第79話


 みどりの毛並みで見た目がモフモフとしたタヌキが現れた。それを確認したかなでは興奮したように悶えてタヌキを胸に抱きあげる。




「かわいいわ! それにもふもふ!」


「いやまぁ、もふってもええとは言うたけど、一切躊躇わずに来るとは思わんかったわ」




 みどりはいきなり抱き着いてきたかなでに呆れた声を出す。かなではそんなみどりの様子に頬を膨らませてみどりをもふる。




「何を言ってるの、もふるに決まってるじゃない! それにしてもこの毛のモフモフ感癖になるわー」


「あ、う、尻尾をもふるのはええけど。もうちょい優しくしてや」


「えー、しょうがないなぁ。こんな感じ?」




 尻尾をもふられたみどりが少し恥ずかしそうに訴えると、かなではしょうがないと言いつつ丁寧に撫ではじめる。




「お、おう……。いい感じや。意外にうまいもんやなぁ」


「うふふー、マッサージは得意なのよ。ほらほら、こことかどう?」




 強くつまむようなことはせず、優しく指で押したり、手のひらで押したりされたみどりは気持ちよさそうに目を細めてリラックスした様子だ。




「おん、ええわぁ。ここ最近体がこっとる感じがしとったからええ感じやわ」


「あら、そうなの? どうせだったら人の姿の時もマッサージしてあげようか?」


「お、ええの? それやったらお願いしよかなぁ。体が凝るはずないんやけどなぁ」


「まぁ、気分で凝るのは分かるわ。というわけでタヌキは存分に堪能したから、次は人の姿をしましょうか」




 かなでがみどりの言葉に同意するように頷くと、一旦みどりを腕の中から解放して床におろす。




「おん。よろしゅう。まさか人の家に来て、家主にマッサージしてもらうとは思わんかったわ」


「そりゃまぁ、そうでしょうね。なかなかそれを予想できないでしょ」


「まぁ、そうよなぁ。さてと、それじゃあ戻るで」




 先程と同じように煙が立ち込め、晴れると人の姿をしたいつものみどりの姿が見える。その姿を確認したかなではソファーまで連れてきて寝転がるように勧める。




「それじゃあここに寝転がって」


「おんおん、こんな感じでええ?」


「ばっちりよ! それじゃあしていくわねー」


「よろしゅう」




 ソファーに寝転がったみどりの横にかなでが立ち、みどりの肩から下に降りていき腰までをマッサージしていく。かなではみどりの体を触って少し首を傾げる。




「凝ってる感じはしないけどどう?」


「ああ、気持ちええわぁ。なんか人にしてもらえるのって気持ちよく感じるよなぁ」


「あー、分かる。私もしず君にマッサージしてもらった時気持ちよかったもの」




 かなでがうんうんと頷くと、みどりも否定せずに頷き返す。




「耳かきとか頭洗ったりするのも人にしてもらったほうが気持ちええんよな。まぁ、髪切ったりは行かんからなかなかそんな機会ないけどな」


「そうなの? ってもしかして髪とかも伸びないの?」


「おん、正解や。もみじ達も伸びとらんやろ? まぁ、うちの場合は自由に伸ばしたりできるんやけどな」




 正解と言いつつ親指を立てるみどりの後半の言葉にかなでは驚きキョトンとした顔をする。




「え、そうなの? 今は肩くらいだけど、ものすごく伸ばしたりできるの?」


「やろうと思えばできるで。えっと、ほい。こんな感じや」




 ソファーに寝そべっていた体を起こし立ち上がると、軽く髪の毛を触ると先ほどまで肩まで位の長さに揃っていた髪の毛が、膝ほどまでの長さになった。それを見たかなでは嬉しそうに叫んだあと、髪の毛を手で整えてから腰の場所に持ってくる。




「わー! ホントに出来るのね。髪長いのも似合うわね。腰ぐらいで結ったりしない?」


「おん? まぁええけど。あんまり長いのは好きじゃないんよなぁ」


「えー、もったいない。髪も綺麗なのにー」


「せやろか? 何もしとらんけどなぁ……。まぁ、気が向いたらしとくわ」




 髪の毛にそこまで労力をかけていないからか、興味が持てないらしく首を軽く横に振りながらソファーに腰掛ける。




「勿体ないけどまぁ、興味ないならしょうがないかー」


「おん、というか意外にマッサージって効くもんなんやなぁ。体が軽くなった気がするわ。あんがとなぁ」




 肩を回しながら話すみどりに、かなでは手を横に振り笑顔を見せる。




「いいわよー。私がやりたかっただけだもの。いろいろと面白い話とかも聞けたし、ね?」


「他にも面白そうな話があったらまた教えるわ。なかなかないけどなぁ」


「ふふ、別に何もなくてもいいわよ。普通に世間話をするだけでも面白いもの」


「それならよかったわ」




 軽く笑うかなでに安心したようにみどりが笑う。かなではちらっと時計を見て目の前にある飲み物を片付けはじめる。




「さてと、それじゃあもうそろそろ二次会はやめて眠りましょうか。みどりさんはどうする? 泊まっていく?」


「せやなぁ、正直家に帰るのもめんどいし泊まってってもええ?」


「いいわよ。一緒に布団運びましょ」


「おん。二人で運べばすぐに終わるしええよ。ついでに食器も一緒に持って行こか」


「ほんと? 助かるわ」




 そのあと二人は一緒に食器を流し台に持って行き、お客さん用の布団を運びだす。みどりとかなではその後も少しだけ話すつもりだったが、思いのほか話が盛り上がりそのまま一緒に敷いた布団で仲良く意識を落とした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る