第19話 シュモネーの干渉
故郷に戻ってお姉さまを守るためには、もう何としてもこのシュモネーを味方に付けるしかありません。
覚悟を決めたわたくしは、やぶれかぶれの禁じ手も使うつもりですわ!
「そもそも、シュモネー様はヒエロニムス王とのお約束でハリアグリムの聖剣を守り続けられていたのですよね? 聖剣を正しきものに手渡すために!」
「えぇ、まぁ……そうですね」
シュモネーの眉が少し中央に寄せられましたわ。
「それに神の怒りに触れて滅びた都の神話。私の連れがその話をしたとき、シュモネー様は何かご弁明をされようとしていましたね」
「う゛……」
はい! 「う゛」を戴きましたわ!
「お心当たりがあるということですわね?」
「じょ、上訴で……」
シュモネーの頭にあるアンテナのような飾りの先端が赤く点滅していますの。きっとここが責めどころなのですわ!
「あなたはわたくしが死に戻りする度にここで出迎えてくれました。しかも、今回が何度目だったかもご存じでした」
「そ……そうだったかなぁ……」
シュモネーの目がキョドり始めました。嘘下手か!
「シュモネー様、わたくしは貴方がこの世界の神にも匹敵する……いえ凌駕する存在であることを存じております。もしかするとわたくしの正体もご存じなのかもしれません」
「……」
「でも、そのことを深く知るつもりはわたくしにはありませんの。わたくしの願いは、ただ故郷に戻って愛する家族や領民を守りたいだけですわ」
「……」
シュモネーのアンテナ?の光が赤からグリーンに変わりましたの。聞く耳を持ってくれたということなのでしょうか。とにかくわたくしは話を続けるだけですわ。
「それにわたくしは、この世界に大きな力を振るって欲しいと願うわけではありませんわ。魔王を倒して欲しいとか、神の力で世界を救って欲しいとか、そんな大それたことを願うわけではありません」
わたくしはここで一度ひと呼吸入れました。
まずここで大きな願いを見せておいて……
「ただ故郷に戻るまで、数日ほど護衛をしていただければ十分ですの」
「護衛? それだけですか?」
「それだけですわ!」
釣れましたわ!
大きな願いをイメージさせてからの~、意外にちっぽけなお願い作戦ですわ!
もちろん、ちゃんと餌も用意しておりましてよ!
「それにシュモネー様は、観光で王都に向かわれると言うことでしたが、わたくしを無事にサンチレイナ家に送り届けて頂ければ、我が家がシュモネー様の身分を保証させていただきますわ!」
「ほむ……この時代の状況を精査してから身分を偽装する手間は省けそうですね」
シュモネーはその顎先に手を当てて、その美しい顔を少し傾げて考え込みました。ここは押しの一手ですの!
「なんでしたら、お父さまの隠し子ということにして家にずっといて頂いても構いませんですの。少なくともここにいるより、我が家で過ごしていただいた方が最近の世相を掴みやすいと思いますわ。もし何かしでかされてしまっても、うちの領内でしたら揉み消すことだって容易ですの!」
わたくしが早口でまくしたてるのを聞いたシュモネーは、何やらブツブツとつぶやきながら自問自答をしているようでしたわ。
「んー。確かに……この時代の情報をスムーズに入手できるのは大きなメリットですね。何より身分が手に入るのは助かります。それにここは狭間ですし……介入と見做される閾値も高い……はず、でも……」
考え込むシュモネーにわたくしは最後の決め手となるフレーズを繰り出しますの。これで駄目なら何をやってもダメだったということでしょう。
「フワデラとカエデについても多少のお話ができるかもしれません」
「えっ!?」
シュモネーが目を丸くして驚いていますわ。ポカンと口を開けたままわたくしを見つめていますの。
フワデラとカエデというのは、ゲーム「殲滅の吸血姫」でシュモネーのフレーバーテキストに表示されている謎ワードですの。
『……久遠の先、死すら滅びるその先にてシュモネーは、カエデとフワデラに邂逅し元なる数へと還る。その数字は8である』
その意味するところはさっぱりわかりませんが、シュモネーの興味を引くことができました。
それにフワデラについては、先の魔王を倒した勇者の名前ですの。シュモネーが探しているフワデラと同じかどうかわかりませんが、とりあえずわたくし嘘はついていませんわ。
カエデ……というのはわかりませんが、なんとなく東方っぽい感じがしますわね。アンゴール帝国あたりにいそうな名前じゃないでしょうか。
適当? かもしれませんが、この超極細の糸のような手掛かりだってシュモネーにとっては価値があるかもしれないじゃないの! ですわ!
「わかりました。貴方を家までお送りしましょう。その代わり……」
「えぇ、サンチレイナ家が貴方の身分を保証し、あなたを我が家に受け入れますわ。それとフワデラとカエデのお話もさせていただきます」
「では約束ですよ?」
「聖樹にかけて!」
やりましたわ! チート級の支援NPCの召喚に成功しました!
これで殲滅姫たちにも勝つる!ですわ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます