帰世界子女 ~日本帰りの俺は異世界の生活に耐えられない~

村人T

1章 〜飛ばされた異世界〜

第1話 どうしてこうなった?

 どうしてこうなった?

 いや、分かってはいるんだが……。


 今、俺の目の前にティラノサウルスっぽい何かの死体がある。

 無惨に口から後頭部をぶち抜かれたソレをやったのは……まあ、なんだ。

 俺である。


 誰もいない森の中、時々聞こえる虫か何かの声を聞きながら俺は少し昔を思い出した。


 ◇◆◇◆◇


 俺は親父の実の息子ではない。


 幼心になんとなく分かっていたが、父親の愛情に偽りはなく、俺も実の親を余り気にはしていなかった。


 気にしたのは十四才のとき。

 流行のネット小説を読みながら、誰もがかかるあの病気を発症した俺は家に誰もいないことをいいことに思い切り叫んだ。


「ステータスオープン!!」


 勿論何か出るわけはない。

 ……普通なら。


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 名前   = 三鍵 愛詩 (ミカギ マナウタ)

 所属   = 日本

 爵位   = なし

 天職   = 狩人

 先天技能 = 狙撃 矢作り 弓矢格納 素材格納

 後天技能 = 異世界語

 罪状   = なし

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 えっ!? ってなった。

 自分でやっといて何だけど。


 仕事から帰ってきた親父に見せたら、難しい顔をしながら「他の人には絶対に見せるな」と言われた。


 普通なら反抗期の年頃、俺がその言葉を素直に聞いたのは、育ててもらっている恩を感じていたからか、これが普通じゃないんだと理解していたからか……


 何にせよ先天技能と書かれた欄に、日本で使えそうなもんがなく、自分がちょっと変な表示を出せるだけの普通の人間だと理解するまでに時間はかからなかった。




 高校を卒業し、底辺だが国立大学に合格し、自分の職業を考え始めた大学三年の時。


 持て余した二ヶ月の夏休みを、親父に誘われ親父の会社でバイトすることになった。


 親父の会社「イサギリ工業」。


 何でもかんでも自動化が進むこの2055年、敢えてIOTに依存しない防災機器を主軸に利益を上げた会社だ。


 地震、異常気象、天災大国となった日本でそりゃあ需要はあるだろう。


 俺が三才位の年に、防災とは全く関係のない話題でネット上で盛り上がり、知名度が上がったのもこの会社の製品が人気になった理由である。

 そんな会社で今一大プロジェクトが進行中なのだが、徹底的に人手が足りないのだそうだ。


 一大プロジェクトといえば企業秘密だろうに、部外者入れて良いのかよ? と思ったりもしたが、その辺りも考慮の上だという。


 俺も金欠だったし、否やは無かった。




 夏休み初日からバイトは始まった。

 一週間分位の着替えを持っていくように言われたから、泊まり込みになるのは予想していたが。


 親父の車に乗せられ、殺人事件が起きたとか、ナノマシン技術にどっかの団体が抗議しているとか、つまんねえニュースを聞きながら結構長い道のりを走った。

 ふと、外を見ると車が山を進んで行くのに気付いて、ちょっと後悔したのを覚えている。


 周り、何もねえじゃん、て。

 まあ仕事で遊びに来た訳じゃないんだが。


 ちょっとした絶望を表情に滲ませながら職場へとすぐさま案内された。


 案内された先は色んな物が乱雑に置かれた……倉庫?


「ここで俺の仕事のお手伝いだ。」


 まあ、倉庫なのはいいや。

 気持ちを落ち着けと何をすればいいのか聞いたら、とにかく親父の指示する物を親父の下に持ってくれば良いと言われた。


 楽な仕事だ。


 倉庫の中には車が一台。

 他にもよく分からない機材がいっぱい。


 ひとまず親父は打ち合わせなので、ここで待っているように言われた。

 といっても椅子も何にもない。


 だったら車のシートを使わせてもらおうと近づいたら、「俺が戻るまで触るなよ」と釘を刺された。


 いや、俺もガキじゃないし、周りの機材が触っちゃいけなそうなのは分かる。


 たださ、車だよ? ……それも軽。


 いや軽を馬鹿にするつもりはないんだが。

 実際目の前にある車は今絶賛大人気の車種だ。


 EVカーがバッテリーや充電時間、発電所の不足などの問題から廃れ始めた一方で、流行り始めたハイブリッドシステム。屋根に高出力ソーラーパネルを搭載し、水素燃料走行も可能。燃費はリッター50キロ以上と財布にも環境にも優しい。


 オフロードにも強く、街中を自動運転車が走り、空中をドローンタクシーが飛ぶこのご時世。でも休日は自分の手で山に行きたい! なんて人が買いに買って、今では納車一年待ち。


 普段乗らない車に維持費はかけられんからね。

 税金安く、燃費が良く、いざとなったらソーラーパネルのおかげで電源としても使える。


 正直、俺も欲しいと思っていた車だ。


 それはともかく。


 まあ、バイト来て言うこと聞かん訳にもいかない。

 二時間ほど立ち惚けで待っていると親父が帰ってきた。




 親父に言われるがまま、倉庫に散らばった部品と親父の間を往復運動。

 夏にこれはキツイ。

 というか、親父は独りここで何やってんだ?


 会社内イジメとか受けてるんじゃないか? と息子として心配になった。


「明後日の一大実験に人手を全部取られただけだ。来週からは皆戻ってくる。俺も呼ばれたがこっちを無視するわけにはいかんのでな……」


 だそうだ。

 そうしてバイト初日は汗びっしょりになったものの無事に終わった。




 バイト二日目は車の整備らしい。


「いいか? 俺が指示した物以外は触るなよ。」


 と再度の忠告を受け、そんな俺って信用ないかな? って落ちこみかけたが、中をみて納得した。


「なあ、気のせいじゃなきゃ天井に銃がくっついてますが……」

「ああ、ついてるな。」

「いや……どういうこと?」

「なんだその目は? ちゃんと許可はとったぞ。」


 確か上下二連式とか言われる銃だ。

 日本で所持が許可される数少ない猟銃の内の一種。


 それが天井に二丁、砲身は固定されたケースに入れられ、でもいつでも抜けるようにトリガーより後ろはむき出しで……


 弾丸が運転座席と助手席の両方に配置されている。


「えー、何を想定してらっしゃるの?」

「あー、まあ簡単に言うと猛獣に襲われる事態……だな」

「どういうこと?」

「まあ、どうせ隠しておけないから言うが……明日の実験な、扉を開く実験なんだよ。」

「扉?……何の?」

「わかりやすく言うとだ……異世界?」

「は?」


 ダメだ。

 親父の言っていることが分からない。


「俺は正気だぞ……会社もな」


 俺が突っ込む前に親父は自分でそういった。


「いや……だけど、あー、何て言ったら良い?」

「疑う気持ちは凄くよく分かる。ただな……お前知ってるだろ? この会社が有名になった事件。」

「……え? あれって……マジなの?」

「ああ」


 それでやっと親父の言っていることが分かった。




 イサギリ工業は当初はエネルギー開発の会社として建設された財閥系の会社だ。


 詳しい中身は知らないが、資源不要、環境への影響なしと謳った最初の発電機稼働実験でその事件は起きた。


 発電機が暴走、爆発し……異次元の扉が開いたらしい。


 実際に会社がそう公表したわけではない。

 誰が撮影したのか、その光景が動画でネットに流れたのだ。


 突如現れた黒とも紫とも言えないような、闇色の丸い渦。

 そこから現れたティラノサウルスと馬車の荷台。


 画像はパニックを現すようにガタガタと揺れ、ブチンと切れた。


 これを見たネット民は笑いと共に全世界に動画を拡散。


 「イサギリ工業の防災機器なら異世界でも怖くない!!」は一時期のネットの流行語だったそうだ。




「ああ、そうなんだ……」

「ついでに言っておくと、その時現れたのは恐竜だけじゃなかったんだ」

「さいで……」


 驚くべきなのか、まだ疑うべきなのか、頭が追いついてこない俺に親父は容赦なくトドメをさしに来た。


「女性と幼い子供が馬車に乗っていてな。女性の方はすぐに亡くなった」

「……子供の方は?」

「俺が引き取った。」

「ふぁっ!?」


 親父の子供はちなみに俺しかいない。


「……えーと。俺って……」

「多分、地球人じゃないぞ」


 ってことですよね。

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