15 詰問

「あの、どうぞお入りください、と奥様が」


 困っているアーダに、後ろからベルが声をかけた。


「分かりました、どうぞ」


 渋々のように二人の警護隊の衛士を中に通した。


 部屋の中にはこの部屋の主であるエリス様、それからアーダの近くまで声をかけにきたエリス様の侍女のベル、それからもう一人の部屋付きの侍女のミーヤ、エリス様の護衛のアランと怪我をして仮面をかぶっているルーク、それから月虹隊の隊長のダルと「外の侍女」であるリルもいた。この部屋に出入りする人間でこの場にいないのは、アルロス号の船長ディレンだけのようだった。


「これは皆様お揃いで、話を聞くのに手っ取り早い」


 頬を緩ませながらそう言った丸顔のボーナムの顔が横長になったように見えた。


「お話とは一体、ええと、副隊長の確かボーナム様?」


 ベルが名前を思い出すように言う。


「はい、それと私は第一警護隊の隊長のゼトです」

「そんな隊長格のお二人がエリス様にどのようなご用でしょう」


 ベルが警戒するように言う。


「さきほども申し上げましたように、青い香炉のことをお聞きしたいのです」

「青い香炉とは、あのキリエ様の元に届けられたいう、よくない香炉ですか?」

「よくない」


 そう言ってボーナムが少しだけクスリと笑い、


「いや、これは申し訳ない、かわいらしいお言葉をお聞きしてしまったもので」


 ベルにそうわびた。


「そうです、そのよくない物が含まれていた香炉です」

「そう申されましても、こちらでは話を伺っただけですので」


 ベルが困惑したようにそう答える。


「ええ、香炉自体はご存知なくて当然かと思います。お聞きしたいのは、その前のことなのです」

「前のこと?」

「はい。エリス様がキリエ様のお見舞いに行かれた時、白い花や、毒下しの茶、それから滋養をつける木の実や干した果実をお持ちになられたとか」

「ええ、それが何か?」

「それはどうしてお持ちになられました」

「どうしても言われても」


 ベルが困ったように眉を寄せ、エリス様に何事か囁き、返事を聞いてうなずいた。


「以前に申したことですが、エリス様は旦那様の元に嫁がれる前にお医者様をなさっておりました、それでご不快とお聞きしたキリエ様のためにできることはないかと、ご存知の知識から空気をきれいにしたり、体の毒下しをしたり、栄養をとるための食べ物などを私の兄に買ってくるように、そうお申し付けになられました。そうして買ってきてもらった物をお届けしただけなのですが」

「ええ、そうお聞きしています。ですから確認に」

「そうですか」


 ベルはそう言われても怪しむようにボーナムを見る。


「それと、他にお聞きしたいことがありまして」


 今度はゼトが口を開く。


「なんでしょうか」

「ピンクの花をご存知ありませんか?」

「ピンクの花?」


 一瞬ベルは考えて、


「キリエ様のお部屋に置かれていたあのかわいい花のことでしょうか?」

「ええそうです。その花は持って行かれたものではないのですね?」

「ええ、違います。私が奥様の前に一度一人でキリエ様のお部屋に伺ったのですが、その時にピンク色の花があったので、それで白を選んで持って行かせていただきました」

「さようでしたか」

「ええ、そうですが、あの花が何か?」

「あの部屋に入られた時、あのピンクの花は香っていましたか?」

「え?」


 ベルが何を言われているのか分からない、という風に首を傾げる。


「花の香り、ございましたが」

「そうですか」

「ええ、そうです。それで香りのことも考えて、あまり香らぬ花をと奥様が選ばれたのです」

「さようでしたか」

「ええ、そうですが。それが何か?」

「いえ、あのピンクの花は、元々あまり香りのない花なのですよ」

「え?」


 ベルが初耳だという顔をする。


「でも、よく香っておりましたよ?」

「それが、今では香りません」

「え?」

「うちの隊のルギ隊長も香っていた、と申しております」

「さようですか」

「それが今は香りません。どうしてでしょう?」

「そう聞かれましても……」


 本当はよく知っている。なぜならベルとトーヤが見舞いに行って毒はないが香りもない本来のピンクの花と交換したからだ。


「その後お伺いしておりませんので分かりませんが、奥様も香りがしていたとご記憶のようです」

「そうですか」


 何も感じないように平坦にボーナムが返事をする。


(平凡な顔して喰えないおっさんだぜ、こりゃ)


 ベルは心の中でそう考えた。


「そうですか、ピンクの花には覚えがない」

「ええ、そうです」

「大変お手数をおかけいたしました」


 そう言ってボーナムが頭を下げると、ゼトも従って頭を下げる。


「それでは、もうご用はお済みですか?」


 アーダが緊張した面持ちでそう聞くが、


「いえ、まだございます。もうはっきりとお聞きいたしますが、隊長はキリエ様が長くご不快であったのは、青い香炉と同じく、何か、たとえばさっきから話題に出ておりますピンクの花などが、空気中に人の体調を悪くする何かを出していたのではないか、そう疑っております」


 と答えた。


「え?」

「そして、エリス様が、というか下見に行かれたベル殿が、それに気がつき、あのようなお見舞いをなさったのではないか、そうお考えです」

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