第46話
神社に出てきたかなでは見たことない女性に驚いて立ち止まる。
「お姉さんどうしたの?」
「ひ、一人増えてるわ! しず君どうしよう!」
かなでは人が増えているのを予想してなかったのか動揺している。そんなかなでを見て茜は少しショックを受けた顔で頬をかく。
「え、あれ、あんまりあたし歓迎されてない?」
「そんなことないわ! グッドよ! 身長は私より少し小さいくらいね。体は少し小柄かしら? 髪の毛は茜色、あら、服装は巫女服じゃないのね?」
「お、おう? 巫女服は仕事するとき邪魔だから着てないけど」
「かなで、相手が困ってるから離れようね?」
「あはー、かなでさんは元気やなー。なんとなく察しはついとると思うけどこの子が前から紹介したいって思ってた茜や」
「あ、よろしくお願いします。茜です」
「うん。よろしくお願いします。僕の名前は静人、こっちがかなで。ほら、かなで」
「よろしく! いきなりなんだけどこういう洋服に興味ないかしら?」
「ふりふりしてるのはちょっと……」
「そう、それならこれは?」
かなでが持ってきていたデザイン案を見せてもらった茜は、フリフリした洋服に少し興味をそそられた顔になっていたが自分には似合わないと遠慮していると、かなではなんとなくそのことを察したのか少し控えめのデザインを見せつつもみじ達をこっそり呼ぶ。静人はそんなかなでを見て諦めた顔でみどりに話しかける。
「あー、まぁ、かなでは後でいいか。面接は終わったのかい?」
「終わったというか静人さんらにも面接してもらおうと思って」
「僕たちにかい? 僕としては大丈夫だと思うよ? かなでがあそこまで張り切ってるし、あとはもみじちゃん達しだいかな」
「私は大丈夫。力仕事に役立ってくれさえすれば」
「お姉さん優しそうだから私も大丈夫!」
「それならいいんじゃないかな? でも、力仕事を任せても大丈夫なのかい?」
「問題なしやよ。あの子はあんな感じやけど動物の姿にふさわしい力持ちやさかい」
「そういえば何の動物なんだい?」
「イノシシやよ。猪突猛進ガールやな。性格もそんな感じや」
「そんな感じには見えないけど。イノシシか。そういえばこの森って動物いないんだよね?」
「おらへんよ。虫もおらへんし木も普通の木やないしな」
「え、普通の木じゃないのかい?」
「木材として加工して使う分には普通の木やさかい安心してええで? ただ、木を伐採してもちゃんと処理せんとすぐに木が生えてくるで?」
予想してなかったのか少し遠い目をしつつ考え方を変えて思考を切り替える。
「あー、まぁ、木材に困らなくて安心と思うことにしよう。村を作るみたいな話だったけど結構めんどくさかったりするのかい?」
「静人さんが言うように木材には困らんからな。その加工はせんといかんけど茜がおるから運搬も楽やしな。静人さんらに分かりやすく言うと重機以上の力が出せるさかい。まぁ土地も余っとるから村を作ることに関してはそこまで面倒やないと思う。どちらかというとここに集まる人を探す方が大変なんやない?」
「茜さんもここで生活するってことでいいのかい?」
「あー、その話はしとらんけどしばらくはここで生活してもらいつつ運搬作業の手伝いやな。うちもこっちに家を建てるかもしれんけど、あっちで生活するのは変わらんし。包丁とかの刃物も作れるようにしたいところやけど、まぁ、それは任せることが出来る人材が出てきてからやな」
「刃物は危ないからね。ないとは思うけどそれが原因で村で刃傷沙汰が起きたら大変だし」
「絶対にないとは言いきれんから難しいところやな。ところでもうそろそろ茜助けたほうがええんやろうか?」
「そうだね。まさかまだ話してるとは思わなかったけど。でも、もみじちゃん達も交じって楽しそうだしもう少しはあのままでいいんじゃないかな」
「あー、もみじ達を味方につけてフリフリを着させようとしとるなぁ」
「まぁ、本当に嫌がってたら押し付けたりしないから大丈夫じゃないかな。そういえばかなでがもみじちゃん達の晴れ着姿が見たいって言ってたんだけど用意とかってお願い出来たりするのかな?」
「そういえばもうそろそろ挨拶回りの時期やったなぁ。あ、晴れ着の件は大丈夫やで。さすがに神社にお参りは……、ここですればええか。静人さんらの分も用意しよか?」
挨拶回りに辟易してるのか嫌そうな顔でため息をついた後に静人の質問に笑顔で答える。
「僕は遠慮しとこうかな。自前のがあったと思うし。かなでの分はお願いしようかな。どうせならもみじちゃん達とお揃いのほうがいいと思うし。いくらくらいかかるかな?」
「ただでええよと言いたいけど、なんかそっちが納得せん気がするからあとで資料持ってくるわ。もみじちゃん達の分はうちが払うさかいそこは大丈夫やで。これでもお金は持っとる方なんや」
「出したいところだけどそこは甘えようかな。かなでのだけでもお金が飛びそうだし」
「そんな高いところには頼むつもりないから大丈夫やよ」
高いところには頼むつもりはないとは言いつつもどこまでが高いの範囲なのか分からなかった静人は笑って誤魔化しつつ場所を囲炉裏のある方の小屋に移動する。
「あはは、もうそろそろ料理を作ろうと思うんだけどあっちは任せてもいいかな?」
「ええよ。今日は何作るつもりなん?」
「この前クリスマスだったからね。とりあえずチキンは焼きたいなって思って、ケーキは用意できなかったからまた明日かな。青藍ちゃんが喜ぶから魚も持ってきたけど、僕もそこまでレパートリーが多くなくて焼き魚しか作れないからね」
「まぁ、焼き魚でも青藍は喜ぶんやない? というか魚って単語聞こえたん? 桔梗も一緒やけど」
「いや、わしはちょっとあっちの洋服談議についていけなかったから青藍についてきただけなのだ」
魚の言葉に反応したのか青藍が桔梗と一緒にこっちに来ていた。桔梗はかなで達についていけなかったのか疲れた顔でついてきたのに対し、青藍は無表情ながらもそわそわしていて疲れが見えない。
「私が魚の単語を聞き逃すことは無い。というかあっちで服の話するよりも魚を焼いてるのを見てる方が楽しい」
「楽しいのかい? それなら魚は任せてもいいかな?」
「大丈夫。なんとなく焼き加減は分かる。桔梗も一緒にみる?」
「うむ、わしも一緒に見ておくのだ。火を見てると落ち着くのだ」
「それじゃあ頼もうかな。魚のことよろしく」
「まかせて」
自信があるのか胸を張る青藍は疲れた顔でぼーっとしている桔梗に声をかける。ただただ火を見る桔梗に少し危なさを感じながらも、静人は笑顔で任せて囲炉裏の中心に金網を設置し用意していたチキンを焼き始める。香ばしいスパイスの匂いにつられたのかもみじ達もデザインを見るのをやめてふらふらとやってくる。茜は切なそうな顔でお腹を押さえている。
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