第15話
お昼に家に帰り久しぶりにゆっくりとした日常を過ごすことになった静人達は、せわしなく動いていた反動か何かしていないと落ち着かないようすで、インターネットで調べ物をしていた。
「何を調べてるの? しず君」
「井戸から楽に水を汲むための仕掛けについて……かな。それと、水質調査キットについて」
「楽になる方法はあった?」
「楽になる方法というか、昔はこういうのがありましたっていう情報だけだね。やっぱり業者がいるからね。井戸については任せてくださいみたいなのが多いよ。水質調査についても同じだけど、これに関しては機械を使って検査するんだろうからしょうがないよね。かなで、一番検査項目が多いのにするかい? 飲むだけだったらいくつか下のやつでもいいんだろうけど」
「そうね、検査するのも今回だけでしょうし、最初は高いのにしておきましょう。とりあえずこれは注文するとして、井戸についてはまた今度ね。幸い用水路は出来上がったし、お風呂はそれを使えば良さそうだものね」
「沸騰させれば飲んでも大丈夫かもしれないけど、それは最終手段かな? 寄生虫とか菌とかはなんとかなるかもだけど、水をガラスとかですくってみると沈殿物は他にもあるからね」
「お風呂は川の水を使うってことで決まってたけど、そうなるとろ過装置とかも作ったほうがいいのかしら」
「ろ過装置か……、あそこの水は見た感じ綺麗だったし自作のでも大丈夫かもね。そのまま飲むのはあれでも、沸騰させればいいしね」
「よし、そうと決まれば調べましょうか!」
「そうだね、幸いというべきか時間はあるからね」
二人は体力が有り余っているのかインターネットで調べていき、それだけでは足りないと思ったのか本屋に行ってサバイバルの本を探していた。ある程度本を買いそろえた後、二人で本に書かれていることを実践して技術を得ようとしていた。
そのころ子供二人はというと
「よし、帰ったね……」
「帰った。まさかあそこまでしてくれるとは思わなかった」
「本当ならお兄さんたちにも家の中で休んでもらいたかったんだけどね」
「あそこまで家の中が汚いとは思わなかった。正直、二週間もあれば終わると思ってた」
「二週間どころか二か月たった今でも終わってないけどね」
「まさかここまでとは……、明日までには終わらせよう? おにいさんたちが来る前に全部終わらせて、いい加減泊まれる場所用意しないと」
「いつまでもお外はダメだよね! というか私たちもお兄さんたちと一緒に寝たい! 夜にお話とかしたい!」
「部屋に招待しても一緒に寝てくれるとは限らないような」
「や、やっぱり。そうかな?」
「多分。でも、やってみなくちゃ分からない」
棒読みだが強い意志を感じさせる声を聴いて、もみじも元気が出たのかこぶしを握り締めてやる気を見せていた。
「だよね! よし、今日も頑張って明日の夜には家の中に招待できるようにしないと!」
「台所とかも片付けないと……。そういえばお兄さんが本を貸してくれるって言ってたし、本が読める場所も用意しないと」
「近くに用水路でお水汲める場所も用意してもらったし、ぎりぎりまで片付けよう」
「分かった、そのあとはもちろんお風呂?」
「うん! 汚れる前にお風呂の水の準備だけしとこうか」
「うん。汚れてからお水汲むのは、汚れる気がして嫌だもんね。私が汲んでくるからもみじちゃんは薪の準備よろしく」
「分かった! 薪の準備終わったら先に掃除始めとくね?」
「うん。お水は任せて。行ってくるー」
青藍は水桶を持つと、相変わらずの棒読みでもみじに声をかけてから走り去っていく。
「あんなに急いだら汗かいちゃいそうだけど、大丈夫かな」
残像が見えるくらいの速さで道を往復する青藍に不安を感じながらも、森の中に入って乾いた木の枝を集め始めた。
「もみじちゃん……、疲れた……」
「やっぱり……、少し休憩してから始めようか」
「うう、でも早く終わらせたい。頑張る」
「大丈夫ならいいけど……。本当に大丈夫? 無理してない?」
「大丈夫! いける!」
「よし、じゃあ頑張ろうか」
それから数時間の間、疲れた目で汚くなった床を雑巾で拭く二人の姿が続いた。
「ふふ、ふふふ、終わらない」
「もみじちゃんしっかり!」
コツコツと静人達が来ていた二か月の間も掃除を進めていたが、数えきれないほどの年月を経た汚れには歯が立たず、いまだに残っている状態である。
「せめて……、せめてこの部屋だけでも! お兄さんたちと一緒に過ごせる場所を」
「大丈夫。この部屋までは終わるから。だからそんな泣きそうな顔しないで?」
「うん……」
「別にまだ時間はあるんだから」
「私たちは……! 時間あるけど、お兄さんたちは人間だから……」
「それは……」
もみじは青藍の言葉に声を荒げて反論しようとしたが、静人たちのことを思い出して声が少しずつしぼんでいく。もみじが急いで作ろうとしていたのは、ただの人間である静人達が自分達より早く死んでしまうことをちゃんと知っているからだ。そのことはもちろん青藍も知っている。だからこそ言葉に詰まるのだ。
「……青藍ちゃんごめんね。でも、お兄さんたちとは数十年しかいられないから、だからたくさん想い出がほしいんだ」
「ううん、そうだよね。私だって想い出欲しい。ふふ、それじゃあ今日は徹夜だぁ!」
「え? えええええええええ!?」
「だって少しでも多く、思い出がほしいんでしょ? だったら、少し寝ないくらい余裕だよ」
「寝なかったらお兄さんたちに怒られそう……」
「それも思い出の一つだよ! よーし、そうと決まればお水換えもたくさん用意しないとね」
「ほ、ホントにやるの?」
「本気だよ? ほら、思い出作りのために頑張ろう? それに、私たちは人間じゃないから少しは無理しても大丈夫だよ」
「そうだね……、よし、今日は徹夜だ!」
「うんうん」
二人でテンションを上げて、楽しそうに掃除をしている二人の姿からは、先ほどまでの悲壮感のようなものはなくなっていた。結局風呂にも入らず、本当に徹夜して騒ぎながら掃除をしていた二人だったが、近所迷惑になるはずもなく、終始楽しそうな声を上げて次の日の朝になった。
「私、何であんなに騒いでたんだろう……」
「あ、急に素に戻らないで。私も恥ずかしくなる」
二人のテンションは朝になると戻っていき、大きな声で騒いでいたことを思い出してか顔を赤らめながら二人で顔を見合わせると、お互いに何も言わずにお風呂の準備を始め、お風呂に入り静かに眠りについた。その間ひたすら無言を貫いて……。
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