第107話 桜


花弁のほのかな色からは想像できないけれど

桜の木の下には死体が埋まっているという

命の芽生えを感じる四月の日々に

死の上に咲く花とはなんという皮肉だろう


今はまだ蕾すら感じられない真冬の日

吹きすさぶ風は鋭い痛みを連れてくる

桜の木はこの痛みを無言で堪え忍びながら

今は亡き命の色を花へと送り続けるのだろう


きっと春は来るのだ、何かが起こらない限り

とてもそんなこと考えられはしないけれど

順番通りこの寒さのあとに春が来るなら

それなら私はこの冬から何を守ろう


まだ冷たい風は止まない

でも探すべきぬくもりはこの手にあって

これを守れるのならもう何もいらない

桜みたいに儚い命を壊さぬように抱きしめた

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