19 隊長と傭兵
ルギはトーヤの言葉をじっと黙って聞いている。
「そんで、これ聞いて隊長はどう思ってんの、え?」
トーヤはからかうようにそう言う。
「俺は」
ルギがゆっくりと話し始める。
「マユリアのお為になるのなら、なんでもいい」
「ほう」
トーヤがいたずらっぽい顔になる。
「そんじゃ、あんたはここに残って、マユリアは遠い遠いアルディナの神域へ行く、ってのでもいいんだな?」
「構わん」
「そんで、もう永遠に会えなくなってもか?」
「構わん、それがマユリアのお為ならば」
「即答か」
さすがにトーヤが感心した表情になる。
「相変わらずだなあ。んで、聞きたいことがあんだけどよ」
「なんだ」
「あんた、最近マユリアと会えてるか?」
「お会いできる機会はほぼない」
「やっぱりな」
キリエもルギも切り離し、完全に奥宮を自分たちの思いのままにするつもりなのだろう。
「マユリアもそれに大人しく従ってんのか?」
「おそらく、先代が戻られるまではと、じっと我慢なさっているのだろうと思う」
「後宮入りの話はどうだ? あんたはそうなってもいいのか?」
トーヤが少し意地悪い口調で聞く。
「マユリアがそうお望みならば」
「へえ」
ミーヤは二人のやり取りをハラハラしながら聞き、そして思い出していた。
『俺だったら耐えられねえけどなあ、惚れた女が誰かの女になったのをそばでじっと見てるなんてな』
ルギがマユリアに寄せる想いがどのような種類のものかは誰にも分からない。だが、マユリアのためなら永遠に会えなくなることすら受け入れる、それほどの想いをミーヤは苦しく受け止めていた。
「あんた、マユリアと一緒にあっち来いって言ったらどうする?」
「マユリアがそうお望みならばお供する」
「マユリアが来るなって言ったら?」
「そう望まれるのならば従う」
「ほんっとうにいいのか、それで?」
「構わんと言っている」
「はあ!」
トーヤが焦れたように両手を腰に当て、
「何があっても離れない、そういう気持ちねえのかよ!」
「俺の気持ちよりマユリアのお気持ちの方が大事だ」
さすがにトーヤが次の言葉を見失う。
「あの日、初めてマユリア、いや、当時のシャンタルにお会いして、俺はこの方のために生まれてきたのだ、そう思った。その日からずっと俺はマユリアのためにだけ生きている。もしも、永遠にお会いできなくなるとしても、あの方がそうお望みならば従う」
トーヤだけではなく、室内にいる全員がルギの言葉をただ黙ってじっと聞いている。
「あの日、まだ幼かったあの日は、一生あの方のおそばにいることが俺の運命だと思った。だが今は違う、おそばにいられなくとも、どちらかが命を失おうともそれは関係ない、俺があの方のために存在する、あの方のために存在を失う、どうあっても俺があの方のための存在であればそれでいいのだ、永遠に俺はあの方のものなのだ」
なんという深い想いだろう。ミーヤはルギの想いと比べると、自分の想いがあまりにも自分勝手、そんな気がしてしまった。
何年かに一度でいい、顔を見られれば、声を聞ければそれでいい、そんな小さな想いなら天は許してくださるだろう、そう思ったことさえ甘えにも思えた。
(だけど)
ミーヤは自分には無理だと思った。
(もしも、永遠に会えなくなるとしたら、そう思うだけで私はもう生きていられなくなる、そんな気がする)
「はあ、ざけんなよな!」
「ざっけんな!」
永遠に続くように思われた沈黙を破ったのは、トーヤとベルの声であった。二人が同時に同じことを叫んだ。
「あんたなあ!」
次の動きはベルの方が早かった。
「それでマユリア大事にしてるつもりなのかよ! あんた、自分の考えによっぱらってるだけだ!」
そう言いながらつかつかとルギに近寄り、両手を腰に当て、大きなルギを思いっきり見上げる。
「あんた、マユリアがどうしたいか聞いたことあんのか?」
濃茶の瞳がギッと厳しく、頭上遙かにある黒い瞳を睨み上げる。
「マユリアはあんたと一緒にいたいと思ってるよ! おれには分かる!」
「おい」
さすがにアランが妹を止めようと駆け寄った。
「おまえもなんの根拠もないこと言い出すんじゃねえよ」
「うるせえな!」
左側に立った兄に、視線を下げると同じ強さのまま睨みつける。
「兄貴はなあ、そういうのまだガキだからわかんねえんだよ!」
「な、おま、ガキって!」
「ガキだよ! だからそうやっておれのこと止めようとすんだよ!」
そう言ってからルギとアラン以外の人間をぐるっと見て、
「ほれ、そういう気持ち知ってる人はひとりもおれのこと止めてねえ、みんな知ってるからだよ、そういうの! だろ?」
またアランに視線を戻す。
「兄貴さあ、おれと永遠に会えなくなってもおれのためなら我慢するか?」
「おまえ、それ……」
アランが少し考えて、
「それが本当におまえの望みなら、おまえが本当に幸せになれるんなら、俺も我慢するかも知れねえ」
「ほんとか?」
ベルがギロッと兄を睨みつけた。
「だとしたら、兄貴もこのおっさんといっしょだよ! おれがそんなこと望むと思ってんなら、おれが、兄貴のこと捨ててでも幸せになりたいと思ってる、そう思ってるんだったらな! すんげえ失礼だ!」
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