第8話

「ハンバーグって食べたことないから楽しみだね。青藍ちゃん」




 静人達と別れた後二人は火の近くで暖まりながら楽しそうにおしゃべりしていた。




「だね、温かくてすごくおいしいってことしかお師匠も教えてくれなかったし。お師匠も自分だけ食べるんじゃなくて、私たちの分も買って来てくれればよかったのに」


「しょうがないよ、私たちはお師匠の弟子なんだから。我慢しないと。それにお兄さんたちが作ってくれるっていうし、えへへ、楽しみだね」




 もみじは食べたことのない未知の料理に思いをはせながら、体を揺らしてそわそわと帰りを待つ。そんなもみじの様子を呆れた目で見ながらため息をつく。




「なついた? というか、餌付けされた感じ? あ、焼き芋どうする?」


「え? あ、そういえば作ってる途中だった! ど、どうしよう。お腹空いたし食べてていいのかなぁ? 怒られるかな?」


「怒りはしないと思う。もともとは食べる予定だったんだし。でも、私たちだけ先に食べるのは、いや」


「うん……。待ってようか。あ、畑にあるニンジン食べる?」


「うん。おにいさん達が持ってきたのはあれだけど、いつも食べてるのだったら。料理も時間かかるだろうし食べとこう。ついでにもう火が消えかけてるし落ち葉とかも持ってこないと。ということで任せた。私はここで火の番してる」


「えー、もう、いいけど。それじゃあ、野菜持ってくるね。野菜持ってきたら私がここで火の番するから、青藍ちゃんはそのあと落ち葉とか集めてきてね?」


「えー、良いよ。しょうがないな」


「じゃ、行ってくるー。すぐ戻ってくるから!」


「いってらー」




 青藍は抑揚をつけないでもみじと話しながら、少し肌寒いのか火に木の枝を追加して、火に手をかざしながら縮こまりながらもみじに手を振る。もみじは青藍のそんな様子にクスッと笑った後手を振り返して走っていく。




「ホントにもう、大丈夫かな……。人間と私たちとじゃ生きる時間が違うこと、気が付いてる?」




 青藍のひとり呟いた言葉は誰にも聞こえずに消えていった。




「ただいま! これだけあればお腹がすくことないかな?」


「おかえり。そうだね、私たちしか食べないだろうし、これくらいでいいと思う」


「そっかー、お兄さん達は人間さんだから生で食べたりしないのかな」


「洗ったら食べられるから食べれるとは思うけど……。すぐに帰ってくるだろうし、食べて待っておこう?」


「分かった。あ、野菜は私が持ってきたんだから落ち葉とかお願いね?」


「あー、そういえばそういう話だった。じゃあ行ってくるー」


「いってらっしゃい。あ、できるだけ近くで集めてね? お兄さん達が帰ってきたら迎えに行くのは私なんだから」


「はーい、それじゃあそこらへんで探すから、おにいさん来た時教えて」


「分かった。それじゃあよろしくね!」




 青藍は最初静人と出会った場所の周りをウロチョロしながら燃えそうな枝を拾いにいく。そこで、持ち運べるものがないことに気が付いたのか一言もみじに断りを入れると、近くにあった一輪車を使い落ち葉を集める。




「どんなもんだい。これだけあればしばらくは大丈夫」


「おー、あとはお兄さんたちが帰ってくるのを待つだけだね。早く帰ってこないかなー」


「あと少し、多分」


「あ、野菜食べる? その前に手を洗ったほうがいいかな」


「すぐそこに川があるしそこで洗ってくる。ついでに水も入れてくる。かご貸して」


「いいよー。ありがとう、助かるよ。お兄さんたちにお水も頼めば良かったかな」


「さすがにそこまでしてもらうのは悪い。じゃ、行ってくる」




 もみじから水を入れる容器を渡された青藍は、一輪車に容器を積むと近くの川まで走っていった。そこまでの距離はないのですぐに目的地に着いた青藍は、ひとまず自分の手の汚れを落とすために水でバシャバシャ洗った後、火の玉を空中に浮かばせて手を乾かし、そのあとに一輪車から容器を下ろしてその中に水を汲んでいく。




「うん、こんなもんかな? 一回沸騰させないとだけど……。さてと、戻るかー」




 あまりもみじを待たせるのも悪いと思った青藍はパパっと水くみを終わらして、一輪車を押しながら走って戻っていく。




「わ、早かったね。あ、水は私が家の中に入れとくから青藍ちゃんはここで休んでて」


「よろしくー」




 青藍は水の入った容器を運ぶのに疲れたからか、もみじの言葉に頷くと焚火の近くに座り込む。全力疾走をしたせいか汗が冷えて寒かったのだ。そんな座り込む青藍の耳に季節違いの風鈴の音が聞こえる。




「あ、お兄さんたちが帰ってきたね。ちょっと行ってくるね!」


「はーい。私はここで待っとくよ」




 青藍は動く気力もわかないのかその場から動こうとせずに、もみじの言葉に手だけ振って立ち上がろうとすることはなかった。もみじもそれは分かっているからか青藍に何も言わず、森の奥に走っていった。しばらくするとその場からもみじの姿が消えた。




「お兄さん、お姉さん! おかえり! ……ってすごい荷物だね」


「ただいま、あはは、あれもこれもと欲張ってたら荷物の量が多くなってしまってね」


「どうせならおいしいものを食べてもらおうと思って買い物してたら、ちょっと買いすぎちゃって。余ったらちゃんと持って帰るから大丈夫よ。さすがに冷蔵庫とかないでしょうし」


「れいぞうこ? なにそれすごいの?」


「えっと、うんすごいものよ。七輪とかも持ってきたけど正解だったかもね」


「七輪? あ、七輪なら家にあるよ! 師匠が持ってきたのがある!」


「あ、七輪はあるんだ。それなら持ってこなくてよかったかも」


「焼けば何とかなるってのが師匠の口癖だったから」


「そ、そっか。それは確かにそうなのかもしれないけれど。まぁいいわ、……そういえば何だけど、もみじちゃんはハンバーグって食べたことないのよね?」


「え? うん。食べたことないよー」


「それならハンバーグのことは誰に教えてもらったのかしら?」


「えっとねー、お師匠に教えてもらったの。すごく暖かくておいしかったとしか教えてもらってないから楽しみなんだー」


「そう、やっぱり師匠なのね。……どうしてくれようかしら。……そういえば、お師匠様はどんな感じの見た目なのかしら?」


「えっと、人の見た目の時は私と同じくらいの年齢で、普段は犬の姿で駆け回ってるって話は聞いたことあるよ」


「あれ、その人の姿って決まった姿とかはないの? ほら、もみじちゃんがもう少し年を取ると大人のお姉さんになるとか」


「なる人はなるよ? お師匠は、時代はエコだって言って子供の姿のままだけど」


「ちなみになんでお師匠って呼んでるの?」


「えっとね、私がお腹空いて倒れてるときにご飯をくれたの。そのあとにここの神社を紹介してくれて、ここなら畑があるから最低限飢えることはないはずだって言って、そのまま旅に出たの。それでたまに帰ってくるんだ」


「そ、そうなの。……?(何か違和感があるのよね……)」




 かなではもみじの話に何か違和感があるのか首を傾げながら相槌を打つ。考え込むかなでだったが、何に違和感があるのか分からず考えるのを一旦諦めることにした。




「あ、そうだ、早くご飯作らないと青藍ちゃんがお腹減ったって暴れちゃうかも。すごい楽しみにしてるみたいだから」


「そうなの? なんとなく感情を隠すのが上手い子だった気がしたのだけど」


「表情だけを見ると分からなくなるけど、ちょっとした仕草で分かるよ。楽しみにしているときは、普段よりも働き者になるっていうのが一番わかりやすいかな」




 もみじは少し慌てた表情でかなでを引っ張る。かなでも時間をかけたいわけではないからか、話をしつつも引っ張られるのに逆らわずに歩きだす。静人も何も言わずにその後ろからついていく。


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