203話_トリックオアトリートアンドトリート

世の中がハロウィン一色になっている頃、我が天寿宅でも「ハロウィンらしいなにかをやろう」ということになり、家の中を少しばかり飾ることとなった。


エデモアの骨董屋に、ハロウィンに使えそうな装飾があるということで取りに向かったシオリとシェイドだったのだが───。


「エデモア、この段ボールに入っているものでいいのか?」


「そうだよ~。そこにあるもの全部持って行ってもらえるといいよ~」


「ありがとう。せーの、って結構重いな……」


「シオリ、無理はするな。私が持とう」


「大丈夫だよ、僕だって鍛えてんだからこれくらい…」


その時、コロコロと缶らしきものがシオリの足元に転がり、それを踏んづけて態勢を崩してしまった。


「うわっ!?」


「大丈夫か!シオリ!!」


段ボールの中身がぶちまけられ、骨董屋の埃が辺りに舞い、モクモクと煙を上げる。


「いたた……なんだったんだよ……」


「シオリ……」


「ん?どうかした?シェイド」


心なしか、自分の声が聞き慣れない感じがする。軽いというか、高いというか。


「…シオリなのか?」


「何言ってんだよ、僕に決まってるじゃん……」


そう笑いながら、横にあった姿見が目に入った。鏡に映るのは、座り込んでいる子供の姿。少年の笑顔が、唖然とした表情に変わる。


「これって……」


シェイドの方を向くと、シェイドも不思議そうな顔をしている。


「あ~、そこにあったのか~」


エデモアがパタパタとこちらに近付いてくる。


「どういうことだ、エデモア」


「これだよ、これ~」


エデモアは先ほどシオリが踏んづけた缶のような物体を取り上げる。


「体格変更マシーン“KUROZUKUME”だよ~」


「また怪しいものを……」


エデモアの発明品に当たってしまったということで、嫌な予感しかしない。どうやら僕は、エデモアの発明品で、子供の体格になってしまったようだ。


「時間が経てば元に戻るから大丈夫だよ~」


「そういう問題じゃないんだけど……」



◆◆◆◆◆



仕方なく、小さくなった体で(服は別途エデモアに用意してもらった。ハロウィンの時期ということで、ドラキュラっぽい、短パンに白シャツ、蝶ネクタイに黒マントと黒いハット、犬歯になるような差し歯を入れて完全武装)シェイドと一緒に家に帰る。


段ボールの荷物は、子供の自分では持てなくなってしまったので、シェイドにお願いすることになった。


「シオリ」


「なにさ」


「町の人がシオリを見ているぞ」


「そりゃそうだろうよ」


行きかう人が、自分を珍しそうに見つめてくる。端から見れば、ハロウィンではしゃいでいる子供にしか見えない。


しかし、内心はどうしたものか頭の中をいろんな思いが駆け巡っていた。


「ハァ、いつ元に戻れるんだろうか…」


「じきに戻ると言ってたし、大丈夫だろう」


「他人事だと思って、気楽なんだからもう……」


家の前まで来ると、レティが外で掃き掃除をしていた。


「お帰りなさい。あら、そちらの可愛いお方は?」


小さくなったシオリの前でしゃがんで笑顔を見せるレティ。


「シオリの子供だ」


バキッ。


レティが持っていた箒が割れる。いや、割ってしまった、というのが正しいか。さっきまでの笑顔はどこへやら、顔面蒼白になっている。


「こ、こ、こ、こども……旦那様の……子供」


ふらりと立ち上がったレティはスタスタと家のへと歩いていくとバタンとドアを閉め、中へ入っていった。なにやらドタバタしているのが雰囲気だけ伝わってくる。


「……」


「すまん、逆だったか」


「シェイド、絶対にわざとやっただろ」



◆◆◆◆◆



家の中では、頭が混乱したレティがソフィアとミュウを相手取って詰問していた。


「ソフィア、どういうことですの、これは!!!」


「えっ、どうしたの?話が全く読めないんだけど……」


当たり前の反応であるが、レティは話を聞く気もないようだ。


「今、家の前に旦那様の子供がいるんですわ!!」


「………えっ!!?」


手に持っていたボウルが地面に落ちそうになるところをミュウが素早くキャッチする。


「ふぅ……ミュウ、ありがとう……」


「どういうことよ、青女。藪から棒に」


「それは私が聞きたいですわ!!」


興奮して話をしても意味がなさそうなので、ミュウとソフィアは言われたとおり、家の外に出てみることにする。


そこには段ボールを抱えたシェイドと、小さい少年が立っていた。


ミュウは、不覚にもその少年を見たときにキュンときてしまった自分を恥じた。それと同時にあることに気付く。


「(あれって、シオリじゃないの……。また何かあったのね)」


ミュウの頭の中でいろんな思考が駆け巡り、その間2秒で、あることを思いついた。


ミュウは子供になったシオリのそばまで行くと、シオリを持ち上げた。


「シーちゃん、よく来たわね。ママに会いに来たの?」


「ま!?」


「「ま?」」


ビックリマークを上げるレティと、はてなマークを上げるソフィア、シェイド、そしてシオリ。


「私とシオリの子よ、シーちゃん」

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