26話_倒すは天帝。目指すは天界大宮殿2
天界の大宮殿――。
最上階のとある一室にソフィアは閉じこめられていた。
最低限の自由は保証され、部屋の中ならば動き回ることはできる。1日数回天帝に呼ばれては天帝好みの衣装を着せられ弄ばれる、ということが繰り返されていた。
着替えにはネリアーチェが同行し、着付けから全て彼女が行ってくれる。
下着の上から下までも指定され、たとえどんなにいやらしい下着でも絶対に拒否することはできなかった。
また、ソフィアの髪は薬によって無理矢理伸ばされ、今では腰くらいの長さに届こうかというほどになっていた。
1番嫌だったことは、天帝のことしか考えられなくなる薬を無理矢理与え続けられたことだ。自分の意志とはいえ関係なく、記憶がぼやけてくることが吐き気がするくらい悲しかった。
今、覚えてる中で必死にシオリのことを思い出そうとする。
それも霞がかかったようにあいまいなものになっている。
1つ幸いだったことは、もう1人ソフィアと同じように捕らえられている女性がいたことでコミュニケーションがとれたということだ。
とは言っても、彼女は喋ることができなく身振り手振りで表現することしかできなかった。
それでも、近くに話す相手がいるだけでソフィアの気持ちはいくらか紛れたのだった。
「今頃シオリはどうしているんでしょうか……シオリに会いたい……」
うずくまるソフィアを女の子は優しく抱き寄せたのだった。
◆◆◆◆◆
「だから、さっさとその腕を離しなさいって言ってるのがわからないのかしら!!」
「え~、別にいいじゃん減るもんじゃないんだし♪」
ムニュッ。
「減る減らないの話じゃないのよ。その行為が不愉快だと言っているの」
「あんたが不愉快とか知らないし。シオリは気持ち良いもんね?」
ムニュッ ムニュッ。
僕の左腕に胸を押し当ててくるスカーレット。それに負けじと右腕に絡みついてくるミュウ。
板挟みにあいながら、僕は今天界第2層に向けて歩いていた。
天界は大きく分けて3層に別れており、1層は草原や森の広がる大地エリア、2層は街や店などが活発な商業エリア、そして3層は上位の天使か住むことを許されない特例エリアとなっている。
層の切り替え場所にはゲートと呼ばれるものが存在し、別層に行くには必ずそこを通る必要がある。
1層から2層の移動は特に問題ないらしいが、問題は3層だった。
特例エリアを移動するためには、許可証ないしは上位の天使である必要がある。
その部分をどうクリアするかは、3層に上がるまでに考えなければいけないのであった。
なのだが……、
1層に着いてからスカーレットとミュウは僕を挟んでずっとこの調子で喧嘩をしている。
スカーレットが僕にちょっかいをかけてはミュウが怒り、の繰り返し。
「シオリも色んな女性から好かれるとは大変だな」
とチャミュから同情のような言葉をもらった。別に助けてくれるわけではない。
不毛な攻防が続いたまま、1層の森林エリアにたどり着く。
チャミュの話だと、ここを抜けると第2層に繋がるゲートがあるとのことらしい。
比較的暖かく、じんわりと汗をかくような気温だ。
天界とは言うが特に地上にいる時との違いは感じない。見たことのない植物や動物はいたりするのだが、どことなく、どこかで見たことのある景色に似ていることの方が多い。
草木をかきわけながら奥へと進む。
しばらく進むと大きな湖にでくわした。
「わー!!大きいー!!」
はしゃぐスカーレット。靴を脱ぎ、湖の中へと入る。
「つめたーい、気持ち良いよシオリ!!」
「おい、スカーレット……」
そんなことをしている暇はないと
「いいじゃないか、少し休もう」
「チャミュまで!」
「第3層まではまだまだ先だ。それにゲートの件もどうにかしないといけない。休憩がてらに考えるとしよう」
「そうか…」
「そう気を落とすな。焦ってはソフィアも救えない」
「わかってるよ…」
「シオリ、私はシオリに感謝しているよ。ソフィアをこれほど大切に思っている相手が現れたことを」
「チャミュ……」
「さあ、シオリも少し遊んでくるといい。彼女たちのケアも今後にとっては大事なことだ」
チャミュの言葉に、黙ってうなずく。
「シオリー!!早くー!!」
「わかった、今行くよ!」
僕はスカーレットの言葉に応えると、湖に入っていった。
◆◆◆◆◆
大宮殿、ラムの私室。
下着姿でベッドに寝そべるラム。
焦げた制服は脱ぎっぱなしになっている。丁度風呂上がりのようだ。横にはカゲトラがいるのだが一切お構い無し。
「あーやっぱりあのキツネ目最悪だったわ……」
風呂場で胸とお尻の大きさを煽られ続けたラム。小振りながら形の綺麗さでは負けないと自負しているが、如何せんボリュームにはどうやっても勝てない。
「どうしてここの隊長って変なのばかりなのかしら」
その言葉を聞いてなにか言いたそうにしているカゲトラ。黙って聞いている。
「なによ、犬。言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「いや、別に」
「はっ、まぁいいわ。ちょっと肩揉んで」
ラムに言われるまま肩を揉むカゲトラ。
「あぁ~、そこそこ。」
「(ババくさいなぁ、内の主人は)」
「今、ババくさいって思ったでしょ?」
「!!?そんなことないですよ。それより、ソフィア大丈夫なんですかね」
「大丈夫なわけないでしょ。天帝様に気に入られたら飽きられるまで使い倒されるんだから」
「だよねぇ、可哀想だなぁって」
「同情はするわ。天帝様のことは好きだけど、同じことをやられてたら身が持たないもの」
「助けてあげたりとかは」
「無理よ、あそこは天帝かネリアーチェしか入れない場所だもの。仮に侵入しようと思っても鍵がなければ開かないわ」
「あいつ、助けに来たりしないかな」
「そうしたら面白そうね、大宮殿が一大事になるわよ」
ラムは他人事のようにくくっと笑った。
「犬、新しい制服用意しといて」
「もう頼んでますよ」
「あら、やるじゃない。下着も適当なの見繕っておいて」
「それは主人がやってくださいよ」
「あんたの好きなの選んでいいから」
「(別にどうでもいいんですが…)」
「今どうでもいいって思ったでしょ?」
「!!?そんなことないですよ!」
◆◆◆◆◆
リーガロウの私室。
焦げた制服を処分し、エメに新しい物を手配させる。デスクに置いてあるファイリングを出し、ミュウのベストショット集を眺め心を落ち着かせる。
日増しに高まる彼女への思い。
一体どんな女性なのだろう。花を送れば喜ぶだろうか。シャワーを浴びながら、そのことを考えていた。
次に彼女に会う口実を考えないといけない、それにはまたあの男を使うのが早いか。
次のプランが色々と浮かんでくる。頭の中ではミュウが自身の嫁となりバージンロードを歩いている姿を妄想していた。
「リーガロウ様!!」
「!!?なんだ!?」
シャワー室の向こうから聞こえてくるエメの声。妄想を遮られ少し機嫌が悪くなる。
「着替えをお持ちいたしました!新しい制服も用意してございます!」
「そうか、ご苦労。下がっていいぞ」
「ハッ!!」
制服を置いて退室するエメ。タイミングは読めないが、真面目な奴であることに違いはない。上手く使えばよいのだ。
「上手く使えばよい……そうか、その手があったか」
リーガロウは何かに気がつくと、笑みを浮かべた。
◆◆◆◆◆
森林を抜け、ゲートまでたどり着いた僕たち4人。そこは大きな駅のような形をしていた。広々とした無人駅で、ホームには草木が生えている。
「ここが…ゲート?」
「そう、階層間には
そこに大きな白塗りの列車がやってくる。宙に浮く路面電車のようは形で何か懐かしさを感じる。
「さぁ行こうか」
「切符とかはいらないのか?」
「第1~2層間は特に必要ないんだ」
そう言ってチャミュは列車に乗っていく。
「さ、行くわよ」
その後をミュウ、スカーレットに押される形で僕も列車に乗っていく。
列車はゆっくりと走り出し、大きく回りながら徐々に上の方へと上がっていく。
「うわぁ~」
「なかなか綺麗だろう?」
下を眺めると、絶景が広がっていた。
先ほどまでいた1層を上から眺めるとここまで綺麗だったとは──。
「さ、次は2層ね…」
渋い顔をするミュウ。
「どうかしたのか?」
「色々と因縁のある場所なのよ」
「私たちが暮らしてたところって2層なんだ」
スカーレットが僕にくっつきながら教えてくれる。
「そうなのか」
窓から外を眺めているミュウを見る。心なしか憂鬱そうな顔をしている用に見えた。
「第2層、出来れば穏便に抜けたいところだが…」
チャミュもまた、一抹の不安を抱えながら、様々なことを思案するのであった。
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