19 思い出した約束
「なんだろうな、なんかいい話聞いた気がするな」
やっと打ち解けた雰囲気になった。
「そんじゃ、ここからは『仕事』の話でいいか? 時間もあるようでないようなだしな」
「うん」
テーブルを囲んでみんなが座る。
「あらためて紹介する。これがアラン、昨日部屋で会ったよな? 三年前から一緒に傭兵として働いてる」
「アランです」
あらためてアランが頭を下げる。
「三年前、ケガして動けなくなってたとこをそこにいる妹のベルと一緒にトーヤとシャンタルに助けられました。2人と会ってなかったら今頃ここにはいません」
「そうだったのか。それで、アランは何歳?」
「16歳です」
「まだ若いね。三年前ってことは、13歳から傭兵やってるのか……」
ダルが顔をクシャッと歪める。
「そのへんのことはまた今度な。そんで、こっちがその妹のベルだ」
「はじめまして、ベルです」
ベルが丁寧に頭を下げる。
「まあ、そんなわけで2人と一緒にいます。今は13歳です」
聞かれる前に年齢も言う。
「ダルです。そうか、まだそんな若いのか」
またダルの顔がクシャッとなり、慌ててトーヤが話を続ける。
涙もろいこの親友を泣かせる前に話を進めないと。
「そんでこっちがディレンだ。もう挨拶は済ませてるよな?」
「うん。トーヤと古い知り合いだって?」
「ああ、まあ、俺の親代わりの旦那だったって縁だ」
「旦那? ってことは、義理のお父さんみたいな?」
「まあ、そういうことでいいか」
トーヤがそう言う。実際は夫婦ではなかったのだが、そのへんを細かく説明するのは面倒に思えた。ディレンは何も言わず笑っているだけだ。
「そんでシャンタルと俺な」
「うん、よろしくね」
あらためてシャンタルが笑いながらそう言い、今度はダルも笑ったままで頭を下げた。
「昨日、アランにはちょっと言ったがな、シャンタル」
「うん、なに?」
「俺が昨日決めたことはこうだ。交代の日の翌日、おまえはマユリアから中の女神様を受け取りそれを当代に渡す。その後でマユリアとおまえの2人が人に戻る。ここまでいいか?」
「うん」
「その後、おまえとマユリアを連れてこの国から逃げる。当代と次代様、ラーラ様やキリエさんは置いていく」
はっきりと宣言し、シャンタルは言葉なくじっとトーヤを見る。
「俺が受けた仕事はここまでだ。分かるか?」
「うん」
シャンタルが感情なくそう答える。
「八年前に約束したことだからな。まあ、そこまで細かく決めたわけじゃねえが、そこまでと暗黙の了解ってのがあったと思う」
「うん」
「そうだね」
ダルも認める。
「ひどいと思うか?」
トーヤがじっとシャンタルを見て言う。
「どうして?」
「今、この宮は八年前までのおまえがいた宮とは、俺が連れてこられてなんか訳わからんうちに『
「なんとなくは分かる気がする」
「あの頃のままだったらな、マユリアやラーラ様にきちんと話をして、おまえを人に戻してめでたしめでたし、となってたと思う。けどな、今は違う。どこの誰か分からんが、この宮を自分の思う通りに動かしたいと思ってるやつがいるらしい」
「そうなの……」
「そいつか、そいつらかは分からんが、キリエさんをマユリアたちから切り離し、着々と自分の地盤を固めつつあるらしい」
「そう」
「そんな場所に、おまえの妹分とも言える当代と、さらにその次の次代様、そんなちびを置いていくってのは本当にひどいことだと俺も分かってる。だが、さっきも言ったが『仕事』にはその2人は入ってねえ。分かるか?」
「うん」
シャンタルが美しい顔を動かすことなく答える。
「トーヤの言う通りだと思うよ。あの時に約束したのは多分そこまでだ」
「ってことだ」
トーヤがシャンタルから目を離さずに言う。
「そんでな、そこにはマユリアも入ってねえ。けど、俺はマユリアが望むなら連れてこうと思ってる。なんでだと思う?」
シャンタルは少し首を傾げ、考えてからこう言った。
「マユリアがきれいだから?」
聞いてトーヤがぶうっと吹き出す。
「おま、俺がそんなことで連れてくと思ってたのかよ!」
「いや、分からないから」
そう言って2人で笑う。
「そう答えられたら楽しかったのかも知れねえけどな、残念ながら違う。なんでかと言うとな、マユリアと約束をしたからだ」
「約束?」
「そうだ」
「どんな?」
「正確には俺が勝手に約束と思ってるだけかも知んねえけどな、まあ約束だ。おまえ、マユリアの夢って聞いたことあるか?」
「マユリアの夢?」
「そうだ」
「夢……」
シャンタルは何かを思い出すようにしていたが、やがて短く、
「あっ」
と言葉をこぼした。
「シャンタルは今度の交代の時にはきっと戻ります。そして、そしてマユリアの夢を叶えて差し上げたい」
「なんだ?」
「私が最後にマユリアと話したことだよ。どうしてかな、そう言ったことを思い出した」
「そうか……」
「その後で少しキリエと話をして、そしてあの薬を飲んだんだよ。その次に目を覚ましたら湖の中だった」
トーヤがふうっと苦笑する。
「やっぱりか、やっぱりそれなんだな。マユリアとの約束を守る、それもこの度の仕事の一つだ」
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