第72話


「また、たくさん作ったね」




 少し呆れたような声色で苦笑いを浮かべる静人に、かなで達もやりすぎたと思ったのか目を逸らす。




「ま、まぁちょっと作りすぎてしまった気がするけど、たくさん人がいるから大丈夫よ!」


「まぁ、明日からも食べれるからいいけど。それじゃあもうそろそろ時間だしあっちに行く準備しようか」


「そうね。あっちでピザをもう作ってるのかしら?」


「桔梗ちゃんは残って食べてたらしいからもう作ってると思うよ」


「ふふふ、桔梗ちゃん初めて食べるんじゃないのかしら? 喜んでくれてたらいいわね」


「そうだね。それじゃあみんな準備は出来たかい?」




 持って行く荷物を車に積み込んでいた静人が確認を取るとみんなが頷く。




「私は大丈夫よ。もみじちゃんと青藍ちゃんは先に行って準備しとくって言ってたわ」


「汁物持って行くの意外に大変なんやなぁ。あ、うちも大丈夫やで。あっちでの準備ってなんや?」


「みどりさんはいいじゃないですか、そこまで大きくないですし。私カレーですよ結構大きめな鍋ですよ? 料理を広げる場所の確保とかじゃないんですかね」


「ま、まぁ、そんなに作るとは思ってなかってんよ。みんなが食べたら軽くなるから、帰るときは楽になることを期待しとこな」


「結構作りましたからねー。楽になるんですかねー?」




 凪は張り切って作った結果大きな鍋で作ることになったカレーを重たく感じながら車に積み込む。みどりは汁物だったからか沢山は作らずにいたので小さめの鍋だ。みどりは凪の鍋を見て首を横に振る。




「そら知らんけど。でもまぁ、みんなで食べたら減るやろ」


「それもそうですよね。みどりさんもいっぱい食べてくださいね」


「まぁ、美味しかったし食べれるだけ食べるわ。うちも食べるんやし、凪さんも食べるんやで?」


「はい!」




 簡単に味見だけしていたみどりの言葉に少し安心した凪は元気に返事をする。そうして全員車に積み込んで数日ぶりに森の前に着いた。




「おー、久しぶりにここに来たなー」


「ここからいけるんですよね?」


「せやでー、静人さんらは何回も来とるから躊躇いなく進むなー」




 各自料理を手で持ちながら先に進んでいく。静人とかなでは何回も来ているからか足取りがスムーズだが、他のみんなはそこまで来ないからか少し不安そうにキョロキョロしている。しばらく歩いていくと見慣れた神社が見えてくる。




「もうここに通い続けて数か月はたっていますからね。あ、神社が見えてきましたね」


「えっと、青藍ちゃんともみじちゃんはもう先に行ってるんだよね?」


「そうそう、先に茜さんの所でピザの用意をしているはずだよ」


「なるほど。ご飯食べるところって新しく作った家の方だよね?」


「そうだよ。あ、見えてきた。あれだね」




 見慣れた神社から歩いていくこと数分で青藍が作った家が見えてくる。近づくことでどんどんと大きくなっていく家に感心していると、ピザの焼ける匂いが漂ってきた。




「おー! これが新しく作った家か!」


「青藍ちゃんが作ったって本当? すごいね」


「しっかりした家だなー。お、ピザの匂いすごいな!」




 立派な家に感心していると、そんな静人達の姿が確認できたもみじ達が手を振って読んでくる。もみじは元気そうだが、青藍は机にうつむいた姿勢で動かず、桔梗はそんな青藍を見て気まずそうな表情を浮かべている。




「あ、お姉さん達来た! こっちだよー!」


「やっと来た。お腹空いた」


「わしだけ先に食べてたから罪悪感が半端ないのだ」


「私たちが来てからは食べてないから許す。ピザ美味しかった?」


「美味しかったのだ。熱々のチーズが伸びて面白かったし、今回は一種類だけだったのだ。でも、本当ならもっとたくさんの種類があるらしいのだ」


「そうなの? お魚のピザもある?」




 青藍にとっては、魚を使っているものがあるかどうかが、まず最初に確認するべきことなのか、すぐ近くでピザを焼いている茜に問いかける。茜はそんな青藍に対して申し訳なさそうな顔で答える。




「あー、お魚のピザはどうだろう、魚介類のピザなら作ったことあるけど。青藍ちゃんは貝とかは好きじゃないの?」


「貝と魚なら魚がいい」


「そ、そっか。でも、嫌いなわけじゃないのよね?」


「うん。でもお魚のピザ無いの残念」




 一切ぶれない青藍を見て諦めたのか、苦笑しつつも次のような提案をする。




「作ろうと思えば作れるけどねー、ちょっと今は材料がないかな。出来れば練習もしたいし。また今度作ったときに食べてもらえないかな?」


「食べる。たくさん食べる」


「うん、その時はよろしくね。あたしも頑張るからさ」




 すぐに食いつき嬉しそうに何度もうなずく青藍に微笑みながら、焼けたばかりのピザを差し出す。皆がそろったことで我慢することをやめた青藍が受け取り小さな口でハムハムと食べだす。そのあとで美味しいと青藍に言われて茜は嬉しそうに笑っていた。




「ピザの匂いもすごいけど、カレーの匂いもやっぱり負けてないわね」


「むしろかき消している感じがするよね」


「たくさん作りましたからみんなで食べましょうね? かなでさんも静人さんも、ね?」


「う、うん。それはもちろん食べさせてもらうよ。でも先にピザをもらってもいいかな? 久しぶりに食べるから楽しみにしていたんだ」


「それはもちろん。好きなときに食べるのが一番ですからね」




 凪が持ってきたカレーの匂いに、やっぱりカレーは臭いが強いなと改めて認識したかなでと静人が話し合っていると、凪が近づいてきて鍋を突き出して来る。その圧力に気圧されて頷きつつも自分の主張を通す静人。かなではいつの間にかいなくなっていた。凪も無理やり食べさせたいわけではなく、その提案に当たり前だと笑顔で下がっていく。そんなときにピザを持って茜がやってきた。




「はい、静人さん。ピザですよ」


「おや、持ってきてくれたんですか。ありがとうございます。うん、いい匂いですね。いただきます」


「どうですか?」


「美味しいですよ。シンプルな味付けですけどそれだけにピザの美味しさがよく分かります」




 いきなりのピザ作りだったうえに、みんながわざわざピザ窯まで作ってくれたことに緊張していたのか、茜は静人の言葉に安心したように笑った。




「そうですか。良かったです。ここまでしてもらったのに、美味しくないピザを作ってしまったらどうしようと思ってましたから」


「あはは、僕は特に何もしてませんよ。今回一番頑張ったのは青藍ちゃんなんじゃないかな? 青藍ちゃんは何か言っていましたか?」




 照れくさそうに頬をかきながらも、静人の質問にはっきりと答える。




「はい、美味しいって言ってくれましたよ。もみじちゃんも桔梗ちゃんも美味しいって言ってくれました。へへへ、なんか照れくさいですけど喜んでもらえたのは嬉しかったです。まぁ、青藍ちゃんは魚のピザが食べたいって言ってましたけどね。それも今度ピザを作る機会があったら披露しようかなって思ってます」


「あはは、青藍ちゃんは魚が大好きですから。せっかくピザ窯を作りましたし月に一回ぐらいは作ってもよさそうですね」


「飽きられないように頑張りますね」




 頑張ると意気込んだ茜は静人に一言断りを入れてその場から離れると、ピザ窯のほうに向かって行った。そんな茜を見送っているとグラが酒を片手にやってくる。




「おーい、静人。お前でも飲めそうな酒持ってきたから一緒に飲もうぜ!」


「あはは、一緒に飲みたい気もしますけど、今日は車に乗ってきたのでまた今度にしてください」


「あー、そういえば荷物運ぶのに車出したんだっけか。しゃあないな、それじゃ、また今度一緒に飲もうぜ」


「はい、その時はお願いします」




 断られたことにがっくりと肩を落としたグラだったが、仕方ないことだと諦めがついたのか、また今度飲むことを約束してかなでと凪のほうに向かって行った






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