嘘じゃん!治るって言ったのに!〜魔力が多すぎる男、異世界へ飛ぶ〜

勇者おはぎ

第1章 覚醒編

第1話 天水蒼

 


「はぁー、疲れたぁ。ったくあのクソ店長。いつか言いたいことぶちまけてやめてやる」


 今日も今日とてバイト先でお勤めを果たして来た俺は、電車に揺られながら深いため息をつく。


 別にバイト先の環境が劣悪なわけではない。先輩からはまあ、それほど嫌われてはないだろうし、同期や後輩とはそれなりに仲がいい、はずだ。


 ただ、店長の性格が少しばかりあれなせいで、毎回出勤するたびにストレスが溜まっていくのだ。アレさえいなければなぁ....。


 あーいや、それともう一つあるな。って-------


  「クッソ、また出てきやがった」


 まーた始まったよ。ほんと嫌になるぜこれ。


 これというのは、手汗のこと。実はこの俺、天水蒼あまみずあおいは手掌多汗症なのだ。


 手掌多汗症、みんな知ってる?正式名称は原発性掌蹠多汗症とかなんとか言うらしいが、とにかくめっちゃ汗をかく病気だ。汗かくだけじゃん、と思うだろ?でも舐めちゃいけない。汗をかく量が尋常ではないのだ。


 まあ、人によって程度は異なるようだが、俺の場合は紙に触るとふやけて破れるレベル。しかも俺は脇と足の裏からも出るのだ。脇汗は洋服にしみるから人に会うときは用心しないとすぐにバレるし、靴下を履いてない時はフローリングの床に汗で足跡ができるほどである。


 わかってくれたかな?つまりは日常生活をおくるうえで、ひっじょーに苦しくなるわけだ。


 紙は触れないわ、人からもの借りれないわ、人とハイタッチも握手もできないわ、彼女と手繋げないわ、足くさくなるわ、人と会う時ずーっと脇汗見えてないかな?って心配しなきゃいけないわ、電子機器の反応悪くなるわ etc ....。


 そんなわけで、バイトする時もくっそイライラするが、日常の生活でもずーっとイライラしているのだ。


「この手ぇ、切り落としたらスッキリするかなぁ.....」


 おっとやばい、つい過激な発言が口からポロリと出てしまった。隣の女子高生が少し引きながら、メンヘラを見るような目をしている。いや、違うんすよぉ.....。


 そんなこんなで、19歳、まだまだ心が思春期な俺は、人一倍そーゆーのを気にしてビクビク生活しているのでした。









「なんだあれ、手相占い?」


 バイトからの帰り道。電車を降りて、家まで歩くのだるいなぁとか、そんなことを思って駅の改札から出た時。ふと、目に入ったのがそれであった。


 手相占いとのぼりを出し、人1人分の横幅しかない小さな机に紫のテーブルクロスをかけ、1人の女性が座っている。


 普段、俺はあまり占いとかは信じないタイプである。正確に言えば、いいこと言ってたら信じるし、悪いことだったら信じない。まあ、典型的なタイプだね。


 さらに言えば、手相占いなんてのは普段だったら絶対にやらないのだ。なぜかって?そりゃもちろん、手汗がやばいからだよ。


 なのに、それなのに、何故か俺は手相占いを受けてみようかななんて、そんなことを思ってしまった。


 後から思えば、バイト先だったり、大学の単位がぜーんぜん取れなくて留年しそうだったり、それこそ、手掌多汗症のことだったり。


 バイトやめようかなぁとか、留年したら就職とかやばいんだろうなぁとか、手汗出る限り彼女作れねぇかもなぁとか、そんな将来に対する不安があったのだろう。


 だからきっと、何か道標みたいなものが欲しかったんだと、そう思う。


 まあ、その時は500円くらいならいいかなぁとか思ってなんとなく受けたんだけど、ね。


「えーっと、ちょっと手相見てもらってもいいですか?」


「ええ、いいですよ。ではまずお代のほうを先にいただいてもよろしいですか?」


 あ、はい。と言いつつ俺は財布から500円玉を出して占い師さんに手渡す。占い師さんはなんかめっちゃ笑顔だ。よっぽど客が来なかったんだろうか.....。


「では、本日は何を占いましょうか?」


「え、あー、えーっとですね.......」


 やべぇ、なんも考えてなかったわ。どーしようかな。


「ふふ、特に何もないようでしたら、あなたの今後について、何かアドバイスを差し上げるという形にしましょうか?」


「あー、じゃあそれでお願いします」


 さすが占い師さん。客の気持ちを察するのはお手の物らしい。


「では、左の手の平を見せていただけますか?」


「わかりました」


 そう言って俺は左手を差し出す。ってやば、忘れてたっ!


「あー、えーっと、ごめんなさいちょーっと待ってくださいね.......」


 やばいやばいどーしよう。そーいやさっき手汗かき始めてたやんけ。こんな手、人様には見せられねぇぞ.....。


「もしかして手汗のことを気にしてらっしゃるんですか?でしたらお気になさらずに。職業柄、そういう人を何人も見てきてますので」


 嘘だろやっぱエスパーかこの人!?


 でもそうか。たしかに手相占い師さんだもんな。そりゃ慣れてるか。


 うし、じゃあまあ、ここは開き直っていくかね!


「わかりました。それじゃあ、お願いします」


「ええ、それじゃあ、拝見させていただきます」


 そう言って、占い師さんは俺の手相を見始める。ぐぅ、覚悟したとはいえやっぱ恥ずかしいなぁちくしょう......。


「では、まずはここの線についてお話ししていきましょうか。これはですねーー」


 それから、30分ほど手相を見てもらった。


 正直今まであんまり手相占いとか興味なかったし胡散臭いなぁと思ってたんだが、この人喋るの上手いしめっちゃいいこと言ってくれるしで、とても気分が良くなってきた。

 え?キャバクラ?そーゆーのじゃねーから!


 そんなこんなで、500円の価値十分あったなぁとか、そんなことを思いながら「ありがとうございましたぁ」と言って席を立とうとした時、占い師さんがふと口を開いた


「もしよろしければ、お客様が気になさっているその手汗、治す手段があるとしたら、お知りになりたいですか?」


「まじっすか!?いやもうぜひ!ぜひ教えてください!!」


 おいおいまじかよ?そんな都合のいいことあっていいのか?


「ふふ、ではまずその病気を正しく認識しましょうか」


「正しく、ですか?」


 いやいや、これは紛れもなく手掌多汗症だろ?医者にもそう言われた。それともあれか?もっとひどい病気の前触れだったりするのか?


「その病気、実は手掌多汗症ではなく、手掌多魔力症と言われるものなのです」


「.................へ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る