117話_天魔舞闘会 決勝戦
2回戦を終えた僕達は、一度会場から出て休憩を取ることにした。決勝は今から2時間後。ゆっくりご飯を食べても間に合う時間帯だ。
「今日は私がお弁当をつくってきました」
「おっ!!旨そう」
ソフィアが大きな包みを取り出す。一面に広がるお重の数々。唐揚げに卵焼き、煮物など様々なおかずが入っている。
「姉様のお弁当、美味しそう。私も習いたいものだわ」
「ミュウも覚えればつくれるようになるわ」
「じゃあ、今度教えもらおうかしら」
「えぇ、いいわよ」
「早速いただこうかな」
そう言って唐揚げを口に放り込む。しっかり味付けされた唐揚げはとても美味だった。
「うん、美味しい!」
「良かった!まだまだありますから、沢山食べてくださいね」
「ソフィア、これ結構時間かかっただろ?」
「朝から準備しましたからね。腕によりをかけました。それに――」
ソフィアは少し悲しそうな顔をしながら僕の方を見た。
「レティも手伝ってくれたんです」
「レティが?」
「はい。色々準備をしてくれて。まさか、あんな風になると思わなくて…」
ピタリと箸を止めるミュウ。
「ミュウ?」
「姉様には悪いけれど、あいつが手伝ったと思ったら、食欲が失せたわ」
「ミュウ、気持ちもわかるがせっかくソフィアが早起きしてつくったんだ。そういう言い方はダメだ」
「じゃあ…」
ミュウはウインナーを口に挟み、僕に口移しをして半分自分が食べる。
「シオリと一緒に食べるなら、食べてもいいわ」
「ミュウ!」
口移しされたウインナーを食べながらミュウを注意する。
「だって!!さっきのことを思い出して…イライラしてくるんだもの……忘れさせてよ」
「うん、旨い。にしても、レティが手伝っていたとなると、今日も変わらず一緒にいる気だったのではないか?」
黙ってお重のおかずを食べていたシェイドが口を開いた。
「彼女は朝に何か言っていたのか?」
「料理のコツは教わりましたけど、それ以外は普通通りでしたよ。だから、あんな風になるなんて思いもしませんでした」
「やっぱりか……」
「やっぱりってシオリもなにか思い当たることが?」
「確証ってわけではないんだけど、長と話をしていたのが気になってね」
「何かあったのは確かだろうな」
「あぁ、あの試合も特に優勝に対する意気込みを感じられなかったし、不可解だったのは確かだ」
「……シオリ」
「なに…いたたたた」
ミュウに耳を引っ張られる痛みで涙目になる。
「あの女の話はしないでって言ったでしょ…」
あからさまに不機嫌になるミュウ。どうあってもレティの話は聞きたくないらしい。
そこにシェイドが来て、ミュウをひょいと僕の股の間に挟みこみ、僕がミュウを後ろから抱き締めるように配置する。
「シオリ、少しミュウに黙っていてもらってくれ」
「あ、あぁ」
ギュッ。
ミュウを優しく抱きしめてやる。借りてきた猫のように急におとなしくなるミュウ。怒りのボルテージが下がっていくのが目に見えてわかる。
「それで、レティには何かあるということだな」
「その可能性が高いだろうな。シオリ達と一緒にいる間、私も彼女の動きは見ていたが、手を抜いている風には見えなかった。むしろその逆だ。何かあったと考える方が自然だ」
「じゃあ、尚更気になるな。この大会が終わったら、レティには改めて聞いてみよう。嫁の件は別にいいんけど、別れ方があれじゃあね」
「それがいいだろう」
「ちょっと、シオリ!!私は反――」
チュッ。ミュウに不意打ちのキス。
「……あんたが納得いかないならそれでいいわよ」
「ありがとな。そしたら、レティの件は大会が終わったらにしよう。それとは別に、次は個人的にぶっ飛ばしたい奴がいるからな」
「まさか、また戦うことになるとはな」
「あぁ、次こそ完全に叩きのめす」
「叩きのめしちゃってください」
ソフィアも珍しく、強めの言葉を使っている。あれだけトラウマを植え付けられた存在なのだから、無理もない。
「あぁ、思いっきりやってやるぜ!!」
腕を高く突き上げる。ミュウも連れられて腕を上げる。
「というわけで、今はソフィアの用意してくれたお弁当を食べるのに専念しよっと!」
「お茶、出しますね」
こうして、僕はひと時の休息を過ごしたのであった。
◆◆◆◆◆
天魔舞闘会決勝戦。
順当に勝ち上がってきた天帝達と戦うことになり、僕達は最後の舞台へと向かう。
思えば、天帝と直接会ったのもあれ以来のことだ。ソフィアを奪った過去を思い出すと怒りがフツフツと沸いてくる。やはり、奴を許すことなど到底できない。
「僕達は今、4人しかいない。3勝目をかける戦いになったら僕が出る」
「あぁ、最後はシオリに任せよう」
「こればかりは仕方ないわね。私もあの男には色々と恨みがあるけれど、そこはシオリに任せるわ」
「シオリ、お願いします」
「あぁ、任せとけ」
会場のアナウンスが流れ、舞台へと進んでいく。
「最初は私が行こう」
シェイドが舞台へ上がる。
「あら、やっぱり最初に出てくるのはあんたか」
ラムが手の周りに雷撃を放電させながらシェイドの方を見る。
「久しぶりの顔だな」
「まぁ、そうね。最近は天界にいることが多かったし」
試合開始の合図が鳴り、二人はゆっくりと舞台を周りながら話を続ける。
「天帝の元にまた戻るとは思わなかったが」
「私も思ってなかったわ。けど、地上の生活も暇になって来ちゃったし。あの人はあの人でなんかあったみたいだしね。私は報酬がもらえてそこそこの地位に付けるなら、悪い話ではないって思ってるのよ」
両手から雷撃を放つラム。ジグザグに伸びた雷はシェイドの脚を狙って伸びてくる。
側転、バク転と身体能力を生かして避けるシェイド。
「なるほど、そういうことか」
「そういうこと、だからこの戦いで天帝に戻ってもらわないと私が困るってわけ!!」
バチィィン!!!
激しい雷撃が舞台全体を覆う。シェイドは風を巻き起こし、雷撃の進行方向をずらしていく。
「避けてばかりじゃ勝てないわよ!!」
次々と襲いかかる雷の筋。
「ラムの雷はなかなか面倒だな」
「範囲が広いですね。それに手数も多いし、シェイドに反撃の糸口が見つかればよいのですが」
「シェイドなら問題ないわよ、じきにわかるわ」
余裕そうに見守るミュウ。
「ほら、避けてばかりじゃ勝てないわよ!!」
絶え間なく雷撃を落としていくラム。
「確かに凄い攻撃だが…」
シェイドは一瞬の隙を見てラムの懐へと入り込む。
「チャンスはある!!」
「甘い!!」
パンチを繰り出すシェイドの攻撃を予測していたラム。拳の周りに雷撃をまとわせカウンターを喰らわせる。
「ぐっ…!!」
「シェイド!!」
脇腹にダメージを喰らい、後ろに下がるシェイド。
「誘っていたのか…」
「遠距離ばっかり撃ってるんだから、距離を詰めてくるのは読めるわよ」
「まんまと誘い出されたわけだ」
シェイドは起き上がり、呼吸を整え直す。
「あんた、もうちょっと強いかと思ってたけど」
ラムは少し呆れたようにポージングをとる。
「期待に添えないようで申し訳ないが、私はこんなものだよ」
シェイドは拳を前に、拳法の型のように構えをとる。
「ただ、だからと言って負ける気はないがね」
シェイドはもう一度ラムと距離を詰めるために駆け出す。
「同じことを!!」
雷撃がラムから放たれる。シェイドに向かって一直線に飛んでいく雷。
「さっき食らったばかりなの忘れちゃったの!!」
「そうでもないさ」
シェイドは軽く笑みを浮かべると、雷撃を素手ではじき返す。
バチィィン!!
「えっ!?」
「くる場所がわかっていればそう難しいことはない」
シェイドに向かって放たれた雷撃はことごとくはじき返されていく。
「あんた、雷を――」
「はじき返せないわけじゃない、読みを誤ったな」
再びラムの懐に飛び込んだシェイド。もうラムに雷を撃つ力は残っていない。
「これで終わりだ」
ドスウゥゥン!!
「!!?」
シェイドの掌底がラムの腹部をとらえた。衝撃をモロに受けたラムは場外へと飛んでいく。
「勝者、シェイド!!」
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