第176話 狂国の魔女 5

 フレイヤの反骨精神は知っていても、アーサラは親友が考えにふけるカオが気になった。


「それで、リズ?そのマーリオンの所にはどのくらい居たの?」


「ん?」


「だって、気に入らないことは神様にだって文句を言うあなたでも、ちょっと知り合っただけの同族の事でそんな顔しないでしょう?その娘を気にかけるだけの関わりがあったわけね……?」


 するとリスベットはちょっと額にシワを作った。


「ちょっと、人をあら探し屋みたいに言わないでくれる……?」


「いえいえ、誰に対しても物怖じせずに自分の意見を唱える、コレは褒め言葉だけど……?」


(うぉ……さすが親子、なんか叔母さまがフレヤさんに見えた……!でも叔母さまがオリジナルなんだから逆なんだけど……)


 などと二人の会話にセアラは既視感を覚える。


「ねえ叔母さま、もしも私が、そのマーリオンさんと同じ境遇だったら……お母さんも亡くなって寂しいところに叔父さまと叔母さまが現れたら、他人とは分かっていても、二人に何か特別な運命を感じちゃうかもしれない……」


 セアラにしては憂いを帯びた声色だ。


「ほんの少しでも、そんな気持ちが心の片隅にあれば、叔母さま達を見るマーリオンさんの目にも訴えるような想いが見えたんじゃないですか……?それを叔母さまは、放って置けなかった…………」


「ふうん、さすが『ナンナ』……そうよね、この一年で成長していたのはフレヤだけじゃないわよね……」


 そう言ってリスベットが嬉しそうに笑った。アーサラが言ったように、魔女はあまり二人以上の子供を作れない。だからこそ、セアラのことはフレヤの妹のように見守ってきたからだ。


「まあね、私もフレヤもこんなだから、セアラにも余計な気苦労をさせているでしょうね?」


「や?やややや……っ」


 すると気まずそうに目をそらすフレヤのことが妹分はつい可哀想になってしまう。


「……ええと、ホラ…ワタシは慣れてるから大丈夫っ?あはは…………」


「ふふ、これじゃどっちがお姉ちゃんなんだか……これからも仲良くしてあげてね?」


 もちろんセアラはふんぞった。


「むふふんっ、任せて下さい。お姉ちゃんの面倒は私が見ます!」


 リスベットはそんなセアラに微笑んだ後、ワザとフレヤと目を合わせる。そしてフレヤはその瞬間に母にクギを刺されたことを理解した。


 無茶をするのはかまわない。でもセアラや自分の周りの大切な人にどんな火の粉を飛ばすことになるのかをよく考えてから行動しなさい、そうリスベットの目が言っていた。


(もう、わかってるわよ……)


 フレヤは肩を少しだけ持ち上げてそう返事を返す。するとリスベットの目はふっと優しくなるのだった。


「ところでさっきのアーサラの質問に答えると、私達は3週間くらい彼女の家でお世話になったわ。それにお察しのとおり、彼女はやっぱりだいぶ疲れているように見えて心配だったのと……」


 リスベットは言いづらそうに言葉を切った。


「人を好奇の目で見るようで自分でもイヤなんだけど、さすがに確かめてみたかったのよ、伝説のような話でしか知らない『メディウムファトムの子』がホントウなのかどうか……」


「ああ……!」


「なるほどねえ」


 後ろめたそうな物言いをしたリスベットに、他の魔女勢はそれを納得するような相づちを返した。


「と、ちょっとストップ!」


 もちろんランドンは慌てて話を止めた。


「また何か知らない言葉が出てきたな!?『メディウムファトムの子』とは何なんだ?」


「あら、そうよねえ。ん、でも、メディウムファトムの子…なんて言葉はね、実際には無いのだけどね……」


「…………」


 わけがわからずランドンは怪訝な面持ちになっていく。


「まあまあ、そんな顔しないで……。思わしくない宿命を背負ったメディウムファトムの話はどうしたって気も重くなるけど、その稀有な宿命は彼女達の子供にも影響を残すという話があって……」


 ランドンの顔にはますますシワが増えた。


「子供にまでだって…っ?ウソだろ?」


「本当よ……。でも安心して、それはけっして悪いものじゃないのよ…多分」


「多分?またなんか歯切れのわるい言い方だな……」


 アーサラに目で求められてリスベットが相づちをうつ……。


「そうね……。まるで分け与えられたかのように受け継がれなかった私達の力……でも、母親が持ち得なかったその力を…運命は双子の子供に上乗せすることで帳尻を合わせるというハナシ……」


「う、上乗せだって?」


「ええ、例えばマーリオンの場合には、母親が継げなかった飛ぶ以外の全ての能力が……能力加減が普通よりも強く発現するという言い伝えよ」


「のうりょくかげんっ?!ナニそれっ、言い換えられると余計にワカランっ!それにそんな『お詫び』みたいな事があるくらいなら最初から母親に『普通加減』な力をあげればいいじゃないかっ?」


 理不尽な神の『加減』にランドンは文句を言う。


「普通加減な寿命もな!」


「ええ、そうね、私も同感よ。それでもメディウムファトムはホントに存在したし、マーリオンも確かに……私達よりも強い力を持っているようだった…………」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る