第22話 懐かしき我が家

≪サンチレイナ侯爵領 ~サンチレイナ邸~≫


 懐かしき我が家に戻ったわたくしは、まずはフレデリック第一王子との婚約破棄について、両親に報告しました。


 カールスタット城で起こった出来事については、既に報せが届いていたようで、両親はわたくしが王宮を脱出するまでの事情は把握しているようでしたわ。


 それから行方不明になっていたわたくしが無事に戻ってくれたことを、二人とも心から喜んでくれました。


 父上は、フレデリック第一王子の突然の裏切りに、怒髪天を衝く勢いで腹を立てており、国王に対して激しい怒りの手紙を送りつけていたようですの。


 サンチレイナ家は、王国を守る鉾として自他ともに認められる武勲の家系。その家の娘が、王族の婚約者に裏切られたという事実は、フレデリック王子の言い分がどのようなものであれ、王国に大きな動揺をもたらしていることでしょう。


 フレデリックとリリアナたちが、執拗にわたくしを追って聖剣ハリアグリムを手に入れようとしていたのは、そうした醜聞を振り払うための行動だったのかもしれませんわね。


「お父様、お母様、こちらの二人が、危難の災禍に巻き込まれたわたくしを救ってくださった、命の恩人なのですわ」


 そう言って、わたくしはシュモネーとローラを両親に紹介しました。


 わたくしは、鬼の形相で追ってくるフレデリックとリリアナたちから、二人がどのようにしてわたくしを救ってくださったのかを、特盛つゆだくの盛り付けで両親に語りました。


「シュモネー殿、ローラ殿、我が愛娘を守ってくれてありがとう。サンチレイナ家の名誉に掛けてお二人の御恩に必ず報いると約束する」


 そう言うとお父様は、シュモネーとローラに深く頭を下げました。お母様も涙ながらに二人の手を取って何度も感謝の気持ちを伝えておりました。


 まさにチャンス到来! 今この機会を逃すわけにはいきませんわ!


「お父様、お母様! 実はお二人のためにどうかお力添えをお願いしたいですの!」

 

 そこからわたくしは、人と魔族の異母姉妹の語るも涙、聞くも涙の悲劇の物語を、両親に語りました。

 

「王国から遥か遠い大陸の最北端。ヨルンの住人でさえ凍えるという北の果てにある小国ノルドリア。その辺境にある領主の娘がシュモネー様なのですわ。そしてローラ様は、シュモネー様のお父上が魔族の娘と契って生まれた異母姉妹。魔族の娘として虐げられてきたローラ様は、ついにお父上からさえも命を狙わるようになってしまいましたの! それで大切な妹を守るために、シュモネー様はローラ様を連れて出奔。逃れ逃れてこのゴーラの地まで逃れてきたのですわ」


 殲滅姫ローラは、彼女がシュモネーの妹であるという、わたくしの設定を痛く気に入ったようで、先程からニマニマとだらしない笑みを浮かべておりますの。


 黒い巻き髪に白い陶磁のような肌を持つローラは、その真紅の瞳と時おり見える牙のために、魔族であることを隠し通せるとは思えませんでした。ので、最初から魔族設定でゴリ押したのはどうやら正解だったようですわ。


「そのような過酷な運命がお二人の身の上に!?」


「ぐずっ……大切な妹のために……なんて素敵な方でしょう!」


 両親がイイ感じで感涙に咽ぶのを見て、わたくしは内心でガッツポーズを決めましたわ。


 元々サンチレイナ領が、魔族の往来も少なくない地域であることから、魔族に対する偏見が王都や他の領地に比べて少ないのは幸いでした。

  

 ただゲーム『殲滅の吸血姫』では、それが仇となって魔王軍の侵攻を容易くし、王国からの救援も得られずにサンチレイナ領は滅亡してしまうのですが。


「それでお父様、お二人のためにお願いしたいことが……」


 二人の身分保証について、お父様は快く了承してくださいました。さすがにお父様の隠し子というのは却下されてしまいましたが。二人を領民として保護し、サンチレイナ家の客人として厚遇することを約束してくださいましたの。


「もしノルドリアからの追手が来ても、わたしが必ずお二人をお守りしよう」

「どうかこれからもアレクサーヌと仲良くしてあげてくださいね」

 

 両親の攻略が完了したわたくしは、丁度、屋敷に帰って来た長兄と次兄にもシュモネーとローラを紹介しました。

 

 男気溢れる二人の兄たちは、わたくしの話を聞いて、両親と同じように二人を保護することを約束してくださいました。


 後はアンナお姉さまだけですが、お姉さまなら例え本当のことを話したとしても、きっと二人を受け入れてくれるはずですわ。


「お母様、お二人をアンナ姉さまに紹介したいのですけれど、いつお帰りになられるのかしら?」


 わたくしの言葉を聞いた両親の顔がサッと青くなりました。


 えっ!? 何ですのその反応!?


「アレクサーヌ、心を強く持って良く聞きなさい」


 お父様の両手がわたくしの肩に乗せられました。


「アンナは……」


「えっ? お姉さまに何かありましたの!?」


「アンナは武者修行の旅に出て行った」


 えっ!?


「旅先から届いた頼りによると、今は新大陸に向っているらしい」


 ええぇぇえぇぇぇぇえ!?


 わたくしの絶叫が屋敷中に響き渡りました。

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