第31話 フレデリック王子殺害容疑
王の間には、玉座に座る王様以外には誰もいませんでしたわ。
ただ、ほんのちょっと想定外でしたのは、その王様が、以前ご拝謁を賜ったときと比べて、ガングロ親父になっていること。
前世で、光をほとんど反射しないベンダブラックという素材のニュースを見たことがありますが、まさに王様の肌色は、あの素材に近いものがありますわ。
黒というか、闇といった方が良いくらい全身が真っ黒です。
それでも不思議なことに、真っ黒なシルエットを見ただけで、わたくしには王様だと分かってしまいましたの。
単に王冠と服装だけで判断しただけかもしれませんが。
とにかく、わたくし、恐れ多くも陛下の前に進み出て申し上げましたわ。
「国王陛下! サンチレイナ侯爵家のアレクサーヌが、陛下を窮状からお救いに参りましたわ! これよりサンチレイナ侯爵家の王国への忠誠を示して見せますわ!」
わたくし、サンチレイナ侯爵家のアレクサーヌは、サンチレイナ侯爵家を強調して、王様にニッコリと微笑みましたの。
そうすると、どうでしょう?
王様の黒いシルエットがプルプルと震え始めたではありませんの!
これは、きっと臣下の忠誠心に感動しているに違いありませんわ。これでサンチレイナ侯爵家の株は爆上げ!
わたくしが聖剣を盗んだとか、サンチレイナ家が魔族と結託して王国の転覆を図ってるとか、そうした嫌疑も一気に晴れることでしょう!
「こ、この……」
王様は感動のあまり、言葉に詰まっておられるようです。
ただ王様の頭部から、黒い瘴気がもくもくと立ち上っているように見えますわ。
あぁ、早くこの王国を覆う怪異の原因を祓って、王様をお助けしなくては!
「この痴れ者がぁぁぁぁぁあ!」
……という王様の絶叫が、王の間を震わせました。
気のせいか、王様の身体が一回り大きくなった気がします。
痴れ者?
わたくしのことを痴れ者と言っているのでしょうか?
このわたくしが?
「痴れ者ですってぇぇ!? 痴れ者はあなたの子供でしょうがぁぁ! だいたい幼い頃から私と婚約しておいて、わたくしだけには厳しい教育を施しておきながら、王子はやりたい放題、遊び放題! それでも将来は王国を担う大事な御方だと、耐えて忍んで、歯を食いしばって、唇を噛みしめ、同世代の友人たちがキャッキャウフフと学園生活を満喫する中でも、ひたすらに勉強に励んで、礼儀作法を身につけて、片時も休むことなく精進してまいりましたの! フレデリック王子が女の子たちとダンスに興じ、彼女たちの手とり足取り腰まで取って遊び惚けている間も、わたくしには血の涙を流させるような刻苦勉励を強いておきながら、あのクズ男! とうとう商家の娘に手を出して! それがただの遊びということであれば、王国のため百万歩譲って耐えてもみせましょうに、あろうことかわたくしとの婚約を破棄して王妃にするという! 痴れも者というのは、そういうクズ王子と、そのようなバカに好き放題させていた親ではないでしょうか!?」
きっと瘴気に当てられてしまったのでしょう。
わたくし、やってしまいました。
ボワワワワワワワッ!
王様の頭から、もう噴火直後の火山のように煙が立ち昇っておりましたわ。
ブルブルブルブル。
身体の震えも、ますます激しくなっております。
もしかして?
もしかすると?
陛下のこの震えは、わたくしの忠誠心に感動しているのではなかったのかもしれません。
「貴様……貴様、キサマキサマキサマはぁぁあああ!」
王様の全身から大量の瘴気が噴き出しております。
その勢いたるや、この王都を覆う瘴気の元凶は、この王様だとわたくし確信しましたわ!
そして王様は、怒りを爆発させました。
「貴様ぁぁぁ! 我が息子フレデリックとその婚約者たるリリアナを殺しておいて、何を抜かすかぁぁ!」
「「えっ!?」」
レイアとチャールズが、目を見開いてわたくしの方を見ましたわ。
「ほ、ほんとうなのですか、アレクサ? 貴方は王子を殺害したのですか!?」
「何かの間違いだよね? アレクサ?」
えっ? あれ?
どうしてでしょうか? 一気に形勢が逆転して、まるでわたくしが悪役のような立場になってしまいましたわ。
もし、王様の言う通りでしたら、わたくし本物の悪役令嬢ということになりますわね。
王様の言う通りでしたら! ですけど!
だいたい、わたくしは王子を殺害などしていませんわ!
二人を殺したのはローラですもの!
ここは断固として無罪を主張させていただくことにいたします!
それにしても、疑問がありますわ。
「どうして二人が殺されたことをご存じですの!?」
これから無罪を主張しようとする前に尋ねることではなかったかもしれません。
まるで殺人犯が悪事を暴かれた直後のようなセリフですもの。
「アレクサ、まさか貴方……」
「アレクサ……」
レイアとチャールズが、わたくしの方を悪魔でも視るような目で見ておりますわ。
「ちょっと! わたくしは二人を殺したりしておりませんわよ!」
わたくしは、レイアとチャールズに向かって叫びました。
「殺したのはローラで、わたくしが殺したわけではありませんの! だいたい、お二人の仲人たるわたくしを差し置いて、あんな瘴気まみれの王様の言うことを信じますの!?」
わたくしの言葉に、二人の表情がハッとなりましたわ。
「た、確かにそうですね。貴女の言葉を信じるべきでした。それにしても仲人とは?」
「王子と婚約者を殺したローラというのは、一体どこの誰なんだ?」
どうやらレイアとチャールズについては、わたくしに対する誤解が解けたようですわ。
ですが……
「それがどぉおおしたぁあああああああ!」
王様の方はと言えば、さらに怒りを爆発させて、全身が瘴気で包まれてしまいましたの。
瘴気の雲の中では、メキメキ、ミシミシと異様な音が鳴り響いております。
そして、瘴気の中から、何かが出てきました。
それは巨大な黒い腕。
巨大な黒い足。
そして、
巨大な黒い化け物が姿を現したのですわ。
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