Notes

漂本

紙片 1枚目:No life


「あなたは死ぬのが怖くないの?」

「……。」


 そもそも、僕は今、生きているのだろうか。

 無痛症である僕は痛みは勿論、温度にも鈍くて。沢山殴られて気を失うのも、沢山の殴られた振動と共に眠るのと大差がない。

 つまるところ、意識を失うのも眠るのも僕には大差が無い。

 死ぬときって、大概痛みとかそういった苦痛が伴うとよく聞く。しかし、僕にはその境界がないから、今寝ているのか起きているのか、そもそもこの世界が生きてる世界なのか死の世界なのかよくわからない。人間って、どうして今自分が生きて今ここにいると確信を持って言えるのだろうか。そもそも、ここは夢の中かもしれない。自分が今生きてこの世界に存在するという根拠は、一体なんなのだろうか。


「君の解に答える場合、まぁ死ぬのは怖くない、かな。うん。」


 でも僕にはそれが寝ただけなのか死んだだけなのかよくわからないけどね。


「ところで、僕って今生きてる ?」




“無痛症の拷問屋と不死の少女の話”




 アイツはボクを何度も殺す。

 何度も何度も。

 痛みがわからないから、痛みを理解したいために何度もボクを殺すらしい。ボクを痛めつけ、痛がっている様子を、アイツはよく観察する。どこを切れば痛いのか。切られたときボクらはどんな行動をするのか、声をあげるのか、表情をするのか。

 痛いのは嫌いだ。大嫌い。

 死ぬのも嫌いだ。平穏に生きたい。

 何度死んだって生き返ることはわかっていても、痛みもあるし、ボクには心がある。だから痛いものは痛くて、嫌なものは嫌だ。

 でもこの秘密を吐かない限りアイツはボクを解放しない。話すわけにはいかない、殺される。

 ボクはそれでも、自分が死んでも生き返ることがわかってるから、話さない。この拷問は非常に無駄だ。終わりがないから、もう意味がない。それなのに、終わらない。アイツがボクを相手にしているというのが、ボクの運のツキだった。


 しかし、解放されたい一方で、ボクは興味が湧いてきたのだ。あの痛みを持たない拷問屋に。

 アイツは死ぬのが怖くないという。何故なら死と眠りの境界線が無い。アイツは痛みを感じないから、大概痛みや苦痛の伴う死というのは、眠りの延長線上のものらしい。だから怖くないと。


 それは嘘だろう。


 何度かアイツを殺したくて寝込みを襲うことを考えた。しかし、アイツはそもそもほとんど寝ない。アジとに戻って沢山人がいるところで立ったまま1時間もないくらい眠るくらいだ。

 アイツは一番恐れてるんだ。死ぬ事を。

 眠っている間、知らぬ間に死んでいることを。

 なにかが起こったこともわからず、気づけば覚醒しないことを。


 ──だから、アイツを殺したい。アイツが眠っているとき。ゆっくりゆっくり、ドロドロと、アイツを死へと誘いたいのだ。



─ "Read"より

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