第36話 リベンジマッチ

 

 タルタス男爵領タルタスを発って二日。


 俺たちの馬車は東進してコーサ子爵領テンコーサにて一泊。

 そこから南下してダルクバルト北の隣領、ミモック男爵領モックルの街に一泊。


 丘を下ればあと二時間で、懐かしい我が領都ペントに到着、というところまで来ていた。




 ここまでの旅はすこぶる順調だ。


 テンコーサで商人ギルドに行きちょっとした依頼を出したのだけど、スタニエフの依頼の書き方がよかったのか、すぐに引き受け手が見つかった。


 また街道を移動中に二回ほど魔物の襲撃を受けたものの、こちらはクリストフと領兵たちがあっさりと無力化してしまった。


 つくづく思う。

 人に恵まれたものだなー、と。

 ボルマンて実は勝ち組だったんじゃね?


 ちなみに魔物との交戦の際には、俺たちも戦闘訓練の一環として手負いの魔物と戦わせてもらったりしていた。




 そして今、俺たちの馬車の前、五十メートルほど丘を下ったところに魔物がいる。


 数は五体。手製の武器を携えて正面に立ちはだかり、道を塞いでいるのだ。


 もはや見慣れた、緑色で背が低い人型の生物。

 そう、ゴブリンたちだ。

 一匹、背が高めで剣を持ったやつがいるが、あれは上位種のホブゴブリンだろうか。




「相手にとって不足なし。馬車は儂らに任せて、坊ちゃんたちだけで切り抜けてみられい!」


 我が師、クリストフの檄が飛び、俺たち四人……俺、ジャイルズ、スタニエフ、カレーナは、馬車の前に出た。




 前にバッタにやられた時から、皆レベルが2〜3上がっている。俺は6、ジャイルズ6、スタニエフ5、カレーナは6だ。

 対するゴブリンのレベルは4〜5。ホブゴブリンは5〜6だ。

 同数なら優勢に戦える。


 今回、向こうが一匹多いことを考えれば、ほぼ戦力は拮抗している。

 師匠の言う通り、相手にとって不足なし、だ。




 ちなみに俺たちのステータスはこんな感じになっていた。



 名前:ボルマン・エチゴール・ダルクバルト

 称号:領主の後継者

 Lv:6

 HP:580/580

 MP:18/18

 SP:30/30

 特技:

 ・剣Lv3(剣の攻撃力 +15%)

 ・脅しLv4(消費SP5・敵SP15%減少)

 ・交渉Lv5(交渉成功率 +25%)

 魔法:-



 名前:ジャイルズ・ゴードン

 称号:ボルマンの護衛

 Lv:6

 HP:630/630

 MP:10/10

 SP:30/30

 特技:

 ・剣Lv3(剣の攻撃力 +15%)

 ・脅しLv3(消費SP5・敵SP9%減少)

 魔法:-



 名前:スタニエフ・オネリー

 称号:ボルマンの金庫番

 Lv:5

 HP:480/480

 MP:15/15

 SP:23/23

 特技:

 ・剣Lv2(剣の攻撃力 +10%)

 ・挑発Lv2(消費SP5・10%の確率で敵に状態異常・興奮)

 ・交渉Lv3(交渉成功率 +15%)

 魔法:-



 名前:カレーナ・サラン

 称号:ボルマンの奴隷(封術士)

 Lv:6

 HP:480/480

 MP:30/30

 SP:20/20

 特技:

 ・挑発Lv2(消費SP5・10%の確率で敵に状態異常・興奮)

 ・スリLv5(成功率 +25%)

 魔法:

 〈封術〉

 ・火球(ファイアボール)Lv2(消費MP10)

 ・氷槍(アイスランス)Lv1(消費MP10)

 ・灯火(トーチ)Lv1(消費MP5)



 カレーナの特技には色々ツッコミを入れたいところだが、なんか怖くて聞いてない。



 一方で、俺たち男組は最近、師匠から「返し斬り」という技を教わっている。

 敵の打撃、斬撃を剣を使って受け流し、その勢いを活かして相手に斬りかかる攻防一体の技だ。


 ユグトリア・ノーツのゲームに準じるなら、攻撃力は通常攻撃の倍。さらに会得すると他の剣技への発展が期待できる。


 すごく便利な技なのだが、残念ながらまだ誰も会得できていなかった。




「スタニエフはカレーナを護れ。カレーナは氷槍(アイスランス)の詠唱を。ホブゴブリンを狙ってくれ。俺とジャイルズは前に出て敵の進行を阻止する」


 俺の指示で、子分三人は事前に打ち合わせておいたフォーメーションをとる。


 前にバッタにやられた時は、道端に潜んでいた伏兵に奇襲をくらって態勢を崩された。

 幸い今回は、見晴らしのいいなだらかな丘だ。しかもこちらが上で相手を見下ろせる。

 ここなら伏兵を恐れずに戦えるだろう。




「カレーナ、詠唱時間は?」


「六十秒ちょうだい」


 少女封術士は懐から封力石を取り出すと、石を握った右手を前に突き出し、詠唱を始める。


「スタニエフ、詠唱の間なんとか耐えてくれ」


「は、はいっ」


 スタニエフは青くなりながらも頷いた。

 俺は前を向き、敵を睨む。


「ジャイルズ、下り坂で早足になる。俺に歩調を合わせろ」


「分かったぜ」


 左隣のジャイルズが唸った。




「グギャギャ!!」


 その時、正面に対峙していたゴブリンたちが、手にしたボロボロの石斧や棍棒を掲げ、一斉にこちらに向かって走り出した。


「来たぞ。前に出過ぎるなよ!」


「おう!!」


 俺とジャイルズは、円形の皮の盾を左手に、右手に剣を構えて前に進む。

 ちなみにスタニエフも同じ装備だ。




「ギャギャ!!」


 五匹のうち、二匹が先行して丘を駈け上がって来た。


 背の丈は俺と同じくらい。

 ボロ布を纏った魔物は、坂を登っているにも関わらず、かなりの勢いで突っ込んでくる。


 左の魔物が早い。


「ギャーッ!!」


「ふんっ!!」


 半歩前に出たジャイルズと、左側から来たゴブリンが衝突する。


 バスッ!!


 ジャイルズは手斧を振り下ろしてきたゴブリンの一撃を、盾で受けていた。




 一瞬遅れてもう一匹のゴブリンが、手斧を振りかざして俺に飛び掛かってくる。


「はっ!!」


 バスッ!!


 盾で受けた魔物の一撃は、意外と軽かった。

 いや、師匠の斬撃が重いのか。


 盾を少しだけ傾け、力を左外側に逃がす。

 勢いがついていた魔物は、わずかにバランスを崩しながら突っ込んで来た。


 一瞬の攻防。

 俺はそのまま盾を引き、身体を左に回転させながら、右手の剣をゴブリンの首筋目掛けて振り下ろした。


 ブシャッ


 肉を斬る感触。

 赤い血が噴き出す。


「ギャ……」


 ゴブリンはそのまま地面に倒れこんだ。




 俺はその姿を視界の端に捉えながら、前を振り向き、急いで地面を蹴って後ろに飛び退いた。


「ギャー!!」


 直前まで俺がいた場所を、先太りの棍棒が通過する。

 正面に別のゴブリンが迫っていた。


 敵は攻撃が空振りに終わるや体勢を立て直し、再び棍棒を掲げて踏み込んでくる。


 ドスッ!


「くっ!」


 受け流すために構えた皮の盾を、敵の棍棒が激しく打ちつける。


 棍棒はリーチがある分軌道が読みにくく、さらに手斧より一撃が重いので、左腕に嵌めた小型の皮の盾ではいなしにくい。


 ゴブリンは三たび得物を振りかざす。


 ドスッ


「っ!」


 受け流しに失敗して一撃を盾でまともに受けてしまい、こちらの体勢が崩されかける。




「ギャギャッ」


 その時、棍棒ゴブリンの背後にいた一匹が、俺の右側を走り抜け、馬車に向かった。


 あれは……ホブだ!!


「くそっ!」


 カレーナはまだ詠唱中だ。

 頼みの綱はスタニエフだが、ホブゴブリンがレベル6なら、格上を相手にすることになってしまう。


 早く加勢しないと、マズい。




「ギャ!」


 だが目の前のゴブリンは、簡単に行かせてはくれない。

 両手で棍棒を振りかぶり、渾身の力で振り下ろしてくる。


 ドスッ!


「くっ!」


 ドスッ!!


「ぐぅっ!!」


 繰り返される打撃に、盾を嵌めた左腕の感覚が麻痺してくる。


 盾自体ももうボロボロだ。

 皮が抉られ、衝撃を受け流せなくなっている。


 やばい

 やばい!

 やばい!!


 もう後がない。



 覚悟を決め、バックステップを踏んで敵から距離をとる。


「ギャ?」


 不思議そうに一瞬惚けるゴブリン。


 俺は、左腕の盾を投げ捨てた。


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