恥じらうサキュバスが家に来た~反面他の娘たちはガンガン襲ってきます~

綴字みかな

サキュバスの日常編

1話_セクシーで真面目なサキュバスが家に来た

僕こと天寿(てんじゅ)シオリの人生は平凡なものだった。


身長は165cmほどで一般的な体型。


取り立ててなにか秀でた才能があるわけでもなく、

高校生になるまで人と深く関わらず無難に生きてきた。


恋愛イベントというものは欠片も起きず。

キスや異性と手を握ることすらなく学生生活は過ぎ去った。


新しい制服も一回り大きいものにしたが、身長はそれに伴って伸びる気配もない。


顔も中性的で、男か女かわからないと言われたことは数え切れず。


高校デビューとはほど遠い、実に退屈な日々が過ぎようとしていた。


◆◆◆◆◆


そんな日が一変したのが、つい数日前のこと。


ある日、学校から帰ってくると、居間で親父と誰かが話をしていた。

やけに仲が良さそうで、笑い声も聞こえてくる。


普段家にいることのない親父がこんな時間にいるとは。


いつもの僕だったら、すぐに2階の自分の部屋に閉じこもってしまうが、その日は親父がいたことが珍しかったこともあり、居間に顔を出した。


それがそもそもの間違いだったことを後で知る。


親父と話をしていたのは天使だった。


親戚のおばさん、ではない。母親でもない。

ちなみに母親はもういない。


なんで天使とわかったかというと、背中に大きな白い翼が生えていたからだ。あと頭に輪っかが乗っていた。


さらさらと流れる腰まで届きそうな金色の長い髪に、宝石のようにきらりと光る青い瞳の綺麗な女性だった。


目元は鋭く、賢そうな雰囲気を漂わせていたのを覚えている。


名前をチャミュと言うらしい。


親父が言うには、飲み屋で意気投合したとかなんとか。天使が居酒屋にいたらしい。


どこからツッコんだら……。

という思考を巡らせている間に、チャミュが話を切り出してきた。


人間界で暮らしてみたいという友人のために、住むところを探していたというのだ。


「住むところ?」


チャミュは親父が出していたお茶をすすりながら話し始めた。


「そう、私の友人なのだがなかなかの苦労者でな。天界では落ち着ける場所がどこにもないのだ。

それで、人間界でゆっくり休養させようということになり、住む場所を探していた。だが、こちらの世界はなにかと手続きが面倒なのだな。適当な場所を探すのも一苦労で、ほとほと困り果てた時に君の父上に会ったというわけだ。」


困り果てて酒飲んでたってことか。


「はあ」


親父の方をちらと見る。

やけに上機嫌な顔が憎たらしい。


「部屋1つ空いてただろ、そこを使わせてやりゃいいじゃねぇか」


お前は黙ってろ。話がややこしくなるから。この親は、親父という立場ではあるが放任主義も良いところで年単位で家に帰ってこないことなんか当たり前。家のことは全部自分でやっている。だから、父らしいと思ったことはない。


「でも、不安じゃないですか?ほら、その友人という方も、まったくの見ず知らずな間柄なわけだし……。その、お友達になにかあったら……」


「それには心配及ばない。たまに私が見に来る。それに、君になにか間違いが起こせるとも思えないしね」


真正面から正論を言われてはグゥの音も出ない。


見知らぬ天使が居候……まるで自信がないな。丁重にお断りをしよう、としたその時、


「そういえば、まだ当の本人を紹介していなかったな。ソフィア、入ってきて。」


「…はい」


その瞬間、僕は目を奪われてしまった。


おずおずと部屋に入って来たその子は、一目で可愛いとわかった。


可愛いが服を着て歩いてきた。語彙ごい力が足りないが、本当にそんな感じだったのだ。


栗色のふんわりとしたミディアムヘア、キューティクルはきらりと光り

銀色の眼鏡の奥には憂いを帯びた瞳。すらっと細い手足にくびれ、思わず触りたくなるような主張の激しい胸と腰。


思わず目でラインを追ってしまいそうになる。


見惚れるほどに可憐な少女が目の前に立っていた。

目線を下に逸らし、恥ずかしそうにしている。


「彼女がソフィアだ。この家で世話になる」


話が勝手に進んでいるのだが、目の前の少女に目を奪われて反論する言葉が出てこない。


「お金のことは心配しなくていい。

ソフィアの生活費はもう父上に渡してある。多少余裕もあるだろう」


親父の方を一瞥する。テヘッと下を出す親父。こいつ、しっかり買収されてやがる……。


「……ソフィアと言います。あの、よろしくお願い致します」


床に正座し、三つ指を立てて深々とお辞儀をするソフィアと呼ばれる少女。少女は声も可愛かった。


「は、はぁ…」


自分もつられてお辞儀を返してしまうが……そうじゃないだろ!!


友人って女の子だったの!?いくらなんでもアウトでしょ!


僕の心が唐突に我に返る。


「ソフィアはサキュバスの能力を持っていてな。

不要に近づくとエネルギーを吸い取られるから気を付けるように」


え、この人今さらっと危ないこと言った。


サキュバス?それって、どういうことだ。


天使とサキュバスが友達?サキュバスって悪魔でしょ?


もうわからん。


ソフィアはかわいいが、何やら危ない香りがする。丁重に断るよう口を開こうとすると───。


「じゃあ、ソフィアちゃん部屋を案内するよ。」


ゲシッ!!


「ぐあっ!」


彼女を僕の部屋へと案内しようとする親父の尻にドロップキックをかます。


くの字になり部屋の隅に飛んでいく親父。


まったく、親父に好き勝手させると話がややこしくなる。


「シオリ君、ソフィアは天界で居場所がない。少しだけでもいい。

場所を貸してやってくれないだろうか」


「そうは言っても……」


チャミュからお願いされるが、一緒に暮らせそうなイメージが涌かない。


「あの、おとなしくしていますので…お願いします」

そんなしおらしい言葉でお願いされてしまったら、

何も言えなくなる。


「…まぁ、少しだけだったら」


結局、2人に負けて許可を出してしまった。下心がなかったとは言えない。


「ありがとう、シオリ君。助かるよ」


チャミュはにこやかな笑顔を見せると、近付いてきてこそっと耳打ちをする。


「君がそんなことをするとは思えないが、もし、ソフィアに手を出したら――」


「……出したら?」


「君の命の保証はできない」


「……」


なんと言う威圧(オーラ)。


「は、はい…」


気迫に押されてそんな返事しかな出せなかった自分が情けない。


かくして、見知らぬサキュバスの子ソフィアと

同じ屋根の下、奇妙な同棲生活が始まったのであった……。

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