美術館2
「あーっ!こんなところにいた!!」
私の肩を後ろから掴んだのは澄華だった。
「…なんで絵画に近づいてるの?」
ドン引きしたような目で私を見つめてくる。
次の瞬間には意識がはっきりとした。
絵画が近づいてきたのではなく、絵画に私が近づいていたのだ。
「ちょっとボーっとしてた…」
曖昧に流し、絵画から離れた。
どうやら澄華は先生に事情を話せたみたいだ。
「さっき適当にレポート書いたから、類もさっさとなんか書いときなよ~」
澄華はそう言って自分のプリントをぺらぺらとこちらに振った。
適当とは思えないくらい丁寧に字が紡がれている。
「近づいて見るくらい気に入ったのなら、この絵画のことでも書いたらぁ?」
さっきの光景を思い出し私はとっさに顔を赤くした。
「なっ!…さっきのは忘れてよ!」
と言いつつ、時間ももうやばい。
そう思って仕方なくその絵画についてレポートを書いた。
「あれ、火憐がいない…」
火憐の待つ椅子に戻ってきた私と澄華は驚いた。
「九栗ならさっき帰らせたぞ」
千川先生がやって来てそう言った。
たしかに、とてもしんどそうだったし家に帰ってゆっくり寝るのが1番だと思う。
そんな話をしていると
「よかったー。やっぱりみんなここに戻ってきてたんだ」
蛍の声。
ということは…
恐る恐る振り返ると蛍の少し後ろに蓮巳がいた。
蓮巳は付けていたメガネの位置を調節し私に目を合わせた。
逃げ出したくなった。
何故かはわからない。
でも今は顔を合わせたくはなかったんだ。
「鳴宮と松風?なんか珍しい組み合わせだな。」
先生が2人を見てそう言った。
そんな余計なことを言わないでよ、って心の奥で叫んだ。
仕方の無いことか。だって幼なじみの蓮巳とはクラスは違うけどいつも一緒だったから。
登下校も一緒だし。
ましてや、私と蛍が一緒ならよく見かけるけど
蓮巳と蛍の2人組なんて普段なら有り得ないコンビだから。
先生がツッコむのもよく分かるのだ。
「蛍に聞きたいことがあったから。」
私の気持ちなんて知らず蓮巳はそう言って笑う。
こんな機嫌の良さそうな蓮巳は初めて見た。
胸がざわざわと騒がしくなる。
「待ってよ類!」
また夢の中。
あれは小学一年生のお祭りのときだ。
両親の傍から離れて2人でお祭りを楽しんでいた。
走り回る私に蓮巳が必死に付いてきている。
「はい!これ、蓮巳にあげる!」
私がそう言って渡したのはくじ引きで当てた2等の光る金魚のキーホルダー。
蓮巳は満面の笑みで幸せそうに受け取る。
ーーああ。この頃に戻りたい。
蓮巳はこんなにも素直で優しい子なのに。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
気づけばまた海水に浸る私。
もう疲れた。
底はまだなのか。
どれだけ沈んでも一向に底は来ない。
一体いつまで…。
いつまでこうして沈んでいればいいの?
苛立ちを通り越して現状に呆れた。
やがて疲れた私は全てから逃げるように目を閉じた。
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