第11話 正義の味方惨状!
≪隠れ里 ~オークランド~≫
山間を縫うように進み続けていると、突然眼下に広大な谷間が広がり、そこに大きな村落があるのが見えてきました。
麦畑ではたくさんの村人が熱心に働いており、わたしたちが村落へ馬を進めても誰も気にする様子はみられません。道中すれ違った人々も、こちらに声を掛けてくることも目を向けることさえもなく、もくもくと仕事を続けています。
「なんというか……寡黙な人たちですね」
レイアは挨拶を交わしても無視されたことに、ちょっとしたショックを受けた様子だった。
「こうした田舎にはよそ者に対して寡黙なものは多いよ。沈黙は宝とも言うし、寡黙な働き者というのは聖樹の御心に沿うものだよ」
などとレイアにフォローを入れるチャールズの顔にも困惑が浮かんでいました。いくら寡黙な人間でも聖職者から声をかけられてガン無視というのはまずありませんからね。
まぁ、わたくしは村人が寡黙な理由を知っているのですが。
わたくしたちはそのまままっすぐ村長のお屋敷に向かって、お話を伺うことにしました。
「アレクサ、君はこの村を訪れたことがあるのかい?」
チャールズが不思議そうに尋ねてきました。
「いいえ、本の知識とここを通った旅人からお話を聞いていただけですわ。わたくし自身、なにもかも想像していた通りでビックリしておりますの」
わたくしは、村長に対してここに訪れた旅人や冒険者が行方不明になる事件についてはお話をさせていただきました。村長は、その話を聞いて大変驚いた様子でした。ちなみにレイアとチャールズも驚いておりました。
イベント発生の過程をいろいろと省略してしまったので、当然の反応ですわね。
ただ村長には話をしておかないとこれから訪れる屋敷の門が開きませんの。
「行方不明者をお探しでしたら、メリッサ様のお知恵を借りられるとよいかもしれません。使いの者を出しておきますので、この先の屋敷に向かわれるとよいでしょう」
もちろんこれは罠ですの。こうして、この地域の実質的な領主である魔女メリッサの屋敷に招き入れては犠牲者を増やしていますの。この村長は、村を訪れた生贄の見定めを行っておりますのよ。
「感謝申し上げますわ。それでは早速、向かうとしましょう」
――――――
―――
―
≪隠れ里 ~メリッサの屋敷~≫
屋敷に隣接する街道から門までは、ブラッドコーン畑の間にある細い道を抜けていきますの。わたくしたちが一列になって馬を進めていると、ちょうど道半分まで来たところで馬が騒ぎ始めました。
(しまったですわ!)
周囲のあちらこちらからざわざわと音が聞こえてまいりました。
「お二人とも一気に走り抜けるのですわ!」
馬を落ち着かせようと奮闘していた二人が、わたくしの叫び声を聞いて無理やり馬を進めようとしました。
「ひぃぃぃぃん!」
チャールズの馬が大きく前足を上げて彼を振り落とし、そのまま横向きに倒れてしまいます。
「チャールズ!」
レイアが慌てて彼を振り向きます。
「走って追いつく! 先に行け!」
チャールズが短槍を使ってレイアの乗っている馬のお尻を思い切り叩きました。レイアの馬は主人の制御を無視して、わたくしも追い越して前へ走っていきました。
「チャールズ! 耳を塞いで!」
チャールズが耳を塞いだ瞬間、わたくしは【乙女の叫び】を放ちました。
「やぁぁぁぁぁぁぁ!」
周囲のざわめきが鎮まる。
「このまま走り抜ける!」
チャールズがわたくしを追い越して走り出しました。わたくしは殿を務め、彼の背後を守りながら門へと辿り付きましたの。
「「!!!」」
開いた門の中には、魔女メリッサが血に濡れた大鎌【ブラッドサイス】を構えて、わたくしたちを出迎えていましたわ。
「レ……レイア……」
チャールズが膝を地面に落とし、両手で自分の頭をわしずかみにしましたの。目の前の現実が受け入れられず、彼が壊れていくのが我が事のように感じられました。だってわたくしもチャールズと同じものを見て、同じことを感じていたのですから。
魔女メリッサがブラッドサイスを握る反対の手に、
レイアの首が下げられていたのです。
「よくもレイアを……この腐れ魔女がぁぁぁぁぁ!」
わたくしは絶叫しながら剣を抜くと同時に【炎の眼】を魔女に向けました。絶叫を聞いて我を取り戻したチャールズも立ち上がって短槍を構えます。
魔女の周囲では青白い火花がパチパチと弾けていましたが、これは【炎の眼】の効果をキャンセルしていることを表しているためですね。
わたくしは己の油断によって生まれてしまったこの状況に心底から歯ぎしりしていました。前世の記憶を過信した傲慢によってレイアを死なせてしまいましたの。
チャールズが先に魔女に飛び掛かりました。魔女は後ろに下がりつつ、さらに空中へ浮遊します。
この魔女のやっかいなスキル【空中浮遊】。この魔女相手にはレイアのエルフィンリュートがクリティカルな武器でしたのに。
チャールズが空中の魔女に向かって短槍を投擲しましたが、簡単に避けられてしまいました。お返しとばかりに魔女はチャールズに向かって突進し大鎌の一撃――
それは普段のチャールズなら余裕で防げたはずですわ。
でも目の前に放り投げられたレイアの首をチャールズは選んでしまいましたの。
ザクッ!
チャールズの左胴を大鎌が切り裂き
ザシュッ!
思わず前屈みになってなったところへ、返す大鎌がチャールズの首を落としました。
その光景を目の当たりにしたわたくしは、震える体を叱咤してレイアの身体のところへ、エルフィンリュートのところへ進めていきましたの。
そしてついにエルフィンリュートを手にした!と思った瞬間。
「!」
わたくしの両腕がわたくしの身体から切り離され、
ザシュッ!
わたくしは死んでしまいましたの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます