第14話 夜会への招待

 それを見た感想は、舌打ちくらいしてもいいかな?だった。


 王宮で行われる、夜会への招待状。


 御丁寧に端っこには、言う事を聞かないと今すぐ牢獄か娼館か選ばせてあげると書いてあるそれが私のもとに届けられていた。


 何で今さら私の所に、それも、ユリウスがいない時にわざわざ。


 今では国中ユリウスの功績の噂で持ちきりだ。


 あと半年もしないうちに北の地を完全に掌握できる。


 あの広大な土地が、この国の物になる。


 それから凱旋すれば、王位を継ぐものとして誰も異はとなえない。


 それが面白くない側妃が、王子妃の私を夜会に引っ張りだすことでユリウスを貶める気でいるんだ。


 いい迷惑だ。


 そんな事をしても、もうユリウスの評価は確固たるものだ。


 それに、私を蹴落として、その座を狙う令嬢の格好の的になるだろう。


 うんざりだ。


 ユリウスは戦場で命を掛けているのに、王都ではこんな馬鹿げた茶番が行われるのだから。


 別に、来いと言うなら、出てやる。


 辛うじて持っていたドレスを引っ張りだし、家の事情でお金が必要な使用人のアビーに多めのお金を渡して、着替えるのを手伝ってもらった。


 他の使用人は私には手を貸してくれないから、アビーがいて助かったけど、お金で動きすぎるのも怖いなと彼女を見て感じていた。


 一応人を見て選んだつもりだけど、でも、人の本心なんかなかなか分からないものだからね、用心するに越したことはない。


 そしてドレスだけを身にまとい、その会場へ足を踏み入れていた。


 夜会が開始されて早々、目の前にはクスクスと笑う令嬢達。


 それを、特に表情を変えずに見つめ返していたから、舌打ちをされていた。


 令嬢が舌打ちって、どうなの?


 それも、舌打ちしたいのはこっちだ。


 私のドレス正面には、ワインのシミが広がっていた。


 真っ赤なシミが。


 空になったグラスを持っている子達を横目に流して、行きたい場所へ移動する。


 私が移動すると、その辺にいた貴族は道を開けてくれていた。


 場違いなほど質素と言ってもいいベージュのドレスに真っ赤なシミ。


 私の異様な風態に多少の良心がある中立派の貴族は見て見ぬふりを決めていたし、呆れた視線を投げかけてくるのは、第一王子派の人達だ。


“ユリウス殿下の恥となるのに、何故こんなところへ”


 そんな声も聞こえた。


 ざっと見ても側妃派よりはその数は多い。


 やっぱりユリウスはもう大丈夫だ。


 遠くに姿が見える側妃は、招待しておいてこっちには見向きもしないけど、勢力の変化に気付いているのかな。


 まぁ、いい。


 どちらの派閥から見ても近いうちに私が排除の対象になるのは変わりない。


 端の方に行って、料理を手に取る。


 すぐに私は、嘲笑を浮かべた令嬢に囲まれていた。


「あら。これはこれは見窄らしい王子妃様で」


 ご飯を食べにきた。


 私は今日、ご飯を食べに来たんだ。


 壁の花になったつもりで、ひたすらもぐもぐしていく。


「見て。装飾品を何一つ身に付けていないわ」


 あ、これ何のお肉だろ。


「ユリウス様の関心がない証拠ね」


 ソースが美味しいな。


「見ました?リゼット嬢のネックレス」


 はー、美味しいご飯は幸せだなぁ。


 ここ、大事だよ。


 生きる為には、食べないとだし。


「ユリウス様が贈られたそうね」


 あとは、デザートをっと。


「羨ましいわ。身分を越えた愛って、物語みたい」


 これ、何て名前なのかな?


 最近おやつがなかったから、甘いものは嬉しい。


 デザートに夢中の私が何の反応も示さないものだから、嘲りを向けていた人達は面白くないと言いたげな顔を隠しもせずに離れて行った。


 やっと諦めてくれたか。


 側妃派の家の者達は、私を貶めるように指示されていたんだろうけど、相手にするつもりはない。


 時間と労力の無駄だから、何を言われても絶対に相手にしないと心に決めてここに来ていた。


 何か反応を返せば、あの人達を喜ばせるだけだ。 













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