第30話 鬼が追ってくるよ。逃げないと
南へ、南へと移動していた。
多分、無意識のうちに北の方には行きたくなかったのだと思う。
北側が戦争中なのもあるけど、北にはあの人がいると思うと、そっちに行く気にはなれなかった。
東か西にも行くことはできたけど、結局、より遠くへ離れたいと、真逆の南を選んでいたのだと思う。
少しずつこの生活にも慣れた私は大型の魔獣を仕留めることにも成功していて、途中に寄った町にあるギルドに核を納品すると、ランクアップの手続きができるようになっていた。
「アイーダさんが身元保証人なのね。だから信用度が違うから、手続きもスムーズなのよ」
ギルドの受け付のお姉さんから、そんな説明を受けた。
犯罪歴とかが調べられるから、ここの保証人欄に誰かの名前があるのとないのでは手続きの内容が変わるらしい。
それがギルド創設者のアイーダさんだから、顔パスに近い手続きでランクアップできていた。
離れていてもアイーダさんに助けてもらっていて、とても有難い。
未だに私の捜索は続いているようだから、いつになるかは分からないけどアイーダさんにちゃんと御礼を言いに行きたいなと思った。
ここまでの道中も、何で私の居場所が分かるのか、何度か騎士らしき人に遭遇した。
攻撃してくる様子はなかったけど、連れ戻すつもりでも困るから魔法を使って逃げていた。
でも、ここはさすがに大丈夫だろうと、のんびりと町中を歩いて、ランクアップの自分へのご褒美に、何か甘い物を食べようかなと思っていた時だった。
店へ向かう途中で、外套を頭から深く被った背の高い人の視線がこっちに向けられていることに気付いた。
まだ遠くにいるその人の顔は分からない。
相手は一人だけど、嫌な予感がする。
気配を消すのが上手いところがもう不審者でしかないから、踵を返して猛ダッシュしていた。
チラッと後ろを見ると、
げー、やっぱり追ってきているよ。
キョロキョロと、周りを見渡した。
逃げ場は、海しかない。
船が停泊している港へ走る。
ちょうど離岸しかけている船を見つけて、ストップの魔法をかけていた。
片付けられる寸前の縄梯子に飛びつき、それから、魔法を解くと、船はゆっくりと岸から離れていく。
縄梯子を登りながら後ろを見てギョッとした。
私を追ってきた人は、そこに立っていた人は、ユリウスだった。
外套のフードが外れて、その顔が露わになっている。
「何で……」
思わず声が漏れる。
波止場では、ユリウスが何かを叫びながらこっちを見ているのを横目に、縄梯子を登りきる。
待てと聞こえた気がしたけど、待つわけない。
自分の命が大事だ。
「駆け込み乗船は危ないのでおやめ下さい」
強引な乗船で困り顔の乗組員さんには怒られたけど、更新したばかりの冒険者証を見せて多めのお金を払ったらそのまま乗せてくれた。
高位ランクの冒険者証になったから、その信頼度も変わってくるから、助かった。
冒険者ギルド創設者の人達が、知名度を上げる為に頑張っているからってのも大きい。
船上で、やっと一息つける。
何で、ユリウスがわざわざ?
自らその手で殺したいから?
えー……
それって、どれだけよ。
どれだけ私に恨みがあるんだって話だ。
港で待ち伏せの可能性は、先回りの手段はあるかな?
あっちは王子様だし、どんな手を使うか分からないな。
さっきの町の美味しいワッフルを食べ損なったのが、ちょっとだけ残念だったってのを頭の片隅で思いながら、この船の目的地に着いた後のことを考えていた。
この船は国外に向かう船じゃない。
王国の半島から別の半島を結ぶ貨物船らしい。
船が陸地から離れていく様子と、波飛沫が船にぶつかる様子をしばらく甲板で眺めてすごした。
それから数時間が経ち、今度は船が目的地へ間もなく接岸しようとしていた。
甲板から見る限りは、岸辺に気になるところはない。
周りを気にしながらタラップを降りて、急いで港から繋がっている地下水路に潜り込む。
「ティエラ!!」
あぶなっ
水路に入った途端に、ここからでは姿は見えないけど、ユリウスの声が頭上から聞こえてきていた。
「微かに残り香はあるのに、どこに……」
残り香って、そんなので追ってきたの?
どこの犬よ!
水辺の、海の近くだから、匂いが分かりにくいのか。
結局、しばらくそこから動けずに、地下水路の水が流れていない端っこに座って、外が暗くなるのを待っていた。
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