第35話 終幕:ローザンド帝国での片隅では


 “平定と安寧の神“と契約したアダムは、次々と周辺諸国を統合していき、ギスカル王国からローザンドという名に変えて強大な帝国を築いて行った。


 神の名は明かすことができないから、アダム本人以外では、クロノスの加護をほんの少しだけもつ私くらいしか知らないことだ。


 その神の力なのか、多くの国が併合されていっても、予想されていた大きな混乱や反乱は起きていない。


 アダムが初代皇帝となり、その後に続く皇帝が新たにまた“平定と安寧の神“と契約し、ローザンド帝国を巨大でより強固な国にしていった。


 というのはまだ先の話だ。


 他の貴族からは様々な見方はされるかもしれないけど、嫌な思い出しかない王宮、王都から遠ざけてもらって、私とユリウスはその帝国の片隅の領地でのんびり暮らしていた。


 時々アダムが困った時だけ、自国の被害が大きくなりそうな時だけ、ユリウスが戦況をひっくり返す為に戦場へ出向いて行っている。


 今まで二人が接する姿を見たことがなかったけど、兄弟仲は悪くなかったらしい。


 神様に勧誘を受けるほどに、戦場のユリウスは強く、負け知らずだった。


 でも、いつだって私に甘いのは変わらない。


 それに、“御主人様”でもある私には逆らえないらしい。


 でも別にユリウスの意に沿わない事もするつもりもないけど。


 アダムの神様の犬って子が領地に隣接する広大な森を守っているから、ここの領地は領主が不在でも安全にのんびり過ごすことができた。


「ティエラ姉さんに何かあれば、ユリウス兄さんの抑えが効かなくて国が乱れるから、そこは神経を使うよ」


 と、アダムは言っていた。


 ここの領地は国内で一番平和で安定した領地だとの評判が広がり、移住者が増えた。


 そして、私が甘い物が好きだとの話が広がると、あっという間にスィーツショップ街道ができて、そこが観光地にもなった。


 私は時々そこで食べ歩きをしているから、幸せだ。


 あと、この領地にも冒険者ギルドを作ったから、そこの管理もしながら採集依頼もこなしている。


 親がいない子達に、自立させる為にも冒険者のノウハウを教えてあげながらね。


 領地運営なんかできない私はこれくらいしか貢献できることはないけど、これはこれで楽しい。


 ギルド管理の関係上アイーダさん達とは、交流を重ねている。


 ユリウスと結婚していたって事に驚かれたけど、以前と変わらずに接してくれていて、会える時をいつも楽しみにしていた。


 アダムは、皆が出来る限り平等で、安定した生活を送れる国が作りたいらしい。


 12かそこらの子供のくせに、何であんなに国の事を思っているのかが分からなかったけど、王であった自分の父親とユリウスの母である王妃がそれを望んでいたからだと言っていた。


「僕はそれができる力を得たからね。使うまでだよ」と。


 子供が一人で背負うには重すぎないかとは思う。


「だからこそかな。僕にこの神様が契約してくれたのは。姉さんは気にしなくていいよ。ユリウス兄さんと二人で幸せに暮らしてくれれば、それはこの国の平定にも繋がるから。ユリウス兄さんを敵に回したくないよ」


 そうだよね。


 動乱と殺戮の神なんか出てきて欲しくないよね。


 平和が一番だよ。


 ところで、我が家にも家族が増えた。


 屋敷の広い庭に迷い込んできた、1匹の白い子猫だ。


 甘えん坊な女の子で、よく私の膝の上に乗りたがって、出会った頃のルゥみたいだった。


 そしてこの子が、間もなく生まれてくる私達の可愛い愛娘の良き姉、良き相棒になってくれるのは、あと数ヶ月だけ先の話だ。


 私は、ユリウスを含めた家族に囲まれて、末長く幸せに暮らしましたとさ。





























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