134話_サキュバスと桃源郷スリーパーホールド・続

前回のあらすじ。


レティが家に戻ってきたことで僕の眠る時間が脅かされるようになった。事態は思わぬ方向に転び、日替わり制で一緒に寝る人を交代しようという話になる。一週間分を超える希望者が集まった今、エデモアが現れたことにより、話はさらにややこしくなっていき────。




「久しぶりだね~、シオリ~」


「もっと何もない時に出てきてほしいんだけどなぁ」


再会して早々、不安しかない。エデモアは毎回発明した何かを用意してくるが、無事に済んだという記憶がほとんどと言っていいほどないからだ。


【エデモア=トラブル】のイメージがついた今、出来れば早々にお引き取り願いたいのが本音であった。


「というわけで、一週間の割り当て決めはエデモアのつくった装置を使って行おうと思う」


「一体何をするつもりなの?」


「今回はね~、これを持ってきたよ~」


エデモアはそう言って、頭に取り付けるヘルメットのような物を人数分取り出す。


「バーチャルスイートルーム~。平たく言うと夢の中で自由にできる部屋を用意したからそこで体験してみるといいよ~」


「寝るって言ったって、1人で寝ても意味がないじゃない」


「そこにはバーチャル天寿くんを置いておいたから大丈夫だよ~」


「バーチャル天寿くん?」


聞き慣れない言葉に首を傾げる。バーチャルな僕ということはわかるがどういうことなんだ。


「エデモアには、実際にシオリと一緒に寝られる装置をつくってもらった。これで観察してシオリが安全だと思った人物を選べばいい」


「ってことは、皆が寝てる光景を見ることができるってことか?」


「そうだよ~。シオリはこっちでモニター観察だよ~」


いつの間にか配置されていた8台のモニター。

(ソフィアとリアの台は同じ)


こうして、ソフィア、リア、ミュウ、シェイド、チャミュ、スカーレット、レティ、アイシャ、ネツキの9人による僕との添い寝争奪戦が幕を開けることとなった。



◆◆◆◆◆



「しっかし、よくこんなものをつくったな」


「睡眠学習の装置をたまたまつくっててね~。シェイドに頼まれたからそれ用に改造してみたんだ~」


「バーチャル天寿くんってなんなんだ?」


「シオリのデータを元につくり出した、いわばコピーだよ~」


「なんで僕のデータを持ってるんだよ…」


「うふふ~」


うふふ、じゃないんだが。と思いつつも、モニターに目をやる。


皆既に装置を付け、睡眠に入っている。これだけの美女がリビングで眠っているというのはなかなか壮観そうかんではある。


「フーマル、お前何やってんの」


パシャパシャとローアングルから皆を撮影するフーマル。スカートの中を覗きまくり、完全に盗撮である。


「いいからお前はモニターでも見てろ。千載一遇のチャンス、逃すわけにはいかねぇんだ!!」


「シオリ~、始まったよ~」


エデモアに呼ばれてモニターに目をやる。


まずはソフィアとリアのモニターから。


彼女たちは現実と同じく入れ替わるということで1台。今はどうやらソフィアのようだ。監視カメラのような俯瞰ふかん視点になったり、気になる箇所があればズームできたりするので便利だ。


バーチャルの僕は既に寝室で眠っているらしい。部屋も僕の部屋で、安らかに眠っている天寿くん。


ソフィアは僕の様子を伺いながらも、起こさないようにゆっくりとベッドに潜り込んでいく。


今まで見たことのない視点なのでとても興味深い。


「ソフィアらしいな」


主張の少ないソフィアらしい謙虚な滑り出し。寝ている僕を起こさないようにする配慮が嬉しい。バーチャルな僕の寝ている横で、ソフィアも静かに眠りにつく。


「ソフィアなら大丈夫そうだな」


流石僕のことをわかっているだけはあると、安心して次のモニターに目を移すと、いきなりの違いに面食らう。


「なんだこれは!?」


ピンク色の壁紙に、何故か天井には輝くミラーボール。一昔前のディスコのような光がギラギラと輝いている。


「部屋、全然違うじゃん!!」


「バーチャルだからね~。使用者のイメージでどうとでもなるんだよ~」


「ってことは、さっきのソフィアは具体的なイメージが出来てるってことなのか」


もう一度モニターに視線を戻す。


「でも、これミュウだよな。あいつ、僕の部屋知ってるだろ」


なんでこんな部屋になっているのかわからない。ミュウは案の定、透け透けの白い下着を着用し、ベッドの上でバーチャル天寿くんに体を預けている形だ。バーチャルな僕は体をミュウを抱き込むようにしている。まるで愛し合う2人のように。


「いや、寝ろよ」


早くも趣旨からずれているんだが。


バーチャルな僕はミュウの体をゆっくり、優しく触っているようだ。ミュウも嬉しそうにバーチャルの僕の行為に身を委ねている。


「自分のコピーとは言え、その行為を外から眺めているというのは、わや(とても)恥ずかしいな」


「バーチャル天寿くんは、なんでも言うこと聞くからね~。使用者のイメージするままだよ~」


「もう、この時点でミュウはアウトだろう…」


バーチャルな僕とイチャイチャしているミュウを放っておいて、次のモニターに目を移す。


「これは何をやってるんだ?」


1DK の間取り。奥のベッドでぐっすり眠っているバーチャル天寿。それを横目で見ながら、朝食?をつくっているチャミュ。何気にゆるめのシャツにパンツ姿というなかなか攻めた衣装である。時折寝ている天寿の顔を眺めたり、頬にキスをしたりして喜んでいる。新婚気分なのか?


「いや、っていうかシチュエーションが朝!チャミュも寝ろよ!」


「この装置にはその人の欲望が現れるからね~。バーチャル天寿くんもそんな要望に応えてどんな対応でもしてくれるよ」


「おい、いらんわそんな機能。僕の人権はどこへ行った」


そんなものはなかった。


僕のツッコミを無視し、エデモアは次のモニターを指差す。


「ここはシェイドか。っておい」


広いジャグジー風呂に入っているシェイドとバーチャル天寿くん。シェイドが僕を囲うように2人して湯に浸かっている。バーチャルな僕は眠り、それを嬉しそうに眺めているシェイド。


「いや、僕は確かに寝てるんだけど!」


シェイドにこんな願望があったなんて意外だ。ソフィアと同じく普通に寝ていると思ったが。けど、普段のシェイド、ベッド使わないしな、とも思ったりする。


「選定基準がわかんなくなってきたよ」


「次見てみよ~、次~」


古風な和の一部屋がモニターに映し出されている。その時点でもう僕の部屋ではないようだが、、


「これは、レティか」


うやうやしく礼をし、バーチャル天寿の近くに寄るレティ。上から一枚だけ羽織り、横になる僕に身を寄せ柔肌をくっつける。


バーチャルな僕も、どことなく亭主関白というか、そんな雰囲気を漂わせている。


「時代劇みたいな感じだな…」


「殿に仕える~みたいな感じなのかな~」


「あっ、これ以上はダメだ。エデモア、次、次いこう」


夜の営みが始まりそうだったので、慌ててモニターを次に移す。


「これは、スカーレットか。ん?」


ベッドにロープで手首を縛られ、目隠しされているスカーレット。体をくねらせながら、そこから逃れようと身悶えするスカーレットに迫るバーチャル天寿。


「スカーレットってそっちの趣味があったのか…」


普段の印象とは真逆な映像。バーチャルな僕もしっかり演技をしているらしく、スカーレットを弄ぶようにその肢体をなめ回している。イヤイヤと言いながらも恍惚こうこつなスカーレットの表情。


「人も色々だな……」


「シオリ~、現実逃避は良くない~」


「いいんだよ、逃避したいんだから。次、見よう、次」


モニターに映し出されたのは、目隠しをされたバーチャル天寿くん。 


「今度は僕かい」


「そうみたいだね~」


身動きの出来ない僕の耳に息を吹きかけて反応を楽しんでいるネツキ。豊満なおっぱいがバーチャル天寿くんの顔に乗っかる。


えっちな女王様プレイが展開されるモニターをエデモアに見せないように手で覆う。


完全にSだ。その様を楽しんでいるネツキの顔はサディストそのものだった。


「次の見よ、次」


再び現実から目をそらし、次のモニターへ移る。


「お、これは」


僕の部屋でぐっすり眠っているバーチャル天寿くん。アイシャも僕の隣で安らかに眠っている。


「アイシャならぐっすり眠れるのか。これなら心配はなさそうだな」


安心したのも束の間、なにか違和感に気付く。モニターの視点をズームさせ、バーチャル天寿くんの顔に近付ける。


青白い唇。呼吸が一切していない。


「死んでるじゃねぇか!!」


アイシャの氷の能力でぐっすり眠っている、というより永眠しているバーチャル天寿くん。


これでは一緒に眠れない。眠ったが最期だ。 


「結局、一緒に寝られそうなのはソフィアだけか…」


そう言って、ソフィアのモニターをもう一度眺める。


「あれ」


さっきまで2人大人しく寝ていたのが、今見ると、ソフィアがバーチャル天寿くんの上に乗っかって濃厚なキスを重ねていた。


あわててエデモアに見せないように手で防ぐ。


「これ、リアになってるのか」


でもまぁ、他に比べるとソフトな感じもするが、最早基準がよくわからなくなってしまった。



◆◆◆◆◆




結果、



「ノーコンテスト」


「え~」


「何よそれ」


「旦那様、その結果はあんまりではございませんか」


「2枠以外は決められるのではなかったか」


皆からブーイングが漏れる。


「エデモア、皆にモニターを見せて」


「は~い」


一同集まってモニターを眺める。

数秒後、皆顔を真っ赤にしながらモニターに釘付けになっている。


「青女、なによこのB級映画みたいなセットは」


「ゴシック女こそ、アダルトビデオではあるまいし、品のないこと」


互いに罵り合う面々。


「シオリ」


そこにシェイドが僕の方に近付いてくる。


「この装置があれば、皆満足するのではないか?」


「あ、なるほど」


それは盲点だった。


というわけで、皆も1週間に一度くらいなら毎日会える方を選び、僕の安息の日は、バーチャル天寿くんが犠牲になることによって事なきを得たのだった。


ありがとうバーチャル天寿くん、君のことは忘れない。

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