第24話 再会
無事に奴隷契約の一時的な解除を済ませると、すぐにライネック伯爵領に向かうことにした。家の戸締まりと、防犯の魔法をしっかりと施したことを確認すると、転移魔法で一気に目的地へと向かった。
その間ずっとパメラは腕にしがみついていた。そんなに信用無いか、俺。ちょっとへこむ。しがみつかれた腕は幸せな感じになってはいたが。
パメラの両親も心配していることだろう。この辺りで里帰りするのはちょうど良かったかもかも知れない。
ライネック伯爵領へは一度行ったことがある。そのときは通過しただけだったが、それでも転移魔法を使う上では役に立つ。何せ転移魔法は一度行ったことがある場所にしか転移することができないからね。
依頼書が俺のところに直接来たからといっても、いきなりライネック伯爵のところに行くのはまずいだろう。一度、この近くの冒険者ギルドからの紹介を受けてから訪ねようと思っていたのだが、そう言えばパメラがいる。そのまま行っても大丈夫かな?
「大丈夫ですわ。私が帰ってきたことを告げればすぐに取りなしてくれますわ」
「そうか。それなら話が早いな。よろしく頼む」
パメラはキリリと眉を引き締めてうなずく。これなら大丈夫かな。俺たちは領都のライネック伯爵家の屋敷へと向かった。
たどり着いたそこは屋敷と言うよりかは砦と言っても差し支えなかった。
成人男性の二倍近くありそうな石造りの城壁に囲まれており、門には槍を持った門番が油断なく辺りに目を光らせていた。
「ずいぶんと立派な砦だな」
「その昔、この辺りは隣国との国境の最前線だったそうで、その名残でこのような立派な砦になっているみたいですよ。それでも居住性はしっかりと考えられていたみたいで、住み心地はとても良いですよ」
うれしそうな声でパメラが説明を加えてくれる。実家を紹介できるのがうれしい様子だ。スキップでもしそうな勢いでパメラが俺の手を引っ張ってゆく。
だがしかし、引っ張られる俺はちょっと引き気味になっていた。だってこれからパメラのご両親に会うんだよね? 怖くない? 多分、俺とパメラの関係は了承済みだとは思うけど、確実、なんて保証はどこにもないからね。
門番がこちらに気がつき警戒態勢をとった。どうやら見かけだけではなく、しっかりと仕事をしているようである。パメラが近づくと、どうやらお姫様が帰って来たことに気がついたようである。
驚きのあまり大きく目を見開いて、叫び声をあげた。
「お嬢様! パメラお嬢様が帰って参りました!」
その声を皮切りに、何だ何だと騒ぎが巻き起こった。その情報は城内にも伝わったらしく、その場は騒然となった。城内からはワラワラと人が湧き水のように出てきた。
「パメラ、大丈夫なのか、これ?」
「多分……」
パメラもまさかこのような事態になるとは思っていなかったらしく、眉を垂らし、困惑した表情でこちらを見た。
俺たちが顔を見合わせていると、慌てた様子で一人の男性が躍り出てきた。白髪をオールバックにし、黒いお仕着せを身にまとっている。「いかにも執事長」のような人物が周囲の状態を素早く確認すると、何やら後ろに合図を送った。
その合図と共に、数人の使用人を引き連れた豪奢な衣装をまとった女性が現れた。淡いブルーのブロンドはパメラと全く同じであり、深い海のような青い瞳を持つ女性。間違いなくパメラの母親だろう。
あの容姿とあの胸部は間違いない。パメラも凄いと思ったが、さらにその上があったとは。まさかパメラの胸はまだ発展途上なのか? 世の中の胸の大きさに悩む女性陣を敵に回しそうで怖い。
「パメラ!」
「お母様!」
二人がしっかりと抱き合った。挟まれた胸がその形を大きく変える。あんな風になるのか。眼福、眼福。そう思っているのは俺だけではなかったらしく、何事かと砦から出てきた兵士たちも思わずガン見していた。
言っておくが、片方は俺のおっぱいだぞ。
二人の邪魔をしないように俺たち一人と二匹は遠目から見守っていた。
そうこうしているうちに、再び門の周辺が騒がしくなった。何事かと目を向けると、栗毛色の髪に、鼻の下に髭を生やした人物が現れた。それに気がついた兵士や使用人たちがその場がシンと静まり返った。存在するだけでその場を掌握するほどの空気を持つ人物。おそらくライネック伯爵だろう。
それに気がついたパメラがそちらの方に顔を向けた。
「お父様!」
「パメラ、元気そうで何よりだ」
その声は大変安堵したものだった。両親に心配をかけていたことに気がついたパメラは、眉をハの字に曲げて顔をゆがめた。
「心配をおかけしてしまって申し訳ありませんわ」
「なに、気にすることではない。大事な娘を心配するのは親の務めだ」
う、心が痛い。そんな大事な娘に、俺はあんなことやこんなことをさせていたのだ。
一緒に風呂に入ったり、寝ぼけていたとはいえ破廉恥なことをしたり、裸エプロンや裸リボンをしてもらったことを知ったら、間違いなく怒られるだろう。
これは墓場まで黙っておかなければならない案件だろう。
「ほら、パメラ、紹介したい人がいるのではないですか?」
目に涙をうっすらと浮かべたパメラの母親が緩やかな笑顔をこちらに向けた。……どうやら怒っている感じではなさそうだ。その言葉につられてこちらを見たライネック伯爵の顔も怒ってはいない。どちらかというと、口角が上がっている。
「そうでしたわ。こちらはプラチナ級冒険者のエルネスト様ですわ。それからこちらの白い白虎がエル様の召喚獣のシロちゃんで、その隣のフェンリルが私の召喚獣のオルトですわ。冒険者ギルドからの依頼で私たちは……」
「ストップ、パメラ。今、何だか聞いてはいけないような単語が聞こえたような気がしたんだが?」
ですよね! さすがは伯爵、お目が高い。伯爵夫人もサッと扇子で口元を隠しながら大きく目を見開いている。久しぶりに帰って来た娘が伝説の生き物であるフェンリルを従えて帰って来たらそうなるよね。
「え? この依頼をプラチナ級冒険者のエル様に依頼したのはお父様ではないのですか?」
「違う、そっちじゃない。エルネスト殿に依頼したのは間違いなく私だ。ああもう。とにかく、ここでこれ以上話すのは良くない。まずは中に入ろう」
それもそうだ。ここではたくさんの人がこちらに注目している。そこかしこからも「プラチナ級冒険者?」とか「白虎?」とか「フェンリル?」とか「お嬢様……」とか聞こえている。これ以上は良くない。
伯爵と軽くお互いに自己紹介を済ませると、俺たちは砦の中にある来客室へと案内された。
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