第116話 まねっこ対策

 「そう、商標っていうの?ブランドマーク、ロゴ?」

 「なるほどのう。確かに、ありじゃのう。」


 翌日、僕はカイザーと、商会のことについて話し合っていたんだ。


 みんながさ、しばらく僕は町へ行っちゃだめ、って言うしさ。なんか、潜入して取ってくるとか言うしさ。

 まぁ、僕だって言ってみれば不法侵入しちゃってるわけだし、GPS的な魔法で、勝手に覗きとかもいっぱいやっちゃってる。だから忍び込んで取ってくる、とか、文句言う筋合いじゃないんだろうけど、なんか、ね。前世の価値観、ちょっと残っちゃってるかも、です。

 でも、だからって、みんなに文句ばっかり言うつもりはないんだけどね。だって、どう考えても、ゼールク商会って怪しいし、あの魔導具は危険だって、僕の感がずっと警鐘鳴らしてる。あれは、ガーネオが持っていたのと同じ種類のもんだと思う。

 危険を早く察知するためには、この世界では、ヨシュ兄が正しいっていうのも分かってるんだ。


 だから、結局は僕の気持ちの問題。


 で、どうしようもないことは放置して、ずっと前から考えてたことを、ちょうどいろんな意味で手伝ってくれそうなカイザーにお話ししてたの。

 つまり、ナッタジ商会の品物を他と差別化するアイデア。


 「でね、そのロゴについてはみんなに相談するとして、OKが出たらカイザーにお願いがあるの。」

 「儂にお願いとな?」

 「うん。カイザーには、型や焼き印を作って欲しいんだ。いろんなサイズで。」


 まねっこされるのは仕方がないとして、ホンモノのナッタジ製だよって分かるために、僕は商品に型押ししたり焼き印をつけて売り出そうと思ったの。で、それをもまねっこする人がいるだろうけど、そこは世界一の鍛冶師カイザーに、真似が難しい、もしくは真似をする方が損しちゃうっていうレベルの型とかを作って貰おう、って考えたんだ。


 「ほぉ、それは面白そうじゃのう。」

 「一応、僕が考えてるのは、マークをよくよく見ると小さい文字が描いてるみたいな、前世でのお金の偽造防止策、みたいなのなんだけど・・・」

 「ふむ。できんことはないがのぉ。」

 「何か問題?」

 「焼き印はともかく、型押しなら、そのまま写せるじゃろ。」

 「あ、そうか。」

 「ふむ。ワージッポの協力もいるが、魔法を組み込むのも一興かのお。」

 「魔法?」

 「たとえば、何かすると音や光で開封を知らせる、とかのぉ。スパイが自分の部屋に侵入者がいないかチェックするようなやつ、と言えば分かるかのぅ。」

 アハ、きっと前世の小説とかでしょ?ひょっとしたら映画すな?カイザーが生きていた頃はそんな映画はまだなかったかもね。でも探偵小説とかスパイ物とか好きそうだ。

 「面白いね。」

 「こういうのは、大勢で考えた方がいい。どんなアイデアが出るか分からんからのぉ。しかし、こっちの世界でブランド化か。国や領単位ではあっても、商会としては始めてかもしれんのぉ。ハッハッハッ。やはり、アレクについてきて良かったわい。」



 カイザーも、いろいろ考えてくれるって言ってるし、みんなにも相談しようってことになったよ。

 まだカイザーにも言ってないんだけど、ロゴが出来たら、もうちょっと進んだ宣伝も考えてるんだ。日本じゃ当たり前だったことなんだけどね。

 何かって?

 あのね、ロゴ入りのお持ち帰りバッグを作ろうと思ってるんだ。

 こっちの世界ではラッピングって今のところない。

 貴族同士なら箱に入れたりして、贈答品、みたいなことはするみたいだけど、普通の買い物で、商品を紙や袋に入れるっていう習慣はないんだ。

 これについては、実はもうずいぶん前から、いろいろ計画中です。


 あとは、そのロゴだけど、エッセル号や馬車にもつけちゃまずいかな?

 貴族はね、自分の紋章を馬車に付けたりしてる。

 ただ、今のところ庶民でやってる人はいないんだよね。

 王都では、馬車に商会の名前を書いてるのは見たけど、そもそもロゴなんて使ってるの、ないみたいだからね。

 この辺は法律的に問題はないか、みんなに相談しなくちゃいけないかもね。


 そんなこんなで、やらなきゃならないこと、いろいろあるからね、町に行かなくても、良いんだもん、グスン。

 でもやっぱり気になる・・・



 夕方。

 セイ兄とヨシュ兄が一緒に帰ってきたよ。

 セイ兄も代官にご報告!は終わったんだけど、さすがにミサリタノボア子爵も配達箱の盗難事件は知っていて、その捜査をお願いされたんだって。で、正式な依頼書があるから、怪しいと思ったらその場所へも入れるし、接収も可能です。


 「だからね、ダー、勝手にゼールク商会に入って、証拠品を押さえても問題ないんですよ。」

 ウフフ、ってヨシュ兄は笑ってるけど、昨日の段階じゃあ、その依頼書なかったんだからね?


 「でもね、はい。」

 ヨシュ兄、僕に何かを渡して来ました。

 粘土?

 「現物を持ってくるの、ダーは嫌がってたでしょ?だから、今日は忍び込んで、怪しい魔導具の魔法陣を粘土で写すだけにしてきました。」

 フフフ、ってヨシュ兄が笑ってる。

 陶芸用の粘土、いっぱいあるから、それを持っていって、わざわざ倉庫で写してきたらしい。これを焼いて硬くした後、ドクに郵送してどんなのか見て貰うんだって。普通だと1ヶ月かかる道のりも、速さ特化の魔物便で1旬もせずに到着させられる、そうです。


 なんだかんだって、僕の気持ちに合わせてくれるんだもの、ヨシュ兄だぁい好き!!

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