10 マユリアのお茶会
「そうですか、お加減が悪いのでは仕方がありませんね、残念ですが」
マユリアが少しだけ美しい
「この間の包帯の方、ご様子がよくないの?」
シャンタルがマユリアに尋ねた。
「ええ、そうですって」
「お気の毒ですね」
ラーラ様も一緒に気の毒そうな顔になり、さすがにアランが申し訳ない気持ちになる。
「あの、大したことはないんです。ただ、腰を痛めてまして、それが今日は具合がよくないらしくて、じっと座っていられそうにないから、ということです」
「そうなのですか」
「お顔にも包帯を巻いていらしたの」
小さなシャンタルが気の毒そうにそう言う。
「どこに傷をなさるのも気の毒だけど、お顔に残るのはかわいそう」
小さな心を痛めている様子に、アランがなんとも言えない申し訳無さを感じ、
「いえ、きっと大丈夫です。そんなひどいことにはならないでしょう、傷が
目の前にいるのは黒い髪、黒い瞳、白い肌を持つ美しい少女だ。
だが、なんというか普通の少女、そういう感じがする。
マユリアや先代シャンタルのような、人とは何か違う、そんな特別さを持ってはいない。それだけに、なんだか余計にかばってあげたい、そう思わせるような「女の子」であった。
「そうなのですか?」
「ええ、あまりこういう言い方はあれなんですが、ケガをした
「えもの?」
「あ、えーと、ケガをした刃物のことです」
「そういうものなのですか」
そう言いながらも心配そうな顔を崩すことはない。
「さあさあシャンタル、ケガをなさっている方を思われるお気持ちはとてもお優しいことですが、今はお茶会の時間を楽しみましょう。せっかく皆様来てくださっているのですし」
ラーラ様がやさしくそう声をかけると、
「そうですね。ケガをなさっているルーク殿には、何かお菓子を持って帰っていただくといいですね」
うんうんと
そうしてお茶会は始まった。
おいしいお茶とお菓子、和やかな会話。エリス様も衝立の中で召し上がってはアナベルを通じて会話に参加する。
アランとディレンは、女性たちの会話の邪魔にならぬよう、時々言葉をはさみつつ、こちらも静かにお茶を飲んでいる。
「ずっとそうやって何かを
小さなシャンタルのそんな質問にも、
「いえ、暑い国ではこの姿の方が日差しを
「そうなのですか。不思議です」
そう答えてシャンタルを満足させていた。
「あの、もしよろしければ、手持ちの物になりますし、こんな申し出は失礼にあたるかも知れませんが、シャンタルにこれと同じような衣装をお贈りしたいのですが」
その申し出にシャンタルは非常に喜んで、
「いいのかしら、いただいても。ねえ、ラーラ様、マユリア、どう思われます?」
そう聞いて、2人にいいのではないかと言われると、
「ありがとう、とてもうれしいです」
そう答える。
そうして時間が過ぎていくうち、侍女のアナベルが、
「あの、奥様から、私だけでも被り物を取ってはどうか、と」
そう言い出した。
「奥様は誓いがあるためお顔をお出しすることはできませんが、私は侍女ですし、奥様の代わりになるものではありませんが、高貴な方々に今のままではあまりに失礼ではないか、と」
その申し出に、マユリアとラーラ様が、
「それでよろしければ」
そう答え、ベルがストールを外す。
くるくるとした茶色い瞳、そして明るい茶色い髪にシャンタルが目を丸くした。
「とてもきれいな色の髪をなさっているのね」
「ええ、本当に」
「わたくし、黒以外の髪の色の方、初めて見ました。あっ、女性の方では、です」
そう言ってアナベルよりもっと薄い、金ではないがそれに近い茶色い髪のアラヌスの方をキラキラした目で見た。
「なんでしょう、お二人、なんだか雰囲気が」
「ええ、似てらっしゃいますね」
ラーラ様の言葉にマユリアも同意する。
「あの、実は私の兄なのです」
「え?」
「兄と妹なのです」
「それでですか、なんだか似た顔立ちをされていると思いました」
お茶会でどんな話をするかを話し合っていた時、
「もうさ、
ベルがそう言い出した。
「そんで名前もさ、アランとベルでいいじゃん、なーんか色々めんどくさい」
そうも言い、そうすることにしたのだった。
「名前も、普段は愛称のアランとベルと呼び合っております。よろしければその名前で呼んでいただければ」
「まあ、そうなのですか」
「では、アランとベルで」
にこやかにマユリアがそう言い、シャンタルが、
「アラン、と、ベル」
にこにこして
「はい、なんでしょうシャンタル」
「いえ、呼んでみただけです」
恥ずかしそうに言うのにみんなが優しく笑った。
「では、そのつながりでアラン殿とルーク殿がエリス様の護衛に付くことになったということですか?」
マユリアの質問に、
「はい、そういうことでございます」
ベルがそう答えた。
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