第6話

 もみじは自分の家の敷地内に入ると同時に巫女姿になると、キラキラした瞳で静人のほうを見つめる。




「お兄さんお兄さん、約束のあれ持ってきてくれましたか!?」


「もちろん、イモはこっちにあるだろうと思って少ししか持ってこなかったんだけど良かったかな?」


「うん! 冷暗所に保管してるよ! 土付いたままだから先に洗わないと! ずっと楽しみにしてたんだ! ずっと前に食べたきりだったから」


「そうなの? お姉さんも頑張るからね!」


「うん! あ、よろしくお願いします。お姉さん」


「ふふ、よろしく。あ、もみじちゃんって巫女服以外の洋服に興味ある?」




 もみじの小動物らしいしぐさに目を奪われてるかなでは嬉しそうに微笑んだ後、自分の荷物を見て思い出したのかメジャーを取り出しながらもみじと同じ目線になるように立つ。




「洋服? ですか? うーん……。興味はあるけど、ここから出られないしお金持ってないから」


「興味はあるのね? それだったら私の知り合いに洋服作るのが趣味の知り合いがいるんだけど、その人に頼んでみようか?」


「ホント!? あ、でもいいのかな……。迷惑になったりしない?」




 嬉しそうな笑顔で飛び跳ねるもみじだったが、迷惑になることを恐れたのか途端にズーンと沈んだ表情になる。かなではカメラを荷物から取り出しながら明るい声でもみじに話しかける。




「大丈夫! あ、写真撮ってもいい? 体のサイズとかも測りたいんだけどいいかな?」


「しゃ、写真!? 大丈夫? 魂取られたりしない?」




 写真に対して怖い話でも聞いたのか、体を震わせながら上目遣いでかなでを見つめるもみじに、無理をさせたくないかなではカメラをしまってメジャーだけを手に持つ。




「大丈夫だよ。どうしても怖いならサイズだけでもいいけど」


「う、うー。写真はやめときます。怖いです」


「そっか。大丈夫、よしよし。サイズだけでもある程度作れるから。大丈夫だよ。あ、しず君、焼き芋の準備ちょっとの間お願いしていい? パパっとサイズ測るから」




 メジャーを持っていないほうの手で頭を撫でながら顔を静人のほうにむける。




「いいよ。家から持ってきた分のイモで準備しとくから早めにね? 場所は……、もみじちゃん、この前の落ち葉は前集めた場所にある?」


「うん! あの場所から動かしてないよ」


「そっか、それならそこで待ってるから。かなでのことよろしくね?」


「分かった! お姉さんのことは任せてお兄さん」


「あれ? 任せるの逆じゃないの? ねぇねぇ」




 静人ともみじのやり取りに疑問を感じたかなでは静人の頬をツンツンつつくが、静人は笑顔のまま奥に歩いて行ってしまった。否定せずに歩いて行った静人を頬を膨らませながら見ていたかなでだったが、もみじの期待している目を見てすぐに表情が柔らかくなる。場所は動かずにその場でサイズを測ることにした。








「よし、もみじちゃんのことはかなでに任せてこっちはこっちで準備しないとね。まず芋をよく濡らして、大目に塩を振って濡れた新聞紙で巻く。その上からさらにアルミホイルで巻く。このやり方ならしっとりした焼き芋になるって書いてあったし喜んでくれるかな。そうだ、違いが分かるように、同じ芋でアルミホイルだけで巻いたやつも作っておこうかな。火をつけるのは集まってからでいいかな」




 焼き芋の準備ができたからか暇になった静人は、落ち葉の周りを何かで囲ったほうがキャンプのようになる気がして囲えるものを探すことにした。




「落ち葉の周りは大きめの石で囲もうかな。小枝もあったほうがいいよね」


「おにいさん、ここで何してるの?」




 あまり待ち合わせの場所から離れないように近場で石と小枝を拾っていると、さっきまで誰もいなかった場所に、もみじの巫女服に似た格好をした少女が立っていた。髪の色が紫みを含んだ暗い青色で瞳の色も同じ色だった。ただどちらかというと瞳が人間よりも猫に近い。声に抑揚はあまりなく顔も無表情だからか人形のようにも感じる子供だった。




「君は猫目なんだね。あ、僕の名前は静人。ここに住んでるもみじちゃんと一緒に、焼き芋をするための準備をしてるんだよ」


「焼き芋……。あ、こほん。もみじちゃんはどこにいるの?」


「もみじちゃんならかなでと、あー、僕以外にもう一人いるんだけど、その人と一緒に玄関近くにいるはずだよ。もうそろそろこっちに来ると思うけど」


「こっちに来るってここに来るの?」


「あー、えっと見えるかな。落ち葉を集めてるところがあそこにあるんだけど、そこに来ることになってる。僕はちょっとやりたいことあるから、君はそこで待ってたらいいんじゃないかな?」


「なるほど、分かった。ありがとう。おにいさん。あ、私の名前は青藍。よろしく」


「あはは、よろしくね、青藍ちゃん」




 青藍と名乗った女の子を、手を振りながら見送ったあと、手ごろなサイズの石を拾い集めて、持ちきれなくなったところで落ち葉のところに持っていく。周りを見るとかなでともみじの姿はなく、さっきこっちに来たはずの青藍の姿もない。




「あれ? もしかしてかなでのほうに向かったのかな? だったら、僕一人だけで石集めは終わらせれそうだ」




 一つ息を吐いた後少し足りなかった石と小枝をまた集めに行く。二往復して、もう十分かなと思ったところでかなで達の声が聞こえた。




「あ、お兄さん! お待たせしました。青藍ちゃんが来たからお姉さんが……」


「だってこんなかわいい子が来たらテンション上がるじゃない。しょうがないわよね、しず君」


「あ、うん。もうそこは諦めてるよ。青藍ちゃんは何か嫌なこととかされなかったかい?」


「? 大丈夫だよ。むしろ面白かった。近くにいて居心地がいい人だし」


「そうかい? それなら、よかったよ。よし、みんな集まったし焼き芋始めようか。火をつけるからちょっと離れてて」


「あ、火なら私がつけれるよ」


「そうかい? あ、これ使う?」


「ううん、大丈夫」




 静人が渡そうとしたライターを受け取らずに素手で近寄ったかと思うと、手のひらを上に向ける。かわいい声でえいと言ったかと思うと手のひらから数センチ離れたところに火の玉が現れた。




「すごいわねー。ライター持ってこなくてよかったかもね。ふふ、もみじちゃん。すごいすごい」


「えへへー、これぐらいならお安い御用だよ」


「それなら今度からもみじちゃんに火をつけるの任せようかな」


「うん、任せて!」




 和やかな雰囲気で三人で笑いあっている中ひとり、青藍の顔が引きつった笑みを浮かべていた。


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