第10話 黒河 沙理砂の憂鬱(1)
※(沙理砂視点)
熱は、昼前には下がったけれど、午後の授業だけ出る意味もないし、誌愛達同行者もなしでは家から学校までたどり着けるかどうかでさえ怪しい。
昨日の帰りは、顔を伏せて、他の人に顔が見られない様にしていたけど、それだと具合が悪いのかも、と声をかけられる可能性もあるのだ。なんとなく、もうある程度平気になったと思って帰ってみたけれど、途中で激しく後悔した。
何故、世界人類の二分の一が男性なのだろうか。もう半分ぐらい減らしても、別に平和になっていいんじゃないだろうか?男なんて、粗野で乱暴で馬鹿で不潔で……。
邪馬台国も、卑弥呼が治めていた時代はとても平和だった、とか習った気がするのに……。
なんてくだらない、意味のない事を考えたりもする。
ともかく、誌愛が神無月君の人となりを確かめる為に話して来る、と朝、休みの連絡を入れた時に言っていたけれど、余計な事を話してないといいのだけれど……。
誌愛は一見可愛い普通のお嬢様だけど、性格は、言いたくないけれど奇妙奇天烈で、何をしでかすのか分からないところがある。
多分、それなりに長い話をするとなると、昼休みか放課後しかない。
二人とも放課後は部活とその応援があるから、昼休みの方だろう。
そうすると、まだ結果は出ていないのだから、話は聞けない。私もお昼ご飯を済ませて、誌愛の連絡待ちするしかなさそうだ。
……昨日の残り物のパスタを食べていても、二人が何を話しているのか気になって、食が進まない。そもそも、神無月君は、なんで私なんかを好きになんて、なったのだろうか。
今彼は、バスケ部の活躍が注目されて、女生徒からモテモテ状態だ。同学年の子からも、上級生のお姉さま方からも。
私みたいにめんどくさい子を好きになる、意味が分からないし、物好きだとしか思えない。
まあ、そこら辺は誌愛が聞いてくれるかもしれないから、横に置くとして、誌愛に言われた事、自分と向き合って、正直に、とかの意味を考える。
いつまでもこのままではいられない、は分からなくもない。私も、誌愛達にずっと迷惑をかけている今の状態が、ずっと続けられるとは思っていない。
なんとかしてこの、男嫌いで苦手な性分を克服しなければ、とは常々自分でも考えていた事だ。
……ただ考えているだけで、建設的な克服法なんて、ちっとも思いついていないのが現状だけれども。
そういう意味では、何故か面と向かって話をしても、何ともなかった神無月に、練習相手になってもらったら?という誌愛の考えは、有効かもしれない、とは私も思う。
でも、向こうの好意に付け込んで利用して、そんな自分勝手なリハビリ訓練につき合わせるなんて、ひどい話、普通に許されないだろう。
私が神無月君の立場でも許容できない、絶対に断る内容だ。
―――なんか考え過ぎて、頭が痛くなって来た。
昨夜は、告白の事やら何やらをずっと考えていて眠りが浅く、結局、熱を出してしまった。
またその二の舞になりそうだし、昨夜の寝不足が祟(たた)って、頭がうまく働かない。
(しあから連絡を待つ間、少し眠ろうかな……)
二階の自室に戻って睡眠不足を解消する事にする。
余り寝すぎると、夜また眠れなくなりそうだけど、それはそれ。
うちは今、お母さんが駅2つ向こうにあるダンス教室で講師をしている。共稼ぎ状態だから、家には誰もいない。平日のテレビなんて、見ても退屈なだけだし、寝てしまおう……。
※
目が覚めると、部屋の中には誌愛が座っていて、鼻歌まじりに何かの雑誌のページをめくっていた。
時計を見ると、時間はまだ夕暮れ前だ。
私は上体を起こして、誌愛に寝ぼけ眼(まなこ)をこすりながら話しかけた。
「……しあ、バスケ部の応援に残らなかったの?」
「あ、おはよー、さりー。うん、最初ちょっとだけ見てから帰って来たよ」
「別に、私は病気で休んだ訳じゃないんだから、いつも通りでよかったのに……」
「しあちゃんは、親友なさりーがとてもとても心配だったのです。家にいても、押し込み強盗とか来るかもしれないっし~」
「物騒な想定しないでよ。そんな事、そうそうないでしょ」
「家に隕石が落ちてくるかもしれないっし~」
「それこそ絶対ない!」
「可能性はゼロではないのだよ、わとそん君」
何故か誌愛は気取った身振りでチッチッチと人差し指を振る。
「もう……。そんな事よりも、その、どうなったの?神無月君との話は」
「あ~、はいはいはい。さりーは気になって、夜も眠れないから今寝てたんだものね」
ニマニマと趣味の悪い笑みを浮かべる、嫌な親友様だこと……。
「~~間違ってると、言い切れないのがくやしい……」
それから、私の悔(くや)しがるさまをジックリ堪能した誌愛から昼休みの話を聞く事になったのだった……。
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【キャラ紹介】
女主人公:黒河(くろかわ) 沙理砂(さりさ)
自称ごく普通の女子高生。母親がスペイン出身のゴージャス美人で、その血を継いで容姿は黒髪美人だが、性格は平凡な父親似。過去のトラウマから男性全般が苦手。
男主人公:神無月(かんなづき) 全(ぜん)
高校一年生だが、背の高くない沙理砂よりも低く、小さい印象がある。
バスケ部所属。その小ささに似合わぬ活躍から、三年女子を中心としたファンクラブがある。本人は迷惑にしか思っていない。
物語冒頭で沙理砂に告白している。
白鳳院(はくほういん) 誌愛(しあ)
沙理砂の幼馴染で一番の親友。北欧出身の(実は)貴族の母を持つ。白鳳院家も日本で有数の名家でお金持ち。使用人やメイド等が当り前にいる。
本人は輝く様な銀髪(プラチナブロンド)で、容姿も美人。普段おっとりぽよぽよ天然不思議系美少女だが、実はキャラを演じているらしい。
心に傷を持つ沙理砂を大事にしていて過保護状態。
沙理砂に相応しい相手か、全を厳しく審査している。
宇迦野(うかの) 瀬里亜(せりあ)
全のバスケ部先輩、風早ラルクの恋人。
可愛く愛くるしく小動物チック。
こちらでも、家の都合で別の全寮制お嬢様学園に進学した為、出番はかなりないと思われ。いとあわれなり。名前を日本名にするのに少し変更。
滝沢(たきざわ) 龍(りゅう)
誌愛の恋人。母はモンゴル。
風早(かぜはや)ラルク(ランドルフォ)
瀬里亜の恋人。ラルクは愛称で、ランドルフォが本名。
母はイタリア人。
※
苗字を、向こうのキャラの特性に合わせて考えたので、余り普通な苗字が少ないかもです。
後書きキャラ表は、某氏の作品に影響を受けて(^ー^)ノ
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