第75話


 ピザを食べた青藍たちは満足そうにお腹をさすり、幸せそうな顔でピザを食べ終える。




「美味しかった。満足」


「美味しかったのだ。静人もちゃんと食べたのだ?」


「もちろん僕も食べたよ。正直、茜さんのとどこが違うのか分からないくらいには、上手にできてたと思うよ。すごいねもみじちゃん」


「ホント? えへへー、良かった」




 皆からの素直な誉め言葉に照れくさそうに頬をかくもみじだったが、その後ろで茜が戦々恐々とした顔で慄いていた。




「ぴ、ピザの技量まで負けるとあたしの立つ瀬が……。頑張らないと!」


「茜はピザがなくても力持ちっていう個性があるやん」


「確かに! それならいっかー。いいんですかね?」


「ええんやない? なんだかんだでみんないろいろ出来るんやけど、力持ちは茜しかおらんし」




 みどりの言葉に一瞬だけ安心した顔をする茜だったが、すぐに不安そうな顔になる。そんな茜に対して軽い調子で頷く。そんなみどりを見てほっと息を吐いた後に拳を握り締めてやる気を見せる。




「なら、もっといろいろ力が発揮できる場所見つけないと。でも、他に力が必要な物ってあります?」


「なかなかないやろなぁ。でも、畑作るんやし。農作業は力が必要な場面多いからその時でいいんやない?」


「畑かー。畑って難しいイメージあるんですけど」


「まぁ、コツコツと地道に繰り返していけば大丈夫やろ。うちも作ったことないし、そこらへんは本とかで調べながら手探りやな」




 さすがにみどりもそこまでは知識にないのか、若干投げやりな態度だったが、茜は自分にとって得意なことだからとさらにやる気を見せる。




「体動かす系なら地道にやるの得意ですから頑張ります。たまにはみどりさんも手伝ってくださいね?」


「えー? うちが体動かすの得意やないって茜は知っとるやろ?」




 みどりは茜からの手伝いの要請にめんどくさそうな顔を隠そうともしない。茜はそんなみどりの態度に怒った様子を見せることなく、単純に体の心配をしていた。




「知ってますけど。だからって一切体を動かさないって言うのはダメですよ」


「ブーブー、うーん。まぁたまにならええか」


「そうですね。私たちは別に体が衰えることもないですし。気分転換でやるくらいでいいですよ。私の仕事がなくなってしまいそうですし」


「そこまでは頑張るつもりないけどな。まぁ、畑をどのぐらい大きくするかでも変わると思うけど」




 少しぐらいならいいかと請け負うみどりだったが、規模をどれくらいまで広げるかをまだ決めてなかったと考え込む。




「そこまで大きくしたところで私一人じゃあ世話しきれないでしょうしねー」


「小さすぎたらうちの所で買い取れなくなるんよな。まぁ、一応桔梗にも手伝わせる予定やし大きくても大丈夫やろ」


「あれ、作った野菜うちで買い取るんです? それってあたし時間外労働では?」




 作った野菜をどうするかを知らなかった茜はみどりの言葉に目を瞬かせる。そんな茜から目を逸らすみどりは少し言葉に詰まった後に口を開く。相変わらず顔をそむけたままだ。




「まぁ、うん。頑張ってや」


「あれ? そこは否定するところでは!?」


「いや、否定できる要素が見当たらなくってな? まぁ、そこら辺の給料は上げるさかい。それで堪忍してや」




 給料を増やすと言われた茜は喜ぶ様子を少しも見せずに、むしろげんなりした様子で肩を落とす。




「給料増えても使うところがないんですよねー」


「まぁ、買いたいものなかったらお金たまる一方やしな」


「そうなんですよー! 服とかも買うけど一着買うとしばらく着ちゃうから。新しく買うのも結構先になっちゃうし」




 茜はお気に入りの服をたくさん買って着まわすからか、一度にお金を消費するが、そのあとからはまたお気に入りの服が見つかるまでほとんど何も買わないみたいだ。そのことを知っているみどりは呆れた口調で首を振る。




「別に一張羅にする必要もないのに。お気に入りの服だけをたくさん買うから先になるんやろ?」


「いやー、好きな服だけ着ていたいのでそれだけになっちゃうんですよ」


「毎日同じ服やさかい。たまに不安になるんよな」




 お気に入りの服が一種類だけの場合は、その服だけになるので出会うたびに同じ洋服を見ることになる。茜はそんなみどりに首を傾げる。




「ちゃんと洗濯してますよ?」


「それは分かるんやけどな? お店の制服ならまだしも、私服が毎日一緒なんはなぁ」


「綺麗なので大丈夫なんです! というかそれを言ったらもみじちゃん達もずっと同じ巫女服じゃないですか」




 みどりはもみじ達のほうをちらっと見てから口を開く。




「あの巫女服は汚れないようになっとるしなぁ。というか、巫女服はうちの制服のようなもんやろ」


「なんて便利な。私たちにはあーいうの作れないんですか?」


「作れんことは無いんやけど、この世界でしか使えんで? もみじ達もこの世界じゃなくて、静人さんの家に行った時は普通の洋服着とったやろ?」


「確かに。え、あれってそういう意味で着ていたんですか?」




 もみじ達の巫女服はこの世界においてのみ綺麗なまま保存できる。だからこそもみじ達もいつも同じ服を着ている。




「せやよ。まぁ、せっかく外に出るんやし、選んでもらった洋服着て行った方が喜ぶっていう意味もあったけどな?」


「そうだったんですね。ちなみになんですけどあの巫女服を着て外に出た場合どうなるんですか?」


「うーん、しばらくは何ともないんやけど、少しずつ崩れていく感じやな。まぁ、またこっちに戻ってきたら修復するんやけど」


「しゅ、修復機能までついてるんですか……。こっちで畑仕事する時用に作ってもらえませんか?」


「ええよー。デザインはどないする? うちが考えよか?」


「そうですねー。お願いしてもいいですか?」


「その話私も混ぜてもらっていいかしら?」




 みどりは唐突に話に入ってくるかなでのほうを向き呆れたような声を出す。そこには今までずっとお酒を飲み続けていたはずのかなでがいつものように立っていた。呂律がおかしくなっていることもなく、ふらふらしている様子も無く素面と言われても信じられるほどだ。


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