幕間 神人捜索報告会議
一家が祝賀会に参加している頃。
場所は変わり、一方のケメ国の大聖堂では、教皇の命を受け神人捜索の旅に出ていた者たち全員が戻って来ていた。
最終結果として、先に連れ帰ったミキトを除く三名が神人の子どもを連れ帰り、後の三人の方も最初の一人と同程度の石の反応を見せ、その度に聖堂内は冷めやらぬ興奮で包まれた。
今現在は各々が持つ情報の整理の為にと、とある一室にて場が設けられ、そこには教皇と探索に出た弟子ら全員が、教皇ただ一人と垂直になるよう長方形の机を挟んで着席し、出席者全員の着席を確認すると、教皇から見て右斜め前に座るテセが立ち上がった。
「それでは早速ですが、始めさせて頂きます。……探索に出た全員の報告を纏めました所、連れ帰った四名の神人様方には複数の共通点がある事がわかりました。それは大きく分けて四つで、まずはその(①)全員が六歳の少年少女であることは勿論、(②)それぞれが男女関係なく同程度の高い身体能力を有しており、神人の皆様(③)全員が同じ誕生日であるということ。そして決定的なものとして、(④)誕生日となるその日というのが、教皇様が『異変』に気付かれたあの六年前の一件があった日と完全に一致しておりました」
「「「「「!!」」」」」
場が騒然となる。
連れ帰ってきた神人なる子たちに石が反応したのは確かに驚く事ではあったが、弟子たちの中には、だからと言って果たしてそれで神人だと決めつけていいのか、未だ半信半疑な者もいた。
だが、判明した子どもたち全員の誕生日が六年前のあの日と全く同じ日であると知った今、彼らが神人であるという決定的な確証を得たようなものだった。
テセからの話は次に移り、司会であるテセが話し始めると、必然的に場は静まり返る。
「次ですが、先日教皇様が『感知』された数と、実際に連れ帰られた数が合わないことについて、各々から聞いていきたいと思います」
そう言われ、司会者であるテセに近い、クーシーから順に手を挙げ、口を開いていった。
「私はベウダー帝国にまで参りました。そこで偶然にも名のある商人の娘が、かの神人様だと偶然にも判明したのですが、交渉の結果、ご両親はもちろん、神人様ご本人からも拒まれたために連れ帰ることは叶いませんでした。年齢は連れ帰られた神人様方と同じくらいでしたので、まず間違いないかと思われます」
「彼と同様の者は?」
テセの言葉に少数の者が手をあげる。
その手を挙げた者たちが行った場所から分析するに、その者たちが行った場所は帝国の様にケメ国、またはその周辺国から遠く離れている国であり、実際に連れ帰ってきた神人たちは、どれもケメ国の影響が強い近くの国の出身だった。
宗国とその影響を強く受けている周辺国では、大聖堂での勤務は名誉とされており、現時点で神人の親は大変名誉なことだと、子を大聖堂に預けたと考えられる。
「ではその他に、別の理由で連れ帰れなかった者はいらっしゃいますか?」
テセの言葉に弟子の内の一人が手を挙げながら口を開く。
「東方のメルゲ大陸に向けて船で渡りましたが、上陸に向けて着岸しようとした矢先、向こう側からの直接的な威嚇行為を受け、上陸することも儘ならず、そのまま帰還した次第です。誠に申し訳ありませんでした」
「わ、私もです。西方のモウロ大陸では上陸こそ出来ましたが、上陸する者を管理する港の者に、自分が大聖堂の者だと判明するや否や、それまでの温厚な対応とはうってかわって、強引に追い返されてしまいました」
それを聞き、テセが聞いてもいない内から、二人と同様な者がちらほらと手を挙げ始めた。
国の事情が絡んでの問題だろう。
いくら世界中の宗教の総本山である大聖堂とはいえ、他所者を自国に入れようとしない国があるのは珍しくない。
そもそも大陸を渡るのだから、入国が許可されて居ようものなら、こんなにも早く帰って来られる訳がなかった。
「よい。その方らが無事に戻れて何よりじゃ」
これで連れて帰れなかった者の中で、全体の二割が見つけたが連れ帰ることが出来ず、五割が捜索すらできなかったといった割合となり、残りの三割はテセやケゴイらを初めとする、捜したが見つけられなかった者らを残すのみとなった。
「ケゴイよ、最初に捜索を頼んだのはおぬしじゃったな。首尾の方はどうだったのじゃ?」
「はい。先日、教皇様のご指示に従い、かの霊降山に向かい、草の根を分ける思いで探しましたが、見つかったのは数年程前に孵化したと思われる、小鳥の卵の殻のある巣が一つのみで、やはり集落はおろか民家のひとつも見当たらず、やむなく帰還致しました」
それを聞いて周りの者がケゴイに対して抱く感情は『しょうがない』といった、同情に近い気持ちだった。
あの日、六年前の再来だと、その一言のみで内容もあまり詳しくは伝えられない中、教皇が弟子たちを集めたかと思うと、最初に教皇がケゴイに霊降山に行くよう指示した時には誰もが失望していた。
霊降山とはケメ国の西南部に位置する世界一の標高を誇る山で、太古の昔、神々が世界を作った折、いわゆる『原初の神人』となる魂が伝説の神鳥によって下界に運ばれた際、その神鳥が最初に降り立った場所として伝えられ、神聖視されていた。
しかし水源も無く、地形も険しいために、とても人が住める環境では無く、近年に限って言えば、恐ろしい化け物とやらの目撃情報もあるせいで、寄り付く人すら居るはずがないと分かっていたからだった。
それにより、誰もが実際に神人を見るまでに教皇の言葉を信じられなくなっていたのは言うまでもないだろう。
「よい、感知してから全く動かない訳では無いからの、運が悪かったのじゃろう」
神人だって『生き物』だ。
必ずしもずっとその場に佇んでいるとは限らない。
「――して、テセよ。おぬしの行った場所はどうじゃった?」
教皇がケゴイから話題をテセに移した瞬間、先程までケゴイを労わっていた穏やかな空気が嘘のように場には緊張が走った。教皇の一番弟子であり、次期教皇としての最有力候補であるテセが何の成果も得られずに帰って来たのだから、嫌でも全員の視線が集まる。
「おぬしに向かわせた場所には特段強い反応があったのじゃが……確か近くに村があったの。ホセモレ村じゃったか?」
「はい。教皇様のご命令を受けた翌日には目的地に到着し、周辺をくまなく捜索しましたが、不測の事態もあり、結局は見つけることは出来ませんでした。日も暮れ始めていたため、少し歩いた位置での一軒の民家に泊まらせてもらい、そのまま帰還致しました」
周りの者が静かに教皇の言葉を待つ。
「そうか……そういえば、不測の事態といえば、お主が帰還した折に供をしていた大鷹、スフォンと言ったか。怪我を診たのじゃが、あれは一体どういうことじゃ? 腹の骨が複数箇所折れておったぞ」
「それがその……森の中を歩いている時に突然居なくなり、見つけた時には既にあのようになっておりましたので、詳しいことは私にも……」
「ふむ。あの大鷹があそこまで深手を負うとは……あの周辺は比較的安全地帯だと思っておったのだがのう。例の霊降山の化け物とやらが山を下りた可能性も捨てきれん……」
「……あの、教皇様。少しお聞きしたいことがあるのですが」
神妙な面持ちで、テセは発言の許可を取ろうと恐る恐る手を挙げる。
「ん? なんじゃ?」
「その、変なことを聞く様なのですが……」
「この場で聞くということは、全く関係のない話ではないのじゃろう? ……構わんから申してみよ」
「はい。それでは御言葉に甘えてお聞きしますが、その……『石に反応しない神人』というのは、果たして存在するものなのでしょうか?」
「「「「「——……?」」」」」
そんなテセからの要領を得ない質問に、教皇を始めとする、その場の全員の思考が、一瞬だが止まった。
「……ふむ、わし自身、例の石に関してはあまりよくわかっていない部分が多くての。こればかりは何とも言えん」
「そ、そうですか……。急におかしなことを聞いてしまい申し訳ございませんでした」
教皇ならばと若干の期待を抱いていただけに、目に見えて落ち込むテセ。
「なんじゃ? なにか気になることでもあるのかの?」
「……いえ、ふと、そう思っただけです」
「……そうかの」
「「「「「…………」」」」」
テセと教皇の間で行われたこの意味不明なやり取りは、周りの者からすれば非常に反応に困るものであり、二人の顔を交互に見るその他の弟子たちにはたまったものではなかった。
――因みにだが、ある条件下においては石に全く反応しない神人が存在し、今現在連れ帰ってきている四名の神人らを含む、『神造の魂を宿す者ら』全員が、例外なくそれぞれが唯一持つその『圧倒的かつ特異的な何か』を大聖堂側が知る事になるのは、これよりももう少し後のことになる。
「もう他に何か申す者はおらんかの? テセのように何か小さいことでもよいぞ?」
発言を促す教皇だが、その後は誰も手を挙げる者はいなかった。
「では、とりあえずはこの場での報告会は以上とする。次の会議に移る故、退出する者は関係者を呼んできてくれんかの」
教皇からの言葉を受け、テセを始めとする次の会議にも参加する者はそのまま座り、それ以外の者は部屋の外で待っているであろう他の者たちを退出ついでにと呼びに行く。
扉を開けると、外で待機していたのか、すぐさま次の会議に参加するための者たちが入ってきて、全員がそそくさと席に着いた。
「……教皇様。全員揃いました」
体を伸ばす暇もなく次の会議を始めなければならず、深いため息をつく教皇。
「ふぅ……ああ、始めてくれ」
「はい。……それでは、近年不穏な動きを見せるベウダー帝国についての会議を始めたいと思います。まずは最初に、現在の帝国の内情についてですが……」
会議はまだまだ終わりそうになかった。
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