139話_残酷な時
レティが帰ってきて、家はまた混沌の様相を呈してきた。
ミュウラゼルドはあっさりとレティに捕まり、今までの経緯を話している。
僕とシェイド、ソフィアとミュウはそれをテーブルに座りながら遠目で眺めていた。
「ミュウラゼルドがちょっと
「レティに捕まってはどうしようもない」
「負けてるんじゃないわよ、未来の私」
ミュウラゼルドはレティの圧に負け、渋々と話を続けている。
「それにしてもシオリ。1つ気になることがある」
「何かあるのか?」
「ミュウラゼルドは私のことを知らないと言っていた。どうやら、レティのことも知らないらしい」
「知らない?それは、どういうことなんだ?」
「ミュウラゼルドのいた世界の過去と、私達が今いる現在とは繋がっていない、ということだ。これから5年先に世界が滅ぶとしても、同じ事が必ず起きるわけではないと。そもそも、ミュウラゼルドが言うにはシオリの周りにはソフィアとミュウしかいなかったようだからな。この世界には私もいる、レティもいる」
「じゃあ、なんとかなるってことだな」
「その通りだ」
シェイドは微笑む。
「向こうの世界のシオリは、何も出来なかったみたいだけれど」
グサッと刺さる一言を放つミュウ。
「すぐやられちゃったんだろ、聞いたよ」
「でも、今のシオリは天使の力が目覚めつつある。それに、私にもリアがいます」
「そうだな、ただやられるってわけにはいかないはずだ」
今まで、いろんな危機を乗り越えてきたことを考えれば、今回もきっとなんとかなるに違いない。
「でも、シオリはともかくとして、他も全て消滅させてしまう能力は気をつけないといけないわね」
「(ともかく、って……)」
僕の心情は置いといて、ミュウの言うことももっともだ。敵が、世界そのものを消せる力を持っている以上、早めに対処するに越したことはない。
「なんとかしないとな……」
「旦那様、状況は理解致しました」
「うわっ!びっくりした!」
考え事をしているところに、ヌッとレティが現れた。
「未来ゴシック女から話は聞きました。これは早いところ、対処をした方が良いかと」
未来ゴシック女、ミュウラゼルドのことだ。
「敵の目的は、旦那様にとって良くないものです」
「そりゃ、ソフィアを奪われないようにしないといけないからな」
「そうではありません」
レティは首を横に振る。
「どういうことだ?」
「もっと残酷なことです。それはあなたも同じですよ、ゴシック女」
「私も?どういうことなのかしら?」
「未来ゴシック女がああいう風になったのも、一部同情します」
「そんなに酷いことなのか?」
「えぇ……」
「勿体ぶらないで教えなさいよ」
「私の口からは、お話できません。旦那様、今日支度が整ったのならその敵を討つべきです」
「なにやら、知っていることがあるみたいだな…どちらにしろ、あの白ローブはなんとかしないとこっちも落ち着いて暮らせないんだ。やるしかないだろう」
「敵の居場所はわかるのか?」
ミュウラゼルドに白ローブの場所を聞いてみる。
「わからない。けれど、近くに来ればわかる」
「じゃあ、すぐにはわからないってことか」
「ひとまず、普段通り過ごすことにするか。なにかあったら互いに連絡をとろう。私はチャミュに応援を要請しておく」
「じゃあ、私達は買い物にでも行きましょうか。シオリ、一緒について来てくれますか」
「あぁ、行くよ」
「では私も」
「青女までついて来ることないでしょ。人数多過ぎなのよ」
「それならゴシック女、あなたが残りなさい」
「は?何言っているのかしら」
始まる2人の喧嘩。こうなったら、誰にも止められない。
「皆で行ってくるといい。シオリ、何かあったら連絡を頼む」
◆◆◆◆◆
シェイドを残して、僕達は昨日出来なかった買い物をしに街へと出かけることにした。
レティとミュウはなるべく離すように歩く。
そうすると、どちらかが僕の近くに寄ってくるので、結局僕を中心にミュウラゼルドとソフィアが間に入ることになった。
「そういえば、未来ゴシック女は旦那様に興味を示さないんですね」
レティが素朴な疑問をぶつけた。
「それは、姉様の相手だから」
ミュウラゼルドの言葉を聞いて、皆がミュウの方を見る。
「なによ?なにか言いたいことでもあるって言うの?」
ある、けど言うとまた面倒なことになるので黙秘。
「いや、別に……」
その辺もまたこの世界のミュウとは違うようだ。
「それであれば、ミュウラゼルドさんは特に気にする必要はないですね」
しれっと敵対関係を解くレティ。無害、と判断したようだ。
「シオリがここまで沢山の女性といるのが驚きだ」
「ぐっ…」
グサッ。心に刺さる矢。
「私のいた世界では姉様だけだったのに」
「うぅっ…」
グサグサッ。更に深く突き刺さる矢。
「別な人の話を聞いているようね」
「そちらの世界では、私は旦那様と出会っていないんですね。ということは……これはやはり運命」
「迷惑の間違いじゃないかしら」
「…うるさいですよゴシック女」
やいのやいの言い始めたので、あまり関わらないようにしつつ、今日の献立を考える。
昨日食べられなかった分、オムライスにしたい。そう思っていた。
「では、私はミュウと今後必要な衣服を買ってきますので」
「じゃあ僕は夕飯の材料を買ってるよ」
モールにつき、2手に別れて買い物をする。
ソフィア、ミュウラゼルド、ミュウの3人と僕、レティの2人。ミュウはどちらについていくか悩んでいたが、結果的にソフィアの方について行った。
「久しぶりの2人きりですね。旦那様の食べたい物をどうぞ言ってください」
「じゃあ、オムライスを」
「却下です。旦那様にはもっと栄養につく物を食べていただかないと、例えば───」
「(結局ダメじゃないか……)」
要望をあっさりと取り下げられ、栄養価の高い物を優先に食材が選ばれていく。
「旦那様、今回の戦いはあなたが一番辛い思いをするかもしれません」
ふと、レティが呟く。
「どうしたんだ、急に…」
「敵の目的は、ただソフィアを奪うことではないのです。旦那様が窮地に陥るよう敵は狙いを定めています」
「驚かすなよ…」
「いえ、決して大袈裟に言っているのではありません。それだけ面倒な敵ということです」
「レティがそこまで言うのなら、よっぽど面倒なんだろうな。でも、レティは別に白ローブのことを知らないだろ?」
「その方は存じ上げません。ですが、敵の所有している物から、目的は推察できます」
「なんなんだ、その物って?」
「愛しき者で塗られた
■
「ミュウ、これも似合うんじゃないかしら」
ソフィアはミュウラゼルドとミュウ、2人に服を選んではどれにするか悩んでいる。
「あなた、姉様にはずいぶんおとなしく従うのね」
「それは勿論、姉様だからだ」
「その点に関しては、同じみたいね。ただ、中身はほとんど違う気がしてならないわ」
「それは私も思っている」
「……」
2人の間で沈黙が流れる。
「白ローブがいなくなったら、さっさと引き上げて欲しいものだわ」
「心配しなくても、私の役割はそこまでだ」
ミュウラゼルドは淡々と呟く。
「ミュウ~、ちょっと来てください」
ソフィアが2人を呼ぶ。ソフィアはミュウラゼルドとは呼ばない。どちらもミュウだ。話の流れや雰囲気で、どちらが呼ばれたかを察する。
ソフィアの選んだ衣装にミュウラゼルドは着替える。
ミュウと同じように、刺繍の入ったゴシックなワンピース。大人になったミュウが着ると、一段とセクシーな感じだった。
「似合っているわ、ミュウ」
「こんな服を着るのも久しぶりな気がする」
「姉様が選んでくれたのだから、ありがたく着るといいわ」
ふん、とそっぽを向くミュウ。なかなか自分に対してどう接するのが良いか、距離感を掴みあぐねているようだ。
「ミュウ?どうかした?」
その時、ミュウラゼルドが異変を感じ取り、辺りを見回す。
「奴が、来ている」
「クロノチアが!?」
ミュウラゼルドの言うとおり、モール全体がいつの間にか静寂に包まれていた。他の人や店員も見当たらない。
「結界が発動している」
「学校の時と同じね…」
ミュウは黒薔薇の剣を取り出し、ソフィアの近くに寄る。
「姉様はいつでも逃げられるようにして」
携帯を取り出し、シオリに連絡をとるミュウ。
「かからないわね…。でも、シオリ達も同じ状況のはず。ひとまず合流しましょう」
ソフィアは服のお金を律儀にカウンターに置いて、その場を後にする。
「結界を解く方法は?」
「術者にダメージを与えるか、術者より強い力を結界にぶつけて壊すか」
「前者の方が早く済みそうね」
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