逃走中。待てと?殺されるのが分かってて待つわけないでしょぉぉぉ

奏千歌

第1話 逃走

「いたか?」


「いや。向こうには人をまわしたか?」


「まさか、城外には出ていないよな?」


「第2部隊は、城の裏手に行け!」


「北門!!北門は、封鎖したか!!」


「王族の居住エリアにも、人を集めろ!!」



 ………………


 あっぶなぁ。


 目と鼻の先を、王宮騎士団が通り過ぎて行った。


 隠れている場所で、さらに身を低くして路地裏の暗闇に紛れる。


 多くの騎士が大通りを行き交うのを、息を殺してそこからのぞいていた。


 だんだんと人が増えてきている。


 私が部屋にいない事がもうバレたんだね。


 てことは、私を殺しにきた彼の存在が、もう見つかっているのかな。


 慎重に行動しないと、早々に見つかるなぁ。これは。


 思いの外、人が動員されているから、やっかいだし。


 どうせ殺すつもりなんだから、放っておいてくれたらいいのに。


 死体がないと安心できないアレか。


 それとも、財力もない、後ろ盾も何もない小娘が報復でもすると思っているのかな。


 側妃派の者か、子爵家の者か、私の名ばかり夫の差し金かは分からないけど、まだまだ追手は引きそうにない。


 王子妃の私がこんな汚いところにいるとは、思わないだろうけど、早く王都を出ないと。

(前世が冒険者だった私は、もっと汚いところにだって足を突っ込めるけどね!)


 このかくれんぼも、わずかな時間稼ぎにしかならない。


 つい先ほど、植え込みに隠されていた城壁の小さな穴から抜け出してきた。


 少しずつ時間をかけて広げた穴で、小柄な私しか通れないようなところだ。


 まだ城内にいると思ってくれたらいいけど。




「あの女は武装しているぞ!!」


「騎士を襲ったんだ!!油断するな!!」




 また騎士の怒声が響いた。


 えー、私が襲ったことになってるの?


 襲ってきたのはあいつなのに。


 無力な女に罪をなすりつけて最低だ。


 騎士のプライドを最後まで、保て!


 悪態はこれくらいにして、さて、どうしようか?


 自分が身につけている装備に目をやる。


 いつか訪れると思っていたこの日の為に用意した男性用の服。


 部屋を出る時にボリュームの無い胸だけど、念のためサラシを巻いた。


 それから、二本のナイフ。


 それでザクッと、髪を肩よりも短く切って、目の前にあるゴミ箱に突っ込んだ。


 帽子を被る。


 蜂蜜のような綺麗な髪に多少の未練はあるけど、命には換えられない。


 できるだけ、汚れを身に付けて、小汚なくした。


 泥と煤をつけて、髪の色も隠す。


 まだ心許ないかな。


 でも、身なりの貧しい者が1人でフラフラしていたとして、王子妃の私だとは気付くことはないはず。


 気付かれても、対策はある。


 俯いて、そっと裸足で通りの端を歩く。


 煙突掃除の少年のような、汚れた姿の私を呼び止める者はいなかった。


 人気がなくなった所で、靴を履いて猛ダッシュに切り替える。


 タタタタタタタタ


 朝日が射し込む冷たい空気の中、足音が響くけど構わず走り抜けていた。


 城下町が完全に封鎖される前に目指すのは、隣町のハンターズギルドだ。


 仕事の伝手でこっそりと手に入れた紹介状で、ハンター登録をするつもりでいる。


 そこからは私の新しい人生の始まりだ。


 これで私は自由になれる。


 絶対に生き抜いてやるんだ!






 この日。


 夫の部下から殺されかけたこの日。


 7年間の王城生活から脱出し、私は新たな人生を手に入れることに成功していた。









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