『BB-コール』発動! チェーンはあるか!?」


「……ないわ」


 俺はデッキから『BB』モンスターをサーチする。これで準備は整った。


「『BB-タンポポ』を手札から特殊召喚、そのあと効果で『BB-アザレア』を特殊召喚! その効果でデッキからバード種をサーチ! 二体でX進化! 『BB-フラワー・ナイトスター』に進化! ①の効果でお前の『零天使』の打点をアップ! ②の効果で『BB』モンスターをサーチ! まだまだいくぜ!」


「ひ、ひぃ……!!!!」




 俺は妨害がないのをいいことに、『BB』モンスターをどんどん展開していく。

 そして盤面はすごいことになり、なんかもうごめんなさいしたい気分になってきた。


「今の盤面は『BB-フラワー・ナイトスター』が三体、『BB-フラワー・ジャンヌ・ダルク』が一体。そしてお前の場には『黒人形の零天使』が一体。これがどういう状況か……もうおわかりかな?」


 ちなみに『BB-フラワー・ナイトスター』にはX進化成功時に場のモンスター一体の攻撃力を上げる効果があるのだが、俺は三体の『BB-フラワー・ナイトスター』の効果をすべて甲斐の『零天使』に使用した。

 相手のモンスター強くしてどうすんの? と思われるかもしれないが、これにはちゃんと理由がある。『BB-フラワー・ナイトスター』の③の効果に、このカードが受ける戦闘ダメージは相手も受けるという効果があるのだ。つまり相手を強くすれば強くするほど、相手は巻き込み事故を食らう可能性が高くなる。


 しかもそれだけじゃない。『BB-フラワー・ジャンヌ・ダルク』には、自分、または相手ターンに一度、X進化素材を外すことで『BB』モンスターの破壊を防ぎ、すべてのダメージを0にする効果がある。つまり『BB-フラワー・ナイトスター』の効果と組み合わせれば、自分はダメージを受けず、モンスターもやられない。相手だけ戦闘ダメージを受けるという理不尽極まりない自爆特攻をかますことができるのだ。


「け、けど忘れてないかしら? 『零天使』は相手モンスターとの戦闘ではダメージ発生前に問答無用で相手を破壊するわ! ま、まだ私の負けじゃない……!」


「それはどうかな……」


「ええ、まだ何かあるの……!」


「俺は手札から、さっき『BB-アヤメ』でサーチした『BB』魔法、『BB-バード・フラワー・ストライク』を発動するぜ! お前のすべてのモンスターの効果を無効化する!」


「なっ……それはつい先日出たカードじゃない……!」


 凛がいらないからってくれたのだ。まったく俺にとってあいつはつくづく勝利の女神らしい。


「さて、バトルフェイズに入りたいんだが……何かあるか?」


「…………………………………………何も、ないですっっっ!!!!」


「さぁてバトル! まずは『ジャンヌ』の効果で『BB』モンスターの破壊とダメージを無効にするぜ! そして打点の上がった『零天使』に『BB-フラワー・ナイトスター』三体で自爆特攻! 最後に『ジャンヌ』で相手に攻撃! これでお前のライフはゼロだ!」


「私が……こんな、こんな手札発動も入れてない……『アイアン・ビースト』とも混ぜてない【純BB】に負けるなんて…………!」


 机をドンとたたき、悔しそうな顔をする甲斐。シーンとなるギャラリーたち。

 さて、この空気どうしたものか……。俺としてはマッチ戦やるならさっさと次の準備をしてほしいんだが……。


「なぁ、サイドチェンジしないのか? 俺サイドデッキ持ってきてないけど」


「いいわ、やらない」


「そっか。じゃあ次は先行後攻お前が決めろよ。一本目負けたほうが選択権あるんだろ、大会って」


「いやいいわ。やらない」


「? じゃあ俺が先行か後攻か決めるってことか?」


「違うわ、認める。私の負けでいいわ。マッチ戦をやるまでもない。というか、私のサイドデッキじゃ、あんまり意味なさそうだしね。そっちには除去カードや効果無効化カードいっぱいあるし、サイドデッキの手札発動モンスターは逆に腐っちゃうから」


「そ、そうか。なら別にいいんだけど」


 なんかさっきまでの威勢の良さと比べたらやけにしおらしくなったな。そりゃ負けたら多少は態度が変わるだろうが、いくらなんでも変わり過ぎでは?


「じゃあ、その、あれだけど、いいデュエルだったぜ。お前もかなり強かったよ」


 俺は終わったあとの挨拶をする。だが、甲斐はあまり嬉しそうな顔をしていなかった。というより、何か別のことを考えているようだった。


「ふふ。やっぱりそうだった……斉藤くんは……最高の……材……」


 なんか一人でブツブツ喋ってるのが怖かったので、俺は別れの挨拶だけしてカードショップから出ていった。

 こわ~。カードゲーマーってみんなああなのか? 隣のテーブルにも一人でブツブツ喋ってる人いたし、やたら手札をパチパチシャッフルしてもはや煽りプレイだろって行為をしてる人もいたし、ガチな人ってヤバいんだなぁ……。近寄らんとこ。




 ◆◆◆◆◆◆




「あ、毅~。用事終わったの~?」


「悪かったな、凛。ちょっと色々あってな」


「そうだよ、普通幼馴染との買い物の途中に抜け出してどっかいくかな~。で、なにしてたの?」


「ん~、まぁ~、なんて言うか……社会見学?」


「なにそれ~変なの~」


 うん、実際すごい変だったよ。


 こうして俺の土曜日はつつがなく終わったのだった。なんというか勝利したのにスカっとしない気分、後味の良くない試合だったなぁ。

 勝負が終わったあとに甲斐がもっと派手に悔しがったり、逆にこっちを認めてくれたりしたらもっと気分良く終われたのに。

 ま、どうでもいいか。もう甲斐とデュエルすることもないだろう。次の月曜からまた教室で楽しい、そして俺たちなりの本気のデュエルが始まるのだ。





 そんなふうに考えていたのに、月曜の放課後、また甲斐に呼び出されてしまった。

 嫌な予感がするの、気のせいじゃないよね?



 ──────────────────────────────────────

 うおおおおおデュエル部分書くの大変すぎるから次回で最終回ですすみませえええええええんん!

 TCGの小説書いてる先人の少なさに私も気づきました。

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