13 月虹隊
「はっきり言ってかなり宮は変わったよ。多分トーヤも戻ってみてなんか感じてるだろ?」
「ああ、なんとなくだがな。そんで、どうもキリエさんが奥宮からはじき出されてるイメージだ」
「まあ、そんな感じだな」
「やっぱりな」
ミーヤはそこまでは言わなかった。
あれはまだなんとなくギクシャクしていた時だったし、もしかしたら本当にそこまでは感じていないのかも知れない。何にしろ、宮の中の人間であることだし、うかつなことは言えないということもある。
「その前にな、先代があんなことになっただろ? それで、俺が、月虹兵が色々と仕事もらって動くようにはなったんだよ」
「どんな仕事だよ?」
「主に今後のことを不安に思った人間が、宮の色んなこと聞きたがったり伝えたがったりが多かったかな」
「そりゃ、大変だったな」
「うん、だからね、すぐに募集してすぐに10人追加して手伝ってもらった。その選ぶのがまず大変だったよ」
「そうか」
「その時にミーヤとリルも本当にがんばってくれてね、今の形の基礎を作った感じ。侍女もすぐに3人追加で最初はその人数で始めたんだよ」
ダルは当時を思い出すようにしみじみと言う。
「ノノって侍女もその時からか」
「ああ、そうそう、よく知ってるね」
「まあ、ちょっとな」
まさかノノのことをミーヤと間違えて思い込んだとはさすがに言えない。しかもその相手がおまえだ、とは。
「やっぱりかなり混乱してね、ちょうど間をつなぐ役割ができたってことで、最初は本当になんでもかんでもこっちに話を持ってこられたよ。憲兵の仕事みたいなことまでこっち押し付けられそうになったりもした」
常のリュセルスは平和だ。ちょっとしたケンカなどがあるだけで、犯罪と呼ぶようなことも本当に少ない。憲兵たちものんびりしたもので、「兵」とついてはいても、それらしい働きをすることはめったにない。いるだけで犯罪抑止になっている、というある意味非常に理想的な存在であると言える。
それでも、少なからぬ数の民が不安で憲兵に詰め寄った。
だが、何を聞かれても憲兵にも分かるものではない。
「そうだ、宮と民を結ぶ役割として『月虹兵』というものができた、そちらに聞いた方が確かではないか」
責任逃れのために憲兵が言い出したのか、それとも新しい役割を思い出した街の者が言い出したのかは分からぬが、一部が「月虹兵」を探したのだという。
「いや、まいったよ。それでも言われてみれば、憲兵よりは俺の方が色々知ってるってのが本当なだけにね、どうしようかと考えた」
「ダルらしいな」
聞いてトーヤが笑う。
「俺だったら、できたばっかりでそんなこと知る訳ねえ、で追っ払ったけどな」
「そういうわけにもいかないだろ? それで、まだできたばかりだってことと、人が足りないってことをその人たちに説明して募集かけたら、すごい数の人間が集まった」
「そんなにか」
「うん。だってね、俺がカースの漁師の息子だって知ってる人も結構いたみたいで、そんじゃ自分だって宮のお勤めができるんじゃないか、もしかしたらマユリアと直接お会いできる機会も! ってのが多かった」
聞いてトーヤが大笑いする。
「なるほど、役目よりも下心か」
「まあねえ、そういう人も多かった、ってだけだよ」
「そんで、そん中から10人選んだんだな」
「うん、あまり一度に増やしても目が届かないだろ? だから条件を決めてある程度絞って、そこから面談して10人決めた」
「条件?」
「うん、元々俺自身がさ、漁師で兼用でってマユリアにお願いしただろ?」
「ああ、そういや言ってたな」
「うん、だからまず、今仕事してない人は除外。それから今やってる仕事をやめてまでって人も除外。これでかなり絞れた」
「なるほど」
「それから、勤めは月に1
「うまいこと考えたな」
「うん。誰が見ても仕方ないなって条件決めないと文句出るだろ?」
アランは横から黙って聞いていて、このダルという人は結構やる人なのでは、と感じていた。
トーヤは「人がいいから利用してやろうと思った」と言ってたが、案外最初にそういう部分を知らぬうちに見ていたのではないだろうか。単に人がいいだけで使えない人間を選ぶトーヤではないと思う。
「それで残った中から次は年齢な。何歳じゃなけりゃいけないってのはないけど、さすがに自分の体動かすので精一杯の人はだめだ」
「そりゃそうだな」
またトーヤが声を上げて笑う。
「だから数字じゃなく、実際にどのぐらい動けるかを見たかったんだけど、とりあえずは年齢で40代までにした」
この国の平均寿命は60歳ぐらいだと聞いた。個人差はもちろんあるが、そのぐらいなら文句が出にくい数字であろう。
「そうしておいて、順番に会ってみて、10人を選んだ。残った人にはまた二次、三次の募集もするからって断っておいた。そんで人が増えたから『月虹隊』って名前にして、とりあえず俺が隊長になることになってしまったんだよ」
アランだけではなく、トーヤもダルの手順に感心をしていた。
突然そんなことを押し付けられ、こうまで見事に采配を振るったことに。
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