第2話 破
ことの起こりは、三週間ほど前に
その日は日曜日。
コロナ
遠くからサイレンが聞こえてきたのは、リビングの柱時計が正午の時報を告げた時。
その直後、一階にいる母親が声をかけてきた。
「新。お昼ご飯にしましょう」
「はーい」
ゲームのデータをセーブして、階下へ降りる間もサイレンはどんどん近づいてくる。
リビングに入った時、サイレンは止まった。
リビングにいた母親は、不安そうな顔をしている。
「やあね。うちの近くで火事かしら? 新、ちょっと様子を見てきてくれない」
「ええ」
嫌そうな声を上げながらも、新はマスクを装着すると玄関に向かった。
「ん?」
玄関から出た時、足下に何かが落ちているのに気がつく。
拾い上げてみると、綺麗にラッピングされたチョコレート。
……そうか。今日は二月十四日だったな。でも、なんで家の前に?
バレンタインデーなんて、自分には関係ないものと考えていた新は、今日がバレンタインデーである事などすっかり忘れていた。
「それ、あたしのです」
不意に声をかけられ、声の方を向くと、そこにいたのは小柄な人物。
声色からして女性のようだが、赤いダウンジャケットを
とにかく、チョコはこの人の物らしい。
では、さっさと返すべき。バレンタインデーなど自分には縁のない異世界での行事。さっさと持ち主に返して、今の出来事は忘れるべきだ。
そう考えて、チョコを差し出した時……
「荻原君?」
不意に名前を呼ばれ、新の手は止まった。
「ここって、荻原君の家なの?」
「え? そうだけど」
「よかった。どこだか分からなくて、探しちゃったよ」
どうやら、この人物は自分に会いに来たらしい。
しかし……
「君、誰?」
「あ! ごめん。メット被ったままだった」
ヘルメットを外すと、その中から長い艶やかな黒髪がファサ! と出てくる。
「飯島さん?」
新の通う高校のクラスメート、
……なぜ、飯島さんが?
二月十四日の日に、女の子がワザワザ会いに来ると行ったら他に理由はない。
しかし……
……いや、違う。飯島さんがワザワザ僕なんかに……
変な期待をして、裏切られたら立ち直れない。
だから、期待なんかしない事にしようと思っていた。
実際、彼女は新の差し出したチョコを受け取った。
……ほらね。僕なんかにくれるチョコじゃなかったのだよ。
だが、彼女は……
「あら、ヤダ。中身バラバラになっちゃったかも……」
少し
「荻原君。好きです。あたしと付き合って下さい」
……ええええええ!?
期待しないようにしていたせいで、逆にショックが大きい。
「え? え? え? 僕に」
「ダメかな? 落としてバラバラになったチョコなんて?」
「そんな事ないよ。とても嬉しい。でも、なんで僕なんかを?」
「だって、荻原君って、可愛いし……」
……え? 可愛い? それって子供っぽいって事では?
しかし、馬鹿にされているわけではないようだ。
それに新は、以前から飯島露をいいなと思っていた。
だけど、自分に自信がなく、ずっと言い出せないでいた。
まさか、彼女の方から告白してくれるとは……
「飯島さん。……その……僕も君のことが好きだったんだ」
「本当!? 荻原君も、あたしの事、好きだったの?」
「うん。ごめんね。こういう事って、僕の方から言い出すべきだったよね」
「ううん。いいの。荻原君があたしの事を好きでいてくれて嬉しかった。ねえ……それじゃあ……」
露は何かを言い掛けて、口ごもる。
「どうしたの? 飯島さん」
「頼みたいことがあったのだけど……ダメだよね。こんな事」
「え? そんな事ないよ。飯島さんの頼みならなんだって……」
「本当に? いいの? あたしの頼み、聞いてくれて」
「うん。いいよ」
「嬉しい! それじゃあ、三月十四日のホワイトデーの日には、あたしと一緒に
「え?」
……行くって? どこへ? デートの誘いって事かな?
「いいよ。一緒に行こう」
「本当! あたしと一緒に、
「うん」
「約束よ。破っちゃだめよ。迎えにくるから、一緒に
デートの誘いにしては、どこか違和感がある。
しかし、生涯初めて
そして、翌日……
飯島露は、学校に来なかった。
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