第36話
「というわけで今日から小屋を作っていくことになったわけだけど。この前渡した本は読んだ?」
「うん。読んだ。立派な小屋を作る必要はないから大丈夫だと思う」
「そうかい? 作業用なんだよね? 立派なものを作らないと作業中に小屋が崩れてしまうかもしれないよ?」
「それは怖い。でも、最初だしそこまで手の込んだもの作るのは危なさそう」
「そこらへんは僕も手伝うから大丈夫」
「そういえばおにいさんは作ったことあるんだったね。でも大きいのは作ったことないんでしょ?」
「そうだね。でも普通の一軒家ぐらいの大きさなら作ったことあるよ?」
「それで十分な気がする。というかあまり大きくしすぎても困る」
「それじゃあ、それを目指して作っていこうか。なんだかんだで一人で作ったことあるから大丈夫だよ。時間はかかるけど……。ここなら天気の心配とかしなくていいからいいね」
「そうか、天気が悪いと明日に回すことが出来ないのか。そう考えるとここの世界は楽なんだね」
「いろいろと準備して回避するけどね。その準備を必要としなくていいからいいね。そのかわり便利なものがあふれてるのがあっちかな。こっちは電気を使って動かすことが出来るものが使いづらいからね」
「電気、みどりに聞いたけど便利なんだってね」
「うん。便利なものが多いね。ここにも冷蔵庫とかは欲しいかな。そういえばそのみどりさんは今日来ないのかい?」
「仕事が残ってるから今日はやめとくって。また今度来るって言ってたよ」
「そっか。かなでともみじちゃんは料理を頑張ってくれるらしいから僕たちも頑張って小屋を作ろうか」
「うん。頑張る。さっきはああ言ったけど。どうせなら立派な小屋を作ってもみじちゃんを驚かせたい」
「そうだね。頑張って作ってみようか。どんな反応をしてくれるのか楽しみだね」
軽く会話をはさみながら小屋を建てる予定の場所に移動する。そんな二人とは別の場所でもみじとかなでが料理を作り始めていた。
「お昼ご飯までまだ少し時間あるけど作っちゃおうか」
「うん! でもせっかくのご飯が冷めちゃうんじゃ?」
「大丈夫。今回作る料理は冷めても美味しい料理だから!」
「そうなの? そんな料理もあるんだ。えへへ、作るのが楽しみだよ!」
「しず君たちは小屋づくりを頑張るみたいだから私たちは料理作りを頑張りましょうね」
「うん! 頑張るよー!」
やる気をみなぎらせた声を出すもみじは右手を上に突き出して元気に返事を返す。そんなもみじを見たかなでもやる気をみなぎらせたようで一緒に右手を空に向かって突き出していた。
「今日は料理を作りながら一緒に本を読む練習もしましょうか。もみじちゃんは文字はどこまで読めるようになった?」
「えへへ、この前もらった本は読めるようになったよ! えっへん!」
「そうなの!? もみじちゃんはすごいわねー。こんなに早く読めるようになるなんて」
「えへへー。早く読みたいなって思って頑張ったんだー! 絵が描かれててお腹が空いてるときは辛かったけど、文字が読めるようになるとどんどん楽しくなってきて、覚えていったらいつの間にか全部読めるようになってた!」
「偉いわ。頑張ったのね。よしよし」
もみじの頭に手を乗せて頭をなでなでしていると、少し恥ずかしそうにしながらもはにかみながらされるがままになっていた。
「よし、そんな偉いもみじちゃんにはまた今度別の本を持ってくるわね」
「ホント!? もっといっぱい料理の本が読みたい!」
「分かったわ。料理は地域ごとにあるから私の住んでる場所以外の料理が書かれた本も持ってくるわね」
「分かった! 楽しみ!」
「それじゃあ本を読む練習はしなくていいみたいだし料理を作り始めましょうか」
「はーい」
「今日作るのは筑前煮よ。本に書いてあったかしら?」
「ううん。書いてなかったよ」
「そう。それじゃあ一緒に作っていきましょうか。干しシイタケを戻したりするのがホントは必要なんだけど時間がかかりすぎるから持ってくる前に戻しておいたわ」
「どのくらいかかるの?」
「八時間くらいだったかしら? 一日が二十四時間だってことを考えると長いわよね」
「長い!」
もみじはかなでの言葉に驚きつつも料理の準備を進める。味がしみこみやすくなるようにこんにゃくに切り込みを入れて大きめの賽の目切りにする。水と一緒に鍋に入れて火にかけ沸騰したら水にさらして引き上げる。次に鍋に火をかけて温めゴマ油をなじませる。そのあと蓮根、ごぼう、人参、先程切ったこんにゃくを入れて中火で温める。食材全体に油をなじませたあと干しシイタケと戻し汁を加える。落し蓋をして中火で煮つつ出てくる灰汁をしっかり取り除いていき、野菜に火が通るまで煮たら砂糖、濃口醤油、みりんを加えて落し蓋をしてさらに煮る、最後に煮汁が半分ほどになったところでインゲン豆を加えて軽く煮しめれば完成。
「こんな感じね。私が考えたわけじゃなくて調べたレシピだけど美味しかったから伝えたかったのよ」
「そうなの? お姉さんたちが好きな物なら私も頑張って覚える!」
「ふふ、別に私たちが好きな物じゃなくても覚えていいのよ? 最初は自分が好きな物から覚えたほうがいいわね」
「好きな物……、はんばーぐ?」
「ホント、ハンバーグが好きねもみじちゃんは」
「だって最初にお姉さんたちに食べさせてもらった思い出の味だから」
「そっか、ありがとう、嬉しいわ。思い出の味になるほど美味しかったなら良かった。それじゃあ明日はハンバーグを練習しながら一緒に作ろうか」
「ホント!? わーい!」
ハンバーグを食べられるのが嬉しいからか喜びを体全体で表現しているもみじを微笑ましいものを見る目で見つつ筑前煮を冷まして味をしみこませる。
「あっちはどこまで行ったのかしらね」
「青藍ちゃんはやり始めると止まらなくなるからお昼ご飯の時は呼びにいかないと来ないかも」
「そうなの? あと少ししたら味がしみこむからその時に呼びに行きましょうか」
「うん! 先に食べるのはかわいそうだもんね!」
「そうね。あ、筑前煮だけだと寂しいから鶏肉を使ってもう一品作りましょうか」
「どんなの作るの?」
「うーん。唐揚げかしらね?」
「唐揚げ! おいしい!」
「ふふ。それじゃあ作りましょうか」
唐揚げを作ることにしたかなでは作り終わった後にまだ食べに来ない静人達を呼びにいくことにした。
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