魔王「世界の半分で手を打たんか?(震え声)」勇者「その話、詳しく」

羽希

第1話 弱々な魔王と変な勇者


「こ、殺されてしまう…」


魔王リリーは魔王城の自室でガタガタと震えていた。

傍に控えるメイドのマリエも、どこか諦めた雰囲気を漂わせている。


勇者達が魔王直下の領地に侵攻してきて早半年。

たったそれだけの間に勇者達はとうとうこの魔王城のあるトーキョーまで侵攻してきた。

そして、まさに今この城に現れたとの報告があがってきた。


普通、こういう場合は勇者達を迎え撃つものだろうが…魔王城にいる彼らの士気は燦々たるものであった。


その理由は単純である。彼らは魔王軍で最も強大な力を持つ四天王をすでに全員失っていたからだ。


魔王軍で勇者達に対峙できる強大な力を持つものは四天皇だけ。

そんな彼らは勇者達にすでに全員殺されてしまっていた。


そして今代の魔王、リリーは弱い。

能力でいえば四天皇以下。

彼女は先代魔王の子供だから魔王の座を継いだだけのいわばお飾りの魔王であった。


つまり、彼女達はもうすでに詰んでいる状態なのだ。

もはや勇者たちに太刀打ちできる者は魔王軍には存在しなかった。



マリエは涙を流しながら震えるリリーをそっと抱きしめる。

「リリー様。私は何処までもお供します。それがたとえあの世であったとしても」



「マリエ!怖いよ!嫌だよ!」

リリーはマリエに抱き着くとワンワンと泣き出す。

マリエも静かに涙を流しながら彼女の頭を優しくなでる。





どれだけの時間そうしていただろうか。

リリーは目元を袖口で拭うとマリエに赤くはれた目を向けてほほ笑んだ。


「…ミレーネもククリも皆、私を信じて殉じていったのだ。ならば私も最期の覚悟を見せなくてはな」

それは魔王としての最期の意地だった。


「はい。それでこそ我らが魔王様です」


魔王リリーはマントを翻し謁見の間へと歩き出す。

マリエはその最期の姿を焼き付けておくべくその後を追う。



リリーは謁見の間にて勇者達を待った。

その姿は尊大にして優雅。

まさしく魔王たる風格を備えていた。


暫くすると謁見の間の大門が周囲に響く音を立てながら開かれ、そこに勇者が現れる。


先程まで大泣きしていたのが嘘のようにリリーは尊大な態度をみせる。

魔王リリーは玉座から立ち上がるとマントを翻し勇者へその声を轟かせた。

「勇者よ。ようこそ、我が城へ。よくぞここまでたどり着いたものだ」


その言葉に無数の傷が走った鎧と聖剣を携えた勇者は答えた。


「どうも初めまして!魔王リリーさん。私は勇者をしているイース・フォルテというものです。あ、これお土産です。皆さんでどうぞ」


ニコニコと「数が足りるといいんだけど…」と片手に持っていた紙袋に入ったお菓子を差し出してくる。


「…」


リリーは意味がわからず怪訝な表情を見せる。


勇者は老若男女問わず魔族たちに剣を振り下ろす、感情があるのかどうかも怪しい血も涙も無い人物である。

と、リリーは報告を受けていた。


今目の前にいる勇者はこれまで聞いていた殺伐とした勇者の印象と大分、いや全然違った。

というかおかしい。



そこで、ふと勇者が一人でいることに気がつく。

「…仲間はどうした」

「皆、置いてきました」


その言葉を素直に信じる魔王ではない。


「何か企みがあるということか…」

「いえいえいえ!本当に!っていうかあいつら仲間じゃないし!」


「………。」

「…あれ?もしかして信じられてない?ならこれでどうです?」


そう言って勇者は傍に差していた剣を床に放り投げた。

敵地で身を守るはずの武器を簡単に捨てた勇者にリリーは驚愕する。


「なぜ武器を手放す!我を愚弄する気か!」

「いやいや、そうじゃないですよ!俺、今日は話し合いに来たんです!」


「話し合い?」

「はい、話し合いです。俺は話し合いに来たのです。で仲間は邪魔なので置いてきました!」


リリーは一瞬その話を信じたくなった。

その話が本当であれば自分達は死ななくて済むのだから。


だが、ミレーネ達を、自国の民たちを殺戮してきた彼らを信じるなんてどう考えてもバカげていた。あの者達の笑顔を、未来を奪った勇者の話など一笑すべきことだ。


「戯言を!ここにおいてはもはや武力での決着以外ありえんであろうが!」

「いえ、俺は本気で話し合いに来たんですって!」


ならばとリリーは冗談を口にする。


「ふん。話し合いだと?ならばどうだ。例えば、私とお前とで世界を半分に分けようと言ったら。お前はそれでもこのテーブルに乗るのか?」



「マジですか!!最高ですね、それ!乗ります乗ります!ぜひその話、詳しく!」

勇者イースはそう言って魔王の提案に目を輝かせる。


「…はへぇ?」


リリーは思わず間抜けな声を出す。

その反応は魔王リリーにとって、とても予想外なものであった。



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